ラピッドプロトタイピングの重要性が高まる今日、3Dプリンタを活用したFDM(Fused Deposition Modeling:熱溶解積層方式)プロセスは、フライス加工、旋削、穴あけといった従来型の金属切削に基づいた製造方法に代わる手法として強く期待されています。ただ、FDM 部品のための生産コストは、従来式で製造されたものと比べ、未だ上回っています。開発期間を縮めたいがコストとの兼ね合いからFDMプロセスを導入しかねている――そんな企業は少なくありません。

ただ、同プロセスの導入は、コストに足る確かな効果があります。本記事では早くからFDMプロセスを開発工程に組み込んだBMW社の取り組み例から、同プロセス導入の意義について解説します。

BMW社Regensburg工場 Günter Schmid氏、Ulrich Eidenschink氏 共著
ラピッドマニュファクチャリング

本レポートは、ストラタシス社のFDM式3DプリンタFortusを長年使用しているBMW社の治具・取り付け具製作部門によるものです。同部門の日々の業務は、生産および試験用治工具の設計・製造のほか、初期生産工程および特殊なリソースへの支援です。FDMによる試作品の代表的なアプリケーション領域は、車両開発および生産分野におけるパッケージスペース試験、機能試験、ディスプレイモデル、およびキュービングモデル(車両の実物大モデル)などが挙げられます。

BMW社における、FDMプロセスの適用領域

BMW社では、前述のアプリケーション領域に留まらず、生産・試験用の構成部品においてもFDMプロセスを活用してダイレクト・マニュファクチャリングを行っています。

BMW社がFDMプロセスで製造した生産・試験用治工具の活用に踏み切った理由は、主に以下となります。

• 人間工学に基づいた改善
• 複雑かつ有機的な形状の構成部品の製造
• PA6 に匹敵する材料特性
• 詳細コストの削減
• 倉庫保管作業の低減
• 生産費用削減

BMW社ではFDM プロセスについて、特定の領域では、フライス加工や旋削、穴あけといった従来型の金属切削に基づいた製造方法に代わる手法だと捉えています。その具体例として、上記の理由のうち2つについて、ここからは詳細に解説します。

活用に踏み切った理由: 人間工学に基づいた改善

FDMプロセスにより製造された生産工具は、手作業で使用される治工具において特に有効です。

ある治工具が使用者(作業者)にとって扱いやすく快適であることは重要な要素となりますが、このことは、車両の組立ラインでの生産など、治工具が頻繁に使用される場合は特にそうだといえます。理由の具体例として、グリップの形状は治工具の人間工学に影響を及ぼすことなどが挙げられます。

図1:車輛後部にモデルバッジを取り付けるための4 つの治工具

図1に、車両後部にモデルバッジを取り付けるための4 つの治工具を示しています。FDM で製造された3つの治工具では、グリップを必要に応じて設計することができますが、アルミニウムの治工具では、2 つの標準的なグリップが使用され、設計者の創造的自由度が制限されていました。

治工具の重量も人間工学的条件の一つです。人力で運び操作する治工具は、重量が5 kg(11 ポンド)を超えてはなりません。従来は、これをアルミニウムやポリアミド等の低密度材料を使用することで達成していましたが、ABS樹脂とFDMプロセスを使用すれば、さらなる軽量化が実現できます。

ABS樹脂とポリアミドの密度の違いは大きくないように思えますが、ABS樹脂を格子の形状で構成部品の内部に取り入れることで、最終製品としての治工具の重量の差は顕著になります。このように、重量は大幅に低減させることができるのです。

一般的に、治工具内のこの格子構造では、安定性と堅牢性が低減します。しかし、治工具の多くはアルミニウムとポリアミドを重量上の理由のみで使用するため、この欠点はある程度補われます。その引張強度や硬度等の優れた材料特性は、当の機能には不必要なことが多いためです。

ABS樹脂を3D格子(スパースフィル)として使用すると、ソリッドのABS材と比較して最大72%の軽量化が実現できます。数値にすると800~1300gの差ですが、ユーザはこの付加的な差をシフト中100 回以上操作しなければならないわけですから、明らかにユーザの身体状態に影響を与えます。

図2:使用中の重心回転方向

また、手持ち式治工具は、作業時の疲労を最小限に止めるためにバランスがよく保たれてなければなりません。図2の右側ではE46クーペ/コンバーチブルの運転席および助手席側のストライカを位置決め、そして組み立てるためのストライカゲージを示していますが、アルミニウムとポリアミドを使用すると、好ましくない重心位置(赤の点)となります。

この場合、ストライカを手で取り上げた際、ストライカがやや右に回転します。そうすると、反対側アームジョイントの動きを通じて治工具を何度も調整しなければなりません。グリップを重心に向けて再配置すれば、これを防ぐことはできるでしょう。ただ、電動ドライバをストライカの取付ネジに届かせなければならず、残念ながらそうすることは不可能です。

FDMを使用すると、スパースフィル構造の基本ボディとグリップを作成することができるため、これが解決策となり得ます。グリップの形状を電動ドライバのために両端がくぼみに達するような円弧状にすることでバランスのとれた治工具となりますから、より人間工学的な取り扱いが実現します。

活用に踏み切った理由: 複雑かつ有機的な形状の構成部品の製造

FDMによる部品の層状構造によって、有機的形状の製造はもはや問題ではなくなりました。

「有機的」とは、「厳格な形状規則に従わない丸みを帯びた柔らかい形状」を表しています。従来の構造は、「基本的な形状」のボディを使用していることが特徴でした。有機的なボディは任意の形状に対応できるため、新たな構築方法につながります。

治工具の形状を負荷に合わせる。このことは、壁の厚さおよび直径を変化させることで実現可能です。自動車部品と同様、リブの補強に使うこともできます。

図3:生産用工具の複雑かつ有機的な形状

図3 は、バンパー装着用のサポートを取り付けるための固定具の試作品を示したものです。この固定具は、アルミニウム、ポリアミドおよび混合コンポーネント工法を使用したABS部品で製造されたものです。チューブには、レバーを通じてマグネットを伸縮させるワイヤロープが入っています。

最適化された製造プロセスによって、このチューブの生産は、Fortus FDMシステムにとっては何の問題も生じません。これらのチューブをリブに取り付けることで、マグネットを安定させることができました。

これらから、FDMによる製造法は、従来の金属切削プロセスでは生産が非常に困難、または複雑で費用のかかるボディの生産において適しているといえます。

車両組み立てにおいて、FDM生産ツールを使用

FDMによる構築法を使用して将来の組み立て治具をどの程度製作できるかを知るために、従来プラスチックおよび金属加工法を使用して製作してきた既存の治工具を考慮しました。

具体的には、以下に示す4 つの主要な基準を用いて予備選定しました。

• 使用温度
• 化学薬品との接触
• 製造精度
• 近似応力

治工具が化学薬品や高温に接することは通常発生しないため(95℃未満)、これらの基準は、車両組み立ての分野ではすべて満たされています。選択した治工具の製造精度(±0.1mm)も、FDMシステムで達成することができます。

これらの点に基づき、技術設計者は、CAD モデルを作成する前であっても製造方法の選択を特定することができます。4つの基準の1つでも満たされない場合、治工具またはその構成要素は、FDMプロセスには適しないと判断。他の製造方法またはそれらを組み合わせた方法を使用して製造することとしています。

このように選択フローを明確にすることで、生産ツールの技術設計者は、動作条件に関するわずかな情報に基づき短時間で予備選定をすることができます。

  • 選択フロー図

*  *  *

結論 ~おわりに~

製品開発では、ラピッドプロトタイピングが標準的な概念になっています。そのため、FDMプロセスも、車輛開発やBMW社のRegensburg工場での生産において重要な要素となっています。さらに、近年は単なる試作品作成の枠を超えて、FDMプロセスの用途を他の領域に拡大させる試みが行われています。

生産ツールおよびその構成部品の製造は、プロセスの付加的な用途として進化しています。ただし、現状ではABS樹脂の材料特性の枠内でのみ可能なことです。したがって、治工具作成プロセスとしての用途は、依然として車両組み立て用の小型手持ち治工具に限定されています。

一般的に、FDM部品のための生産コストは、現在でも従来式に製造された構成部品の生産コストを上回っています。これは、1つはABS樹脂という比較的高い材料コストによるものであり、もう1つはマシンの使用時間が長いことによるものです。

しかし、マシンの使用時間や使用材料の量は、FDMプロセス用に特別に調整された製作プロセスによって低減させることが可能です。これは、「壁の厚さおよび層の構造は、負荷および入射点に応じて調整することが可能である」ということです。今後、新システムの設置によりマシンの使用時間が大幅に短縮され、それぞれのコストは下がり続けると予想されます。

Fortusシステムでは、ABS樹脂の2倍の安定性と抵抗性を持つPCや、PCとABS樹脂のブレンド等のプラスチックを加工することができます。結果として、FDMプロセスは、形状が複雑な治工具(自由形状面、アンダーカッティング等)、および低負荷の治工具(ABS 材料データに限定)に特に適しているといえます。

マシンおよび材料の進化により、FDMによる試作品および構成部品は、より幅広い分野で使用することができるようになります。FDMによるパーツを活用できる領域は、車輛組み立てを超えてボディーシェルの構築や塗装作業にまで拡大する可能性があります。

冒頭で述べたように、今日において、製品開発のためのラピッドプロトタイピングなしに発展する企業は存在しません。FDMは、少量構成部品のための代替的な製造方法としての重要性も増しているといえるでしょう。

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