――最終報告書において、情報通信法を「レイヤー型体系」とするとしている枠組みについては、どうお考えでしょうか。
最終報告書では、コンテンツ、伝送インフラ、さらにその妥当性・必要性を今後検討するとしているプラットフォームの3層(レイヤー)構造的な仕組みを想定しているようですが、こうなるのはある意味必然的なのではないでしょうか。ただ、「ホリエモン」※に関わる騒動によって、「放送と通信の融合」という言葉に、一種のダーティ・イメージが付いてしまったのは不幸なことと言わざるをえません。
※元ライブドア社長の堀江貴文氏。「ネットと放送の融合」を掲げ、フジテレビの経営への関与を目指し、同社の株を保有するニッポン放送の株を取得した。だが、2006年2月、証券取引法違反で起訴された。
ブロードバンドの普及率の向上によって、今後、放送コンテンツをネットで流すという動きが急激に加速するのは当然のことです。これによって、例えば関西や九州出身の人が、都内にいながらにして、阪神タイガースやソフトバンクホークスの試合を見ることができるようになれば、既存の放送に関するビジネスモデルも変化するわけです。
また、放送大学にしても、現在のところ地上波ではUHF局で東京と千葉の一部でしか見られないというおかしな状況ですが、こうした不便も、ネットに流せば解決するわけです。現にソフトバンクはすべての授業をネットで行う大学を開設しています。ネットを使えば、単にコンテンツを流せるだけでなく、双方向性を活用することもできます。それに比べて現在の状況を見ると、あるテレビ番組などでは、クイズの解答を電話で受け付けるというようなことをやっているような状況にあるわけです。
「電波の有限性」が適用されないネット放送
メディアのなかでも、新聞などと違って、放送には「電波の有限性」という特殊な規制根拠があてはまるものと考えられてきました。利用できる周波数帯域は有限なため、非常に貴重な資源だからです。
ところが、ケーブルテレビや衛星放送の普及は多チャンネル化を可能にしました。今後はネットを使った放送が登場して普及することにより、さらに多チャンネル化が進みます。現在でいう放送が、ネットで流されたとしても、それには「電波の有限性」という特殊な規制根拠があてはまらないはずです。ただ、大規模災害や安全保障上の観点などから、コンテンツ配信を全部有線に頼ることには限界がある、というような問題もあります。
その一方で、技術的な発展や利便性の向上は、電波の有限性を前提とした放送ビジネスの収益体制を根底から覆すものです。そのため、放送業界にとってはまさに激震です。こうしたことから、善し悪しは別として、抵抗が生じるのは当然のことで、情報通信法の最終報告書に関するあつれきは、非常に厳しいものになることが予想されます。