8月19日~21日(米国時間)の3日間、プロセッサに関する国際学会「Hot Chips 19」が開催された。本稿では、21日の午後のモバイルCPUのセッションにおいてAdvanced Micro Devices(AMD)のJonathan Owen氏によって発表された次世代モバイルプロセッサ「Griffin」(開発コード)についてレポートする。

Hot Chips 19にてAMDの次世代モバイルプロセッサ「Griffin」についての発表を行うJonathan Owen氏

コアは既存のものを流用

Griffinの概要は既に発表されているが、学会レベルの詳しい発表は今回のHot Chips 19が初めてである。Griffinは65nmプロセスで製造されるモバイル機器やノートPC向けのデュアルコアプロセッサである。各コアに1MバイトのL2キャッシュを搭載するという構成になっている。総トランジスタ数は225.6M、消費電力(TDP)は従来のモバイル系列と同じ35Wだという。

GriffinのプロセッサコアはAMD64のコアをほとんどそのまま流用しており、今回の開発はノースブリッジ部を中心に行われたという。ノースブリッジはチップ外へのインタフェースがHyperTransport3(HT3)になり、高速になっただけではなくモバイル用の機能強化が図られた。ノースブリッジはGriffinの省電力化の司令塔的な役割を果たしていると筆者は考える。

2つのコアの電源を分離、電源電圧とクロック周波数は独立に可変

前述のとおりプロセッサコアはAMD64を流用しているが、実はCPU部分の消費電力も大幅に改善されている。その第一の手段は、2つのコアの電源を分離し、電源電圧とクロック周波数を独立に可変にしたことである。従来はコア電源が共通だったので、片方のコアの負荷が軽くても電圧はビジーなコアと同様にクロック周波数だけを下げることで省電力化を図っていた。消費電力は電源電圧の2乗に比例するので、独立に電源電圧を落とせるという効果は大きい。

そして、もう1つのプロセッサコアの省電力化技術は、CPUのクロックを8段階という細かい刻みで可変にしたことである。これにより、きめ細かい制御ができるので、消費電力を最適化できる。最低クロックについては、従来は最高クロックの1/3だったが、Griffinは1/8まで下げられるという。最低周波数が下がったので、コアの電源電圧をさらに下げることが可能で、負荷の軽い場合はより省電力化が図れる。

ノースブリッジ部の詳細

ノースブリッジ部では、HT3ではデータレートを5.2Gbpsに高速化し、×16のHT3では各方向が10.2Gバイト/sと、従来のHT2に比べてバンド幅を2.6倍にした。また、DRAMコントローラもインテリジェンスが強化された。具体的には、DRAMページのオープン状態を考慮しメモリアクセスの順序を最適化してアクセス時間を短縮する機能や、アドレスパターンをモニタして一定のアドレス間隔のアクセスが続くとCPUから読み込み命令が来る前に先回りしてDRAMのプリフェッチを行う機能などが追加された。

省電力化の面では、HT3は高性能になっただけではなく、フルのバンド幅が必要ない場合には自動的に使用するレーン数を減らして、電力を節約している。

ノートPCでは何もしていない時間が多いが、そのような場合はDeep Sleep状態に移行し、CPUコアはDeep Sleep、HT3は全レーンが切断され、DRAMはセルフリフレッシュを行い、消費電力の多いDRAM出力ピンをフロートにして電力を節約する。具体的な値は発表されなかったが、この状態ではかなりの省電力化が図れるようである。

Griffinはメインメモリをディスプレイバッファとして使用するUMA方式なので、このDeep Sleep状態で画面のリフレッシュが起きると、GPUからHT3を経由してプロセッサに接続されたDRAMにアクセスが行われる。しかしこの場合もノースブリッジだけが起き上がり、CPUは眠ったままで処理が進む。しかしこの状態では、×16のHT3のうち、上りは2レーン、下りは8レーンが動くだけである。そして描画のためにGPUがフルに動くと、×16のHT3がフルに動くというように、きめ細かい制御が行われる。

このように各種の省電力化を徹底しており、稼働時間の長いノートPCの出現が期待できる。しかし発表者のOwen氏によると、Griffinを搭載したノートPCが店頭に並ぶのは、2008年の中頃になる見込みだという。