ブッダはインディアン? ジャパニーズ?

某月某日の午前4時、もう何が何でも寝なくちゃ、と思いつつもセカンドライフ(Second Life)をふらついていたときのことです。友人Yから「ちょっと来てよ。2分だけ。1分でいい!」という強引なテレポートが送られてきました。飛んでいくと、テレポート直後で周囲の様子が描画されない中、友人Yとそのボーイフレンドが言い合っているチャットが聞こえてきます。そのうちだんだん骨董品屋の店内が見えてきて、わたしのモニタに現れたのは、こんな銅像(下の写真)とどうしても同意が欲しい勝ち気なYの言葉でした……。

「彼ったらね、ブッダはインド人だって言ってきかないの。ブッダって日本人!? よねっ!?」

100リンデンドルで売られていたブッダ像。何かが違います。でも、これって誰でしたでしょうか……

想定外の出来事にクラクラしてしまったのですが、ブッダが何人かという議論は置いておいて、まずYたちはこの金ピカをブッダだと信じていてるようです。たしかに、彫刻には「Buddha 100リンデンドル」というタグがついてます。

これは何かが間違っています。にわかに東洋の文化の伝道者の使命を感じたわたしは、ちょうどログイン中の店舗のオーナーさん(こういうことはすぐに調べられます)に、彫刻のタグが間違っていることを連絡しました。オーナーさんはわざわざお店に出向いてくれて説明してくれました。「あのーですね、あの金ピカのデブで半裸の男性の像は、ボクの彼女が売ってるものなんです。彼女は大学で仏教を学んでいるので間違っていないはずです」。

気付けば東の空が明るくなった頃までにわたしができたことは、Yに「とりあえずブッダは日本人ではないみたい」ということを納得してもらうことだけでした。ただし、Yカップルもオーナーさんも東洋的なテイストを、特に日本には格別な思いを抱いてくださっていることは、痛いほどに感じました。愛は誤解で成り立つものなのかもしれません。

時代はBonzaiだ

こんなことがあり、気になっていたセカンドライフでの日本関連のあれこれをちょっと集めてみました。以下は、ヘンテコな日本からマジメな日本まで、あくまで筆者が見聞きしたセカンドライフでの日本のごった煮です。

まずは、問題のブッダです。前出の「ブッダ」の他にも、さまざまな仏像がセカンドライフでは流通しています。SL Exchange(SLX)出品されているアイテムをBuddhaで検索してみると、仏像だけで50件ほどがでてきました。

たとえば、オンライン状況を表示するガジェットで、マスコットにブッダを使っているらしいのですが、

といったアイテムがさっそく引っかかりました。

ただし、特に無理のない仏様の方が多く見受けられます。真面目で、かなりイケてる仏様もありました。

人気のホロ・ブッダ・シリーズのひとつ、緑色バージョンです。ホロ・ブッダはSLXだけで少なくとも数百人以上が購入しています。作者は、たぶんイタリアのクリエイターです

「Bonzai」という言葉も、初めて見たときから気になっていた言葉です。最初はバンザイの誤植だと思ったのですが、どうも、盆栽のことをBonzaiとも言うようです(Bonsaiもあり)。Bonzaiアイテムは、仏様よりもっとポピュラーです。セカンドライフでも人気の職業であるDJにボンザイ・ベイビーと名乗る方がいるぐらいですから、きっとホットなアイテムなのでしょう。

ライブ情報の看板でしょうか。「薬物の天使」ではサムライDJのBonzai Babyさんがお皿を回しているようです

オフィス街の一角のような雰囲気のモールで、ひっそり売られていたBonsaiまたはBonzai。クリエイターはドイツの方で、リアルでも趣味が盆栽なのでセカンドライフでも盆栽をやっているのだそうです

日本人向けのシムではないのに、盆栽はもとより、日本アイテム全般を扱かっているところもあります。テーマパーク「ニッポン」って感じでしょうか。中でも、壊れた櫓漕ぎ舟(2,000リンデンドル)を置いた漁村を見たときは、感動しました。渋すぎます。何度かこのシムを散歩していたときに、土地のオーナーでありクリエイターの方にお会いすることができたのですが、彼女は日本語は話せないドイツの方ということでした。

日本や東洋がテーマのシム。壊れた櫓漕ぎ舟って渋すぎません?

サムライ、ニンジャ、スシ、キモノ、ゲイシャ、といったキーワードに関連したアイテムもご多分に漏れず、セカンドライフでも出回っていて、中にはリアルの世界での常識を超えたデザインのものもあります。面白いのは、外国の方が日本を誤解しているのではなく、日本人のクリエイターの方がわざと作った空想の産物もたくさんあることです。

海外のユーザーがそれを見て、空想的なアイテムとわかって面白がっているのか、それがそのまま日本的なものだと思っているのか、わたしにはわかりません。でも、誤解も愛のうち。ときにはヘンテコかもしれないセカンドライフの日本アイテムに触れているうちに、リアルの世界で海外を知らないわたしでも日本人のアイデンティティを感じるようになったのは確かです。

とても有名な日本人クリエータの方の衣料品店。ミニの着物やもんもん模様の浴衣など斬新な和服もあります

アバタの体型や顔つきまで日本人風にしているアメリカの女の子。この衣装は、日本人クリエーターの方が作った花魁のコスチュームだそうで、お値段も高かったらしいです

上と同じ人。これも花魁の衣装なのだそうです。スペースオペラな雰囲気が漂っていると思うのですが、いかがでしょう

ラテックス製の衣料品を扱かっていたお店にあったキモノ。振り袖部分は、よく見ると腕からリングでぶらさがっています。クリエイターが日本人かどうかはわからなかったのですが、日本人でここまで想像力の羽を広げたのなら、ある意味すごいと思います

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