鮮やかなブルーが目を引くGoogle Pixel 10周年記念の日本限定モデル「Isai Blue」(Google Pixel 10a。以下、Pixel 10a)。5月20日の発売に先立ち行われたトークセッションでは、Googleと株式会社ヘラルボニー(以下、ヘラルボニー)両社が登壇し、プロダクトに込めた想いや開発の舞台裏を明かした。
Pixel 10周年でGoogleが目指したこと
ベースとなる Pixel 10a は、カメラやバッテリー、GeminiなどのAI機能を搭載し、デバイスとしての完成度を全方位に高めたモデルだが、Isai Blueが特筆すべきなのはスペックの向上だけではない。使う人の意識をそっと変えてしまうような、新しい可能性が搭載されている点にある。
そして、それは世界を見渡しても日本限定モデルにしかないと、Googleの阿部和子氏(Pixel製品企画アジア太平洋事業統括 リージョナル ディレクター)は発想の原点を次のように話した。
「10周年という節目に、今までにやったことのない挑戦をやろうと決めて完成したのがこのIsai Blueです。私たちは『人がスマホに合わせるのではなく、スマホが人に合わせる』世界観を追求していますが、最先端の技術開発が加速するなか、人間味が失われることへの懸念は常にあります。
もっと人間らしい可能性を形にできないかと考えたとき、思い浮かんだのがヘラルボニーさんでした。作家たちのアートが持つ力強さや人間味をお借りすることができれば、Pixelの新しい扉が開けるのではないかと考えたんです」。
Isai Blueに作品が起用されたアーティストは4人。社会のしがらみや制約にとらわれないストレートな表現が 最新テクノロジーと融合した。
エンパワーメントという共通のゴール
Googleからの働きかけで10周年プロジェクトのパートナーに指名されたヘラルボニー。執行役員の國分さとみ氏は、当時の驚きをこう語る。
「なぜ、グローバルテック企業のGoogleさんが私たちに声をかけてくれたのか最初は不思議でした。でも阿部さんから『スマホは人の可能性を広げるキャンバスである』というお話を伺ったとき、(テクノロジー優先のイメージとは対照的に)人に向けたものづくりをしてるんだと、その姿勢や哲学に親和性を感じたんです。
私たちは、障害のある作家の異彩を、支援ではなく『美しいアート』として社会に届けるというアプローチを取っていますが、一人ひとりの力を引き出す『エンパワーメント』という共通のゴールを共有できたとき、迷いなく大きな挑戦に踏み出すことができました」。
Isai Blue の端末に起用された4人の作家たちと11の作品。今作が画期的なのは、専用BOXや端末に貼るステッカーといった外観の飾りに留まらず、スマホの心臓部といえるUI(ユーザーインターフェース)にまで、彼らのアートを深く浸透させたことにある。もともとは計画になかった数々の挑戦を日本チームの発案で推し進め、Google本社をも動かす流れになったと阿部氏は明かした。
「まず、PixelのカラーはBerryやLavender、Fogなど『自然界に存在するものから名前を付ける』というグローバルな方針があります。ですが、私たちはどうしても『Isai(異彩)』というネーミングにしたかった。反対されることを覚悟し、理論武装して説得に挑みましたが、意外にもGoogle本社の担当チームが『ぜひそれでいこう!』と共感してくれたのは嬉しかったですね。
また、壁紙やアイコン、ウィジェッドも一貫したグローバルデザインを使うのが通例ですが、今回は特別に日本限定デザインの開発も承認されています」。
Pixel史上初! 日本だけのカラーとUIデザイン



Isai Blue三者三様のホーム画面。よく見ると、見慣れないデザインのアイコンが並ぶ。(左)水上詩楽 Shigaku Mizukami/やまなみ工房「タイトル不明」(中央)工藤みどり Midori Kudo/るんびにい美術館「無題」(右)伊賀 敢男留 Kaoru Iga/「My World」
Googleのグローバルルールを超え、日本だけの限定カラーとUIが実現した唯一無二のスマホ。システムの開発を担当したパブロ氏は、その道のりは平坦ではなかったと振り返る。
「今回のプロジェクトは個人的にも非常にエキサイティングな挑戦でした。作家の皆さんの作品は非常に複雑かつパワフルです。だから、そのままの色を抽出するだけでは、テキストの読みやすさなどのユーザビリティが損なわれてしまう。そこで、私は作品ごとの筆使いやカラーレイヤーを入念に研究し、Isai Blue専用のカラーパレットを作り上げました。
数えきれない試行錯誤を繰り返した結果、アーティストの個性と使いやすさが調和する、美しいUIに仕上げることができたのではないかと思います。ぜひ皆さんに触って確かめてほしいです」。
異業種の2社が、共通のゴールに向かい対話を重ねてきた2年以上の月日。完成を迎えたいま、何を思うのだろう。
阿部氏「Isai Blueのように、ソフトウェアがアートと統合したものはおそらく前例がない試みです。今回、ヘラルボニーさんと組むことで、AIの進化が加速する時代にあっても『みんなで一緒に生きていく』というインクルーシブな視点をチーム内で再確認することもできました。使う人が幸せになる、気持ちが温かくなる端末が作れたと思っています」。
國分氏「1日に何度も触れるスマホに作家たちの作品が入り込む。これは、私たちだけでは決して成し遂げられない革新的なことです。私たちの目的はアートを特別なものにするというより、接点を増やすことで障害への意識変革を起こすこと。これ以上ないほど身近な形で、そしてこれまでにない規模でそれを実現できたことを嬉しく思います」。
AIの登場でテクノロジーの進化が目まぐるしい時代だからこそ、人間らしさへの渇望が強まっていくのだろう。Isai Blueは、きっとその時勢の先を行くマイルストーンとなるスマホだ。作り手の熱い想いを存分に聞いた筆者は、「なんだか楽しそう!」というシンプルな動機から、早速このデバイスへ乗り換えることに決めた。
編集部メモ:ヘラルボニーとは?
「異彩を、放て。」をミッションに岩手から世界へ、障害のイメージ変容と福祉を起点に新たな文化の創出を目指すクリエイティブカンパニー。お膝元である盛岡の街には障害のある作家が描くアートが日常に溶け込む。今回の記者会見場となった「ISAI PARK」は、ストア、ギャラリー、カフェを併設した複合型の施設として、多くの人が行き交う盛岡最大のデパートの1階に位置し、市内のホテルや、今後70カ所に増える給水スポットの一部にもアートが起用され、地元で着実にタッチポイントを増やし続けている。















