総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」は6日、通信・放送の融合やインターネットに関する新たな規制を設けることを目的とした「情報通信法(仮称)」に関する最終報告書をとりまとめた。今年6月に発表した同法の中間取りまとめ案に対しては、日本民間放送連盟(民放連)などから「社会的影響力」によるメディア分類に関して批判があった。最終取りまとめでは、視聴者数や有料・無料の区別など中間の時点ではなかった基準を明記した。今後同省は2010年の通常国会提出へ向け、法制化作業を進めるとしている。

3層構造の構想が一歩後退

中間とりまとめ案の公表後、同研究会は8月から9月に4回にわたって公開ヒアリングを行い、その後、座長である一橋大学名誉教授の堀部政男氏ら7人の構成員による議論を行ってきた。

4回にわたる公開ヒアリングで議論になった中間取りまとめ案に関する主なテーマは、

  1. 「コンテンツ」「プラットフォーム」「伝送インフラ」の各法体系に分けるという3層(レイヤー)構造の是非
  2. コンテンツに関する法体系において、ホームページなど「公然通信」を規制するための「共通ルール」を設けるとしたことに関し、「表現の自由」や「通信の秘密」に抵触しないか
  3. 同じく「公然通信」に関し、違法・有害情報を規制するための「ゾーニング規制」を設けることは、「表現の自由」に抵触しないか
  4. コンテンツに関する法体系において、現在の地上波放送などが含まれる「特別メディアサービス」と、それ以外の「一般メディアサービス」を分類する際、「社会的影響力」を基準としているが、その基準が明確でない
  5. 電子商取引サイトや携帯電話の公式サイトなどを対象とした「プラットフォームに関する法体系」は必要かどうか

など。

1と5に関し、今回の最終報告書では、「プラットフォームレイヤーを他のレイヤーから独立した規制として立法化する必要性は大きくない」とし、3層構造の構想が一歩後退した形となった。また、各レイヤー間の規律のあり方については、「原則自由」としながらも、「レイヤーを越えた取引規律および垂直型兼営規律など、レイヤー間規律の整備の必要性に関して検討する」としている。

ホームページなどには「遵守すべき最低限の配慮事項」を整備

2の、コンテンツに関する法体系に関しては、中間取りまとめ案に示した「公然通信」「一般メディアサービス」「特別メディアサービス」の分類を、最終報告書では、公然性を有しない「私信など特定人間の通信」、ホームページなどの「オープンメディアコンテンツ(仮称)」、「一般メディアサービス(同)」、「特別メディアサービス(同)」に分類。

特定人間の通信に関しては「通信の秘密」を保障、残りの3種類のメディアサービスに関しては「表現の自由」を保障すると明記した。

また、「オープンメディアコンテンツ」に関しては、ホームページ上の違法情報に関し、「全ての者が本来遵守すべき最低限の配慮事項を具体的な刑罰を伴わない形で整備」すると同時に、「行政機関が直接関与しない形での対応を促進する」とし、公開ヒアリングで消費者団体代表者らが述べた、「国家による情報関与は危険」との声に一定の配慮を示した形となった。違法でない有害情報については、「フィルタリングの提供の在り方などを検討する」としている。

視聴者数や有料・無料で社会的影響力を判断

「特別メディアサービス」と「一般メディアサービス」に関しては、両サービスを「現行の放送」と「今後登場が期待される放送に類比可能なコンテンツ配信サービス」とした上で、「特別な社会的影響力の程度」に基づき、両サービスを分類するとした。

分類の基準については、(1)映像/音声/データといったコンテンツの種別、(2)画面の精細度といった当該サービスの品質、(3)端末によるアクセスの容易性、(4)視聴者数、(5)有料・無料の区別、などを判断指標にすることが考えられるとしている。またこれらに加え、「市場の寡占性および当該市場におけるボトルネック性の有無とその程度」も、判断指標の候補として挙げられている。

以上を見ると、公開ヒアリングでテーマとなった主な論点に関し、一定の配慮を示していることが伺える。特に、メディアを分類する基準については、一定の指標を示した形となっている。

また、中間取りまとめ案で言う「公然通信」は、最終報告書で「オープンメディアサービス」とされたが、同サービスを規制するルールは「最低限」にし、「行政関与」はなくしたものとするなど、中間取りまとめ案に比べ、「表現の自由」にかなり配慮したものとなっている。

だが、最終報告書をとりまとめた最後の研究会でも、一部構成員からは「表現の自由に配慮しすぎているのではないか」とのコメントが出されていた。法制化へ向けた今後の議論を注意深く見ていく必要があるといえる。