5月28日(火)、世界最大級のMATLAB/Simulinkの総合テクノロジーカンファレンス「MATLAB EXPO 2019 Japan」がグランドニッコー東京 台場で開催される。前回は、全体のテーマや基調講演の内容、ライトニングトーク、ポスター発表などを紹介した。今回は、午後からのブレイクアウトセッションの内容の見どころを紹介しよう。
AI活用のトレンドを知る4カテゴリー! ユーザー事例は18セッション
MATLAB/Simulinkの総合テクノロジーカンファレンス「MATLAB EXPO」が5月28日に開催される。2001年に始まったイベントも19回目を迎え、今年はMathWorks日本法人設立10年という節目でもある。今年のイベントの全体テーマは、「Beyond the “I” in AI - Insight. Implementation. Integration.」。直訳すると「AIにおける"I"、インサイト、インプリメンテーション、インテグレーションを超えて」となる。
午後からのブレイクアウトセッションは4つのカテゴリーに分かれているが、すべてのカテゴリーでこのテーマが通底し、さまざまなAI活用領域でのインサイト、インプリメンテーション、インテグレーションが実感できる構成となっている。
4つのカテゴリーとは「機械学習とディープラーニング」「ロボティクスと自律システム」「パワーエレクトロニクス」「メカトロニクス システム設計とパワートレインモデリング」の4つだ。昨年までの構成とやや異なるのは1つのカテゴリーごとに1つのトラック(A〜G)という構成ではなくなり、カテゴリーがトラックをまたいだ形で複数のセッションを包含していることだろう。
具体的には、「機械学習とディープラーニング」はA〜Cトラックの各4セッションで計12セッションが展開される。また、「ロボティクスと自律システム」はDトラックの4セッション、「パワーエレクトロニクス」はEトラックの4セッションで、「メカトロニクス システム設計とパワートレインモデリング」はF〜Gトラックの8セッションとなる。
MathWorks Japanの宅島章夫氏は、それぞのカテゴリーの内容とテーマ設定の狙いについて次のように話す。
「AIが地に足の着いた取り組みとなり、業務の最適化など現場で広く使われるケースが増えています。ソリューションの使い方はもちろん、ユーザーがどのように活用しているかを中心に据えながら、全体をデザインしています」(宅島氏)
実際、ユーザー事例講演は18セッションと全体の半数以上を占めるなど、AI活用が定着し、さまざまな業界でユニークな取り組みが実践されていることがわかる。では、それぞれのカテゴリーの見どころを宅島氏のガイドをもとに紹介していこう。
「機械学習とディープラーニング」〜名古屋大学、資生堂、物質・材料研究機構、デンソーテン、八千代エンジニヤリング、関西電力が登壇
「機械学習とディープラーニング」(A〜C)は、研究レベルから実際のインプリメンテーション、インテグレーションまでさまざまな事例が揃っている。ユーザー事例はこのカテゴリーだけで6つあり、それぞれが特色のある取り組みだ。
A1は、名古屋大学の藤原幸一氏による医療分野での適用事例だ。「MATLABを用いた医療機器ソフトウェア開発~心拍変動解析とてんかん発作予知」と題し、心拍変動を解析しててんかん発作を予知する取り組みが紹介される。
B1は、資生堂の吉田光輝氏による化粧品開発における適用事例だ。「ディープラーニングを活用した、化粧品開発における微生物試験の迅速化」と題して、通常目視で行っていた抗菌効力のテストをAIで精度を高めた取り組みが紹介される。
A4は、国立研究開発法人 物質・材料研究機構の徐一斌氏による「機械学習を用いた伝熱制御材料の設計と開発 (マテリアルズインフォマティクス実践)」だ。マテリアルズインフォマティクス(MI)と呼ばれるAIを用いた新たな手法を伝導率の低い材質の開発に適用した事例だ。
B3は、デンソーテンの横山夏軌氏による「車載制御ECUへのAI適用における実装開発プロセスの構築」だ。パワートレイン制御の領域で、モデルベースデザインとAIを融合したユニークなアプリケーションが紹介される。
C1は、八千代エンジニヤリングの安野貴人氏による「ドローンxディープラーニングによるインフラ損傷検出の自動化」。ドローンを用いて対象物の劣化診断を行う際に、ディープラーニングを活用した事例だ。
C2は、関西電力の木津健一氏による「ディープラーニングを使った火力発電所ボイラ配管の画像による損傷評価の実現について」。ボイラ配管の損傷評価にディープラーニングの画像解析を活用した事例だ。
このように、演題を見るだけでも、さまざまな業種業態で機械学習とディープラーニングが活用されていることが実感できるだろう。
「ロボティクスと自律システム」〜安川電機、武蔵精密工業、ネクスティ エレクトロニクス、埼玉大学が登壇
「ロボティクスと自律システム」(D)は、4セッションのうち3セッションがユーザー事例となる。
D1は、安川電機の森田賢氏による「ROSとMATLABを活用した産業ロボット用ピッキングシステムの導入検証」。森田氏は「実用ロボット開発のためのROSプログラミング」というROS(Robot Operating System)に関する著書もあり、著書で触れられているMATLABとROSの連携のポイントや活用事例、ツールボックス「Robotics System Toolbox」の使用感などを紹介する。
D2は、武蔵精密工業の竹本春輝氏とKenneth Renny Simba氏による「自律搬送ロボットのスピード開発」だ。自動車部品メーカーとして知られる同社だが、自律搬送車(AGV)の開発にも積極的に取り組んでいる。AGV開発では周辺の認識や制御が重要になるが、そのなかでMATLAB/Simulinkをどう活用しているかを紹介する。
D3は、埼玉大学の安積卓也氏と、ネクスティ エレクトロニクスの太田徳幸氏による「自動運転向けソフトウェアAutowareとMATLAB/Simulinkの連携」だ。OSSのAutowareとMATLAB/Simulinkを連携させて、自動運転をどう実現するかを紹介する。
また、MathWorksのセッションでは、ADASや自動運転アルゴリズム検証のためのシナリオ生成やシミュレーションの方法、そのためのアプリケーションを紹介する。
このように、産業ロボットからAGV開発、自動運転までバランスが取れた内容となっている。ロボティクスと自律システムの現在位置がわかるはずだ。
「パワーエレクトロニクス」〜東京大学、富士電機、三菱電機、富士通研究所、宮崎大学が登壇
「パワーエレクトロニクス」(E)は、4セッションすべてがユーザー事例講演だ。制御設計などでモデルベースデザインを介している事例やエネルギーマネジメント開発環境が中心だ。
E1は、東京大学の藤本博志氏による「安全性・快適性・航続距離を向上させるEV用インホイールモータ技術」だ。モーションコントロールの第一人者で、MATLAB/Simulinkの長年のユーザーでもある藤本氏が、EV駆動用モーター技術を解説する。
E2は、富士電機の石上雄太氏による「分散型電源モデルを含めた電力系統用HILシミュレータとSimulink適用事例」だ。再生可能エネルギーをリアルタイムに評価できるHILS環境を開発している事例が紹介される。
E3は、三菱電機の今城昭彦氏による「ACサーボを用いた放電加工機の高精度制御に関するMATLAB適用事例」だ。FA機器/産業用モーター分野での制御設計においてどうMATLABを活用しているかを紹介する。
E4は、富士通研究所の米澤遊氏と中島善康氏、宮崎大学の太田靖之氏と西岡賢祐氏と太田靖之氏による「モデルベース開発を活用した水素蓄エネシステムの設計検証 」だ。再生可能エネルギー分野でのモデルベースデザインの適用事例が紹介される。
「メカトロニクス システム設計とパワートレインモデリング」〜日産、トヨタ、京セラドキュメントソリューションズ、アイシン精機、サンデン・オートモーティブコンポーネントが登壇
「メカトロニクス システム設計とパワートレインモデリング」(F〜G)は、8つのセッションのうち、5つがユーザー事例講演となる。
F1は、日産自動車の加藤浩志氏による「日産エンジン制御開発におけるMBD適用事例と将来動向」だ。エンジン制御設計について日産の取り組みを包括的に紹介する内容だ。
F4は、トヨタ自動車の吉田庄三氏とMathWorks Japanによる「パワートレーン先行企画シミュレーション開発」だ。パワートレーンのシミュレーションを高速化し工数をいかに減らしていくかという切り口の活用事例だ。
G1は、京セラドキュメントソリューションズの森雅人氏による「プリンターにおけるトナー定着の熱制御設計へのMBD適用」だ。Simscapeによる制御対象のモデリング、シミュレーションによる制御系のロバスト性検証、そして制御ロジックのリアルタイムテストまでをカバーする広範な内容が紹介される。
G3は、アイシン精機の荻野淳人氏による「走行安全制御開発におけるモデルベース開発適用の取り組み」だ。電子制御のサスペンション開発にモデルベースデザインを適用した事例で、設計から検証までの領域でMathWorks製品を適用した事例となる。
G4は、サンデン・オートモーティブコンポーネントの木暮雅之氏による「空調用電動コンプレッサのモータ制御システム開発におけるモデルベース開発事例」だ。サプライヤーの領域でもモデルベースデザインが広がっていることを実感できる内容だ。
R2019aの新機能を体感できるMathWorksセッションも豊富に用意
このほか、MathWorksの講演では、R2019aで新たに追加される「Reinforcement Learning Toolbox」に関する講演(B2)、組み込みGPU実装に関する講演(B4)、予知保全ソリューションや「Predictive Maintenance Toolbox」のアップデートを紹介する講演(C3)、Apache™ Kafka®とクラウドサービスを用いたAIのシステム展開に関する講演(C4)、システムズエンジニアリングの新製品「System Composer」を紹介する講演(F2)など、たくさんの見どころがある。
宅島氏は「R2019aでは、強化学習や予知保全、システムズエンジニアリング、SoC開発、バワートレーンなど特定のインダストリーや用途に特化した新製品や新機能が数多く追加されます。それらも各カテゴリーに散りばめています。上流から実装まで、組み込みからサーバ、アプリケーションまで、イベント全体を通してAI領域における地に足のついた活用が広がっていることを昨年よりもさらに実感できると思います」と話す。
MathWorks日本法人設立10年の節目にふさわしい充実した内容のMATLAB EXPOとなっている。ぜひ会場に足を運び、AI活用の現況を体感し、将来への展望を描き出してほしい。
MATLAB EXPO 2019 Japan
グランドニッコー東京 台場 | 5月28日
MATLAB/Simulinkユーザー様による事例紹介やMathWorks社員による技術講演を通して革新的な最新技術をご紹介いたします。
[PR]提供:MathWorks Japan(マスワークス合同会社)