「CMFデザイン」という言葉を目にしたことがあるだろうか。
Color(色)、Material(素材)、Finish(仕上げ)の頭文字を取った製品デザインの考え方を意味する言葉だ。
2019年秋冬のカシオ新製品発表会のテーマにも使われていたことから、記憶に残っている人もいるのではないだろうか。
この視点から生まれた最新作のカモフラージュ柄メタルG-SHOCK「GMW-B5000TCM-1JR」「 MTG-B1000DCM-1AJR」を例に、カシオのCMF戦略について聞く。
「CMFデザインという言葉を一般に聞くようになったのはここ2、3年だと思いますが、デザインの現場では10年ほど前から使われていたんです」
そう語るのは、カシオ計算機 時計企画統轄部 第一デザイン企画部の池津早人氏だ。
確かにG-SHOCKの歴史は、まさしくCMFの視点と切っても切り離せない関係にあった。耐衝撃構造のためのウレタンケースに始まり、マルチカラーやメタリックカラーといった従来の時計にはなかったカラー展開や、スケルトン素材、ミラー文字板といった素材、仕上げの技術進化による個性的なデザインが目を引いた。また、アナログモデル登場以降はメタルやカーボンといった新素材も積極的に使用されている。
時計企画統轄部 商品企画部の牛山和人氏も次のように語る。
牛山氏「色、素材、仕上げは、時計のデザインを決める基本的な要素で、避けて通れない部分です。タフネスとファッション性を特色とするG-SHOCKはなおのこと、進化のなかで技術と表現が熟成されてきた。今回の新製品発表会ではCMFデザインを、カシオの時計の新たな革新として打ち出しました」
デザインの現場では以前から使われていた言葉を、カシオが今製品展開のキーワードとして採用した意図は、どこにあるのだろうか。
池津氏「CMFという言葉がデザイン業界で使われ始めたのは、iPhoneが発売された2007年頃だったと思います。 形はシンプルでありながら、美しい色使いや綺麗なミラー仕上げ、細いピンストライプがキラッと光るとか、そういった見せ方が注目され始めた。その一方で、形がシンプルになるとユーザーは個性や自分らしさを発揮できなくなるんですね。
これを補ってくれるのがCMFという要素です。みんなから支持される形であっても、好きな色やグラフィック、素材の質感、手触りにアレンジしたものを身に着けることで自分らしさを主張したい。そんな欲求は誰にでもあるんじゃないでしょうか。だから私たち作り手も、そのようなニーズに応えるために、CMFという視点から新しいストーリーを届けますよというイメージですね」
―― うーん、わかるような、わからないような。
池津氏「じゃあもっと具体例で説明しましょう。 2019年に発売したレインボーIPをベゼルにあしらった「MTG-B1000RB」(現在は生産終了)も私がデザインを担当したのですが、実はこれ、技術的には既存の技術を応用しています。使い方を工夫することで、新しい表現が生まれる。しかも、ただ目新しさやインパクトがあるだけではダメなんです。 やっぱり、実際に腕に着けられるシーンをイメージしたうえでないと」
―― そういえば、レインボーIPモデルの実物は写真で見るよりはるかに落ち着いていて、深い色合いだと話題になっていた。
牛山氏「この発想は私もすごいと思いました。普段、私たちはメーカーとしていかに品質の安定した製品を供給できるか努力していますが、レインボーIPモデルはその特性上、ふたつとして同じものができません。この製品に関しては、あえて個性として捕らえたのです。これはまさに、CMFの視点でもありますよね。だから、私は池津を”ミスターCMF”と呼んでいるんですよ」
池津氏「それはプレッシャーです(笑)。ただ、私たちは、こういった試行錯誤を数多く重ねてきたのも事実です。アンティークな雰囲気のエイジド加工なども、その成果ですね。他社がやっていないものをいかに見つけるかということには、日頃から心を砕いています」
そして、CMFデザインの最新モデルともいうべきカモフラージュ柄のメタルG-SHOCK「GMW-B5000TCM-1JR」と「 MTG-B1000DCM-1AJR」が発売された。これらが発表された2019年秋冬の新製品発表会のレポートで、筆者はこう評している。「これぞCMFデザインの具現!」と。
参考:カシオ2019年秋冬の時計新製品発表会・「G-SHOCK カーボン・メタル」編
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この両製品の最大の特長は、レーザーカモと呼ばれるデザイン処理をケースとバンドに施していること。メタル製のケースとバンドにブラックの表面保護処理を施し、それをレーザーで剥離することでカモフラージュ柄を再現。レーザーで点描よろしく微細なドットを打つことで大中小の点を作り(保護被膜を剥離し)、その濃淡で中間色を表現してパターンを描いている。白黒表現が逆ではあるが、新聞などで使われるアミ点の要領だ。
『GMW-B5000TCM-1JR』は、チタン製のケースとバンドを採用した「GMW-B5000TB」をベースに、DLC(Diamond Like Carbon)被膜を剥離してカモフラージュ柄を施した。
一方、『MTG-B1000DCM-1AJR』は、SS(ステンレススチール)と樹脂のコンポジット製のケースとバンドを採用した「MTG-B1000」のステンレス部分にブラックIP処理を施し、これを剥離してカモフラージュ柄を表現している。せっかくの保護被膜を剥離することには不安も感じるが、「きちんとG-SHOCKの耐衝撃性と耐摩耗性基準をクリアしていますのでご安心ください」(池津氏)とのことなので、心配は無用のようだ。ところで、どのような経緯で本作が誕生したのだろうか。
池津氏「フルメタルのスクエア型モデル、『GMW-B5000』が大変好評をいただき、これをベースに商品ラインナップを強化しようという企画でした。そこで、メタル素材+カモフラージュ柄はどうだろうという話が出まして……。カモフラージュはG-SHOCKとの親和性も高く、以前樹脂モデルで出したときにもお客様からの反応が非常に良かった。あのときもパーツをまたいで柄を綺麗に繋げたり、それを文字板にまで施したりと色々アイディアを込めました。
その後、BABY-Gをデザインした際に、文字板にレーザーで薄くパターンを彫ったんです。その時、これはメタル素材に対しても色々なことができそうだというヒントを得てどこかで使ってみたいと考えていました」
メタル素材のモデルは、G-SHOCKとしては高価格帯のため、高級感と質感が必要となる。そこで金属の美しさを見せるため、カモ柄を点描で表現する手法にたどり着いた。が、そこからの道のりも決して平坦ではなかったという。
池津氏「ただレーザーでカモ柄を彫っただけだと、思っていたよりフラットに見えてしまうんです。そこでベゼルのトップをミラー面に仕上げて、ここに点描のレーザー加工をしてみました。すると、非常に奥行きが出て、カモ柄が立体的に見えてくることに気付いたのです。だからといって、時計全体にミラー加工をしてしまうと全体がギラギラして嫌味が出てしまう。そこで、部分ごとに仕上げも変えながら調子を整えていきました。
”その部分にだけレーザー光を当てない”
他に苦労したのが、GMW-B5000のラグ部分にある円形の凹みですね。この部分は真上を向いていないので、レーザーの光がまっすぐ当たらないんです。時計の位置や向きを変えたりと色々やってみましたが、どうしてもダメ。そこで、最終的に出した結論が”その部分にだけレーザー光を当てない”。この凹みの部分にだけレーザー光が当たらないよう、技術者さんがレーザー加工機をプログラムしてくれました。位置合わせは大変でしたが、おかげで素晴らしい精度に仕上げることができました」
『GMW-B5000TCM-1JR』と『MTG-B1000DCM-1AJR』には、実はまだこだわりがある。バンドだ。 バンドのコマ詰めの際に、本作のように柄が連続しているモデルでは、その連続が途切れてしまう。
池津氏「当たり前といえば当たり前ですよね。でも、それはお客様も嫌だろうと思ったんです。そこで、この2モデルのバンドのコマは、途中までは独自柄ですが、それより先は同じ柄の連続で成り立つようにしました」
牛山氏「実はこれ、さらに考えられていて、バンド調整するために、コマを外しても、柄としては連続する(柄が繋がる)ものになるんですよ」
池津氏「たとえば、出荷状態ではAの柄のコマとBの柄のコマでABABABABと連結されているとします。これをAABBAABBと連結してもカモ柄が綺麗に繋がります。もちろん、AAAABBBBでも大丈夫です。ケース上側のバンドをすべてA、下側のバンドをすべてBとかでも違和感がないようなパターンにしています。もちろん、デザイナーの意図としては、AとBを織り交ぜた方が柄は単調にならなくて良いとは思いますが」
ユーザーの嗜好は多様化している。アウトドアやナチュラルなシーンを好む人、ストリート系カルチャーやスポーツが好きな人、シンプルなミニマルデザインを選ぶ人等々……。多くの人々、多くの個性に愛される時計として、G-SHOCKはますますその守備範囲を広げていくだろう。カシオのこれからのCMFデザインにますます目が離せない。
[PR]提供:カシオ計算機株式会社