理化学研究所(理研)と東海ゴム工業は、両者が2007年8月になごやサイエンスパークに設立した「理研-東海ゴム人間共存ロボット連携センター」(RTC)が介護支援ロボット「RIBA(Robot for Interactive Body Assistance)-II」を開発したことを発表した。

同ロボットは2009年8月に公開されたRIBAの後継機。RIBAは、理研の制御、センサ、情報処理技術と東海ゴム工業の材料、構造設計技術を融合し、双腕型ロボットとして人間(61kg)を実際に抱き上げて移乗させることに成功したロボットながら、介護施設で最も重労働である床上に寝た認知症患者などの抱き上げ移乗ができないこと、負荷重量が不十分であることなどの課題が残されていた。

こうした課題を克服するため、研究グループは今回、後継機としてRIBA-IIを開発。姿勢を低くして床上に寝ている人を抱き上げるために、腰に2個の前後屈曲関節を設けたことにより、床からの抱き上げとベッドからの抱き上げの両方ができるようになったほか、モータの小型化と省電力化のために、腰関節に補償ばねを導入した。この結果、無負荷で前方に屈曲するときはばねを引っ張る力を蓄積し、人を抱き上げるときはその復元力を利用することで、比較的小出力モータで人の抱き上げを可能としたほか、触覚センサとして新たに開発したオールゴムのSRセンサを採用して、柔軟性とセンシング精度の両立を実現した。

RIBA‐IIの機構。腰に2個の前後屈曲関節を設けることで姿勢を低くすることができ、床やベッドからの抱き上げができるようになった。さらに、腰関節に補償ばねを導入することによりモータの小型化と省電力化を実現した

SRセンサには、静電容量を利用したC型と、電気抵抗を利用したR型の2種類を用意。

C型SRセンサとR型SRセンサの原理

C型は柔軟ゴム電極を印刷した2枚のゴムシートで誘電層を挟んだサンドイッチ構造をしており、ゴム電極を用いた静電容量型触覚センサとしては世界初のものとなるという。

C型SRセンサの構成(概念図)。柔軟ゴム電極を印刷した2枚のゴムシートで誘電層を挟んだサンドイッチ構造をしている

同センサは、外部から力を受けて変形(薄くなる)した時に、電極間の静電容量変化(増加分)を検出して圧力を求める。C型SRセンサは構造がシンプルで大面積に成形しやすく、柔軟、高耐久性の特徴があるため、これをRIBA-IIの腕と胸に導入することで、被介護者の体重検出と触覚を用いたロボット操作が可能となったとのことで、今後、被介護者の姿勢検出およびそれによる安全性向上の制御(落下防止、抱かれ心地向上)にも取り組んでいくとする。

一方R型SRセンサは、ポリマーに充填する導電性フィラーの粒子形状と量を最適化することで、どのような歪みでも導電パスが切断され、電気抵抗が増加する現象を利用した柔軟センサであり、従来の導電性ゴムセンサに比べて応答が速いことが特徴だ。RIBA-IIでは、走行時または抱き上げ時に人や異物との接触を検出し、危険と判断した場合に高速かつ自動的に停止する必要があるほか、握手などのイベント向けの機能も必要なため、台車部分や、抱き上げ時に人との接触を検知する必要があるハンド部分にR型SRセンサを埋め込んだ。

SRセンサの導入部位。直接被介護者と接する前腕内側、胸、上腕部位にC型SRセンサを導入し、被介護者の体重検出を行う。また触覚ガイダンス用に前腕外側、上腕部位にも同センサを導入している。ハンドと台車にはR型SRセンサが内蔵されており、抱き上げ時の被介護者との接触や走行時の障害物接触の検出を行う

さらに、操作性・利便性向上のため、背中にタッチパネルを導入し、介護者が被介護者個々の介護データに基づいて動作指示や作業確認をできるように配慮したほか、介護者の指示通り自動移動できるようにライントレース自律走行を導入するなどの改良も施されている。

なお、両者は今後、東海ゴム工業の社会貢献活動を通して交流を深めてきた複数の介護施設の協力を得ながら、引き続き研究開発を行い、有用性の実証と課題の抽出を進める計画としている。それにより安全性、信頼性、操作性などを検証し、介護施設へのモニタ使用を行うことで、早期の実用化を目指すほか、単なる移乗介助だけでなく、力制御による被介護者の機能回復のための部分介助や、リハビリテーション支援の応用研究も行っていくとしている。