労働契約法施行後、外資系企業が製品値上げ

労働契約法の施行前から、産業界の一部は合法的な雇用リスク回避に着手していた。その象徴的なものが中国の大手通信施設メーカーである華為技術の「希望退職 (主動辞職)」「就職競争(競業上崗)」をスローガンとした雇用対策だった。

もう一つの注目すべき現象は、いわゆる便乗値上げである。労働契約法を理由に、労働コストが増大したとして製品の値上げに踏み切る企業が続出している。特に、最も早く動き出したのがドイツの総合電機メーカーシーメンスだった。シーメンスは1月4日から、正式に冷蔵庫、洗濯機の価格を3%~5%引き上げたが、その主な理由として同社が挙げたのは、「新労働契約法の実施による労働コストの上昇」であった。同じような理由で、ドイツの自動車部品メーカーのBosch、松下電器産業など一部の合弁、外資家電メーカーも値上げを予定している。

今回、労働契約法施行を理由に値上げを要求する企業のほとんどが、なぜか外資系企業である。外資系企業が値上げを着々と準備する間に、一部海外メディアと研究機関も「労働契約法の衝撃」をテーマとした記事をセンセーショナルに書きたて始めた。例えば、先日JPモルガン・チェースが買収を発表した米国の証券会社であるBear StearnsアナリストのMohan Singh氏は、「新労働契約法がもたらす超過コストについては今なお論争中であるが、5%~15%のコスト増になるのではないか」と述べている。

低賃金に慣れた外資系企業に衝撃

労働契約法の影響は本当にそれほどのものなのだろうか。実のところ、同法により増えた企業のコストとは、より正確に言えば、本来企業が負担すべきであったのに負担してこなかった違法コストなのだ。仮に企業が同法の定める関連規定を遵守していれば、負担すべき超過コストもごく限られたものとなるはずだ。

ただ、新法の下では、企業が労働者の利益を尊重せず、法律を守らない場合には、これまでにないくらい巨額の賠償を求められることもありうる、ということなのである。先進諸国の法律に比べれば、中国の労働契約法における労働者保護規定は、依然として控え目なものだ。

労働契約法により外資企業の雇用コストが増えたというよりは、むしろこれまであまりに長い期間、中国の法律が労働者保護の点であいまいであった状態に、外資系企業が慣れ過ぎていたと言ったほうがいい。いかなる国の経済発展史をみても、社会経済の発展が一定の水準に達すれば、労働者保護の問題が正面から取り上げられるようになるものだ。

家電業界を例にしてみよう。外資系の某有名家電メーカーは販売員のほとんどを短期労働契約で雇っているが、正式な労働契約は締結したことがない。販売員の基本給は300~400元(約4,500円~6,000円)しかなく、主に実績給(ボーナス)に頼って生活している。

労働契約法が施行されてからは、企業が従業員と直接正式な労働契約を締結しなければならなくなったため、企業が思うがまま従業員を解雇したり、給料を削減したり、罰金を科したりすることができなくなった。こうした状況が、外資系家電メーカーが値上げに走る原因のひとつになっているのである。