総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」が今年6月に公表した「情報通信法(仮称)」の中間取りまとめ案に対する第4回の公開ヒアリングが9月19日に開かれ、インターネット協会や東京都地域婦人団体連盟(東京地婦連)などが意見を述べた。この中で、東京地婦連事務局次長の長田三紀氏は、違法・有害コンテンツの規制には一定の理解を示しながらも、「情報規制への国の関与は戦前を思わせる」とし、歴史的教訓を生かした議論の必要性を訴えた。
同ヒアリングでは、長田氏のほか、インターネット協会副理事長で同協会が運営するインターネットホットラインセンター長の国分明男氏、テレコムサービス協会サービス倫理委員会委員長の桑子博行氏が参加した。
はじめに、国分氏が、「インターネットにおける違法・有害情報対策の現状と課題」と題し、いわゆる「闇サイト」や「自殺サイト」などの関連事件などで社会的な関心が高まっている違法・有害情報の現状について詳しく述べた。
同氏が所属するインターネット協会は、通信事業者、サービス提供者、機器メーカー、報道機関、学識経験者など幅広い関係者から構成される財団法人で、インターネットの最新技術や最新動向に関する各種セミナーの開催、フィルタリングサービスの普及啓発などのほか、インターネット上での違法・有害情報の通報を受け付けるインターネットホットラインセンターを運営している。
同センターでは、違法情報については警察庁に通報するとともに、違法と認められた情報についてはプロバイダや掲示板管理者に削除依頼を行う。また、有害情報については、契約約款などに基づく措置を、プロバイダや掲示板管理者に依頼している。
受け付ける違法情報の種類は、わいせつ物公然陳列や児童ポルノ公然陳列などのいわゆる「ピンク系」や、規制薬物の広告などの「薬物系」のほか、預貯金通帳の譲渡の誘引などがある。また、有害情報としては、拳銃などの譲渡、爆発物の製造、児童ポルノの提供などの違法行為を、直接的かつ明示的に請負・仲介・誘引する情報などがあげられる。
年間6万件にも達する違法・有害情報の通報件数
国分氏によると、インターネットホットラインセンターへの2006年6月から2007年5月までの1年間の通報件数6万10件のうち、違法情報は9,439件にのぼるが、そのうち検挙件数は18件にとどまっている。また、プロバイダや掲示板管理者へ削除依頼した違法情報4,299件のうち、実際に削除されたのは84.2%にあたる3,620件、同様に削除依頼した有害情報1,297件のうち、実際に削除されたのは74.2%にあたる962件となっている。
違法情報や有害情報について削除依頼する際の削除依頼先には段階があり、「コンテンツ作成者・掲載者」に削除依頼しても削除されない場合は、「掲示板管理運営者」「掲示板レンタル事業者」「データセンタ(サーバホスティング/ハウジング)事業者」の順に削除を依頼していくこととなる。
国分氏は、同センターの課題について、「違法・有害情報の海外への引越し」「違法・有害情報のフィルタリング」「匿名性の制限の問題」の3つを挙げた。海外への引越しの問題について国分氏は、「国内サービス事業者から契約解除されても、コンテンツを海外サーバに移転させ、海外サーバのIPアドレスへの変更をDNS(Domain Name System)業者に依頼するだけで、同じURLで情報発信が再開できる」と指摘した。
この問題に関し、通信・放送の総合的な法体系に関する研究会構成員で一橋大学名誉教授の堀部政男座長が、「どのような対策を行っているのか」と質問したのに対し、国分氏は「米国、欧州、韓国、台湾などで組織する『INHOPE(International Association of Internet Hotlines )』という国際的なネットワークがあり、相互に削除依頼を行っているが、児童ポルノ以外は各国によって法律が違うことなどがネックになっている。また、米国では、わいせつ物陳列に関する法律が軽い州にサーバを置くケースもある」と、対策の難しさについて述べた。