2018年6月都内で開催されたカンファレンス「DLLAB DAY 2018 深層学習を使いこなす日」では、AI・ディープラーニング(深層学習)を実生活やビジネスに応用するための取り組みが、数々のセッションで解説された。ここでは、ディープラーニングの「研究」「事例」「テクノロジー」に関する15のセッションから、5つをピックアップしてレポートする。

AI(人工知能)やディープラーニング(深層学習)が持つ可能性を、実際のビジネスへ応用するために、ビジネスや技術に精通したプロフェッショナルたちによって結成されたコミュニティ「Deep Learning Lab(ディープラーニング・ラボ:DLLAB)」。その活動開始1周年を記念したカンファレンス「DLLAB DAY 2018 深層学習を使いこなす日」が、2018年6月、都内で開催された。基調講演に続き行われた午後の部では、15のセッションが用意され、深層学習の実用化に向けた「研究」「事例」「テクノロジー」の最新状況をうかがい知ることができた。

  • 本稿で取り上げるセッションだけでなく、待ち合いスペースに設けられた各社展示ブースも、熱気を持った来場者であふれていた

【特集】
ディープラーニング(深層学習)が世界を変える!
「DLLAB DAY 2018」イベントレポート
キーノート編 セッション編(本記事)

従来のシステム開発とはまったく異なるAI開発における問題とその解決手法

最初にレポートするのは、弁護士法人STORIAの柿沼太一氏によるセッション「ユーザとベンダ双方にとって幸せなAI開発のための3つのポイント」。一般的なシステム開発とは異なるAI開発におけるユーザーとベンダーの契約問題について詳しく解説された。

  • 弁護士法人STORIA 柿沼 太一 氏

通常のシステム開発と異なり、帰納型の開発手法となるAI開発においては、「性能保証」が難しくなると柿沼氏は語る。このため、AI開発の契約において「性能保証」「検収」「瑕疵担保」についてどのように定めればいいのかが問題となってくるという。これを解決するためにはユーザーとベンダーがAI開発の特性を理解することが重要で、経済産業省が6月に策定した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を活用するのが効果的な対策方法となる。

また、AI開発の過程においては、ノウハウやプログラム、データといった複数の材料、中間成果物、成果物が存在する。このなかには高い価値を持つものもあり、ユーザーとベンダーのどちらに権利があるのかでトラブルが発生する可能性があるという。このため、材料・中間成果物・成果物の何が知的財産権の対象となるのかを理解し、法律上のルールとして誰がどのような権利を持つのかを知っておくことはもちろん、権利帰属にこだわらず、契約条項をデザインして「実」のある利用条件を得ることが重要と柿沼氏は話す。

さらに、AI開発・利用に際して生じる可能性のある損害についての責任を理解し、契約でコントロールすることも必要。「性能保証、検収、瑕疵担保」「権利・知財」「責任」の3つのポイントを確認できれば、ユーザー企業とベンダー企業の円滑な関係とスムーズなAI開発が実現するはずと、柿沼氏は講演を締めくくった。

  • 柿沼氏が提唱するAI開発3つのポイント

深層学習の最先端技術を活用した多数の事例やソリューションを確認

続いてレポートするのは2つのテクノロジーセッション。国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センターの麻生英樹氏による「実世界に埋め込まれる深層学習」と、日本マイクロソフトの田丸健三郎氏による「マイクロソフトが考えるAI活用のロードマップ」だ。

麻生氏の講演では、ディープラーニング(深層学習)をはじめとする機械学習の技術が発展してきた流れと効果、今後の課題が解説された。

  • 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター 麻生 英樹 氏

麻生氏の講演では、ディープラーニング(深層学習)をはじめとする機械学習の技術が発展してきた流れと効果、今後の課題が解説された。画像(動画)・音声の認識技術やテキスト処理能力が大幅に向上してきた深層学習技術(を含むAI技術)は、IoTのセンサーやロボットなどと組み合わせることで「実世界に埋め込まれる」と麻生氏。「インターネットサービスデータ」は「実世界IoTセンシングデータ」に、「ネット上のおすすめ・マッチング」は「ロボットも含む実世界へのリアルな介入」にと、インターネットから実世界へと移行が進んでいるという。

講演では、深層学習の研究開発事例として「衛星情報からの地上物体の検出」「物体のカテゴリと姿勢の同時認識」「動画からの日常動作認識」「動画への説明文付与」などを紹介。さらに、今後取り組むべきAI基盤技術の方向性とそれに伴う信頼度の評価、説明可能性の向上、モジュール性・再利用性の向上、シンボルグラウンディング問題といった課題、その解決手法についても詳しく解説された。

  • 深層学習を用いた様々な研究開発事例が紹介された

田丸氏による「マイクロソフトが考えるAI活用のロードマップ」のセッションでは、マイクロソフトの考えるAIの今後と、本格的なビジネス活用を視野に入れた製品やサービス、テクノロジーが紹介された。

  • 日本マイクロソフト 田丸 健三郎 氏

本カンファレンスの基調講演において同社の榊原氏も語ったスケーラブルなFPGA搭載 深層学習プラットフォーム「Project Brainwave」をはじめ、GUIでモデルを作成可能な画像認識サービス「Custom Vision Service」やVision AI 開発者キット、Windows ML、ML.NET 0.1(.NET開発者のための学習フレームワーク プレビュー版)など、ソフトウェア、ハードウェアを問わず多彩なソリューションやテクノロジーを提供していることが確認できた。

機械学習/深層学習の活用を従来のソフトウェア開発の枠組みで実現する“誰もが使えるAI”を目指した同社の取り組みが理解できるセッションだったといえよう。

  • AIと聞くと、どうしても研究者やデータサイエンティストの技術領域と捉えがちだ。マイクロソフトがめざす世界は、従来のソフトウェア開発の枠組みで誰もがAIを扱える世界だという。この実現に向けた、同社の製品提供、技術提供に、今から期待が高まる

多様な立場のモデレーター・パネラーによるディスカッションからAI/深層学習の未来が見える

最後にパネルディスカッション形式によるセッション2つをレポートする。まずは、キカガクの吉崎亮介氏がモデレーターを担当し、ディープラーニングの計算基盤として活用される高性能GPUを提供するNVIDIAの井﨑武士氏、トヨタ紡織で社内のITシステム構築に携わっている田尻泰彦氏、これまでAIやディープラーニングに関わっていなかったノバシステムが設立したAIの研究開発室でチームリーダーを務める林 昌弘氏をパネラーを迎えたセッション「AI人材育成の落とし穴と実務的なアドバイス」から。

  • パネルディスカッション「AI人材育成の落とし穴と実務的なアドバイス」のようす

最初のテーマ「ディープラーニングが成果を上げている領域」では、監視カメラソリューションや、医療画像分析、製造業における外観検査や予知保全などが挙げられた。特に、ディープラーニングを活用することで病巣の位置を特定できる医療画像分析は、急速に導入事例を増やしているという。続いての「失敗している領域 その理由や解決策」というテーマでは、「使えるデータを用意できていない」ことが失敗の要因として挙げられ、その解決策としてデータの品質と計算を実行するプラットフォームに対しての投資が必要というディスカッションが展開された。

さらに、「採用したい(AI人材)の人物像」というテーマにおいては、日本ディープラーニング協会の理事も務める伊崎氏から、ディープランニングを理解してどういった手法を使うかを提示できる「G検定(ジェネラリスト検定)」や、アルゴリズムを理解した上でモデルを作り込んでチューニングが行える「E検定(エンジニア検定)」の資格取得者が挙げられた。企業へのAI導入(人材育成)において重要なポイントとしては、「まずは1回取り組んでみて、そこから投資して業務に取り入れていく」(伊崎氏)、「社内イノベーターを育成して、AIに関わる人を増やしていく」(田尻氏)、「ハンズオンで経験を積むのは必須。まずはG検定取得者を獲得したい」(林氏)といった回答が得られるなど、AI導入・人材育成のヒントを聴講者へ提供していた。

  • パネルディスカッションではAIの実情、そこへの解決策が数多く議論された

カンファレンス最後の時間帯に開催されたセッション「AI研究を加速するオープンデータ」では、前述したセッションで講演を行った日本マイクロソフトの田丸健三郎氏がモデレーターを務め、豊橋技術科学大学の井佐原 均氏と、ギリアの清水 亮氏をパネラーに迎えて進行。AI/深層学習の学習、研究、実装を進めるうえで欠かすことができない“オープンデータ”が抱える「データの偏在」や「アクセスの難しさ」を解消するための取り組みについてのディスカッションが展開された。

AIの学習に使えるオープンデータが不足していることが、AI研究を阻害する要因となっていると田丸氏。「データがあるがAIで紐解くことができない企業」と「AIの知見や技術はあるが学習に使うデータがない研究機関」をつないで、データを持つ企業の課題解決と研究促進という相互補完を実現するためのワークグループを立ち上げ、「AIオープンデータ協議会」(仮称)の設立を予定しているという。

  • AIオープンデータ協議会の概要

この協議会に協力するのが、本セッションでパネラーとして登壇した井佐原氏と清水氏。研究機関の一員である伊佐原氏は、多種多様なデータをオープン化して、同じデータで研究開発が行えるようになれば、研究者による健全な競争が実現するなどさまざまなメリットが生まれると話す。もう1人のパネラーである清水氏は、ビジネスにAI/深層学習を活用する際には、データの品質が非常に重要な要素になると語る。ビジネスにおいては、インターネットから利用可能なオープンデータはほとんど使えないため、AIオープンデータ基盤を構築するためには、さまざまな企業で蓄積されている多種多様なデータを提供してもらうことが大切で、そのためにはデータ共有のルール作りが必要となるという。

「DLLAB DAY 2018」では、このほかにも興味深いセッションが数多く、AI/ディープラーニングに関わる人にとっては非常に有意義なカンファレンスとなっていた。最先端のディープラーニング技術とそれを活かすためのプラットフォーム、さらにAIを有効に活用できる人材育成やトラブルなくAIの開発・運用を行うための契約のコツなど、これからのAI/ディープラーニングを見据えるうえで重要な要素をすべて確認することができたといえよう。DLLABと、関連する企業の今後の展開にも注目していきたい。

DLLAB DAY 2018 当日の基調講演動画・セッション資料を、こちらのページで公開しています。当日お越しになれなかった方はもちろん、当日のセッションを改めてご参考にしたい方もぜひご覧ください。

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