2018年2月、カシオから電子ピアノ「AP-470」、電子キーボード「CT-X5000」などの新製品群が発表された。なかでも今回発表された電子キーボードには、新開発された「AiX音源」が搭載されており、そのクラスを超えたサウンド・クオリティが大きな注目を集めている。
そこで、今回は電子ピアノや電子キーボードの心臓部ともいえる音源開発を担当したカシオ計算機株式会社 コンシューマ開発本部 21開発室 室長の松本光広氏にご登場いただき、その音源に対するこだわりや、開発の背景について赤裸々に語っていただいた。
楽器本来の魅力を再現するために独自開発されたこだわりの最新音源
――まずは、新製品である電子ピアノ「AP-470」、電子キーボード「CT-X5000」について、ご紹介いただけますか?
松本氏:「電子ピアノ『AP-470』には、よりピアノらしい優美なフォルムとなるよう本体に新たなデザインを施しました。もちろん、見た目だけでなく音響的にもピアノらしさにこだわっており、スピーカー配置などを工夫することで、ピアノらしい広がりを持った音を味わっていただけます。
また、音源には皆様から豊かで美しい響きを持つサウンドと高く評価いただいている、マルチ・ディメンショナル・モーフィング『AiR音源』を搭載しています。3センサースケーリングハンマーアクション鍵盤IIによる鍵域ごとの発音タイミングの違いのシミュレートなども引き続きお楽しみいただけます。さらに、従来のクラシック向きのピアノ音色に加え、明るく、きらびやかでストレートな音がバンド演奏の中でも存在感のある、ジャズ・ポップス向きのピアノ音色も追加されました。
一方、電子キーボード『CT-X5000』には、高品位な音色と豊かな表現力を兼ね備えた『AiX音源』が新たに搭載されています。本体には、大出力アンプとバスレフスピーカーが内蔵されており、ボディーサイズからは想像がつかないほどパワフルなサウンドを体感していただけます。
さらに、波形の高品質化の技術により、AiX音源はアコースティック楽器の魅力をきめ細かく表現できるようになっています。例えば、ピアノ音色では、打鍵強度による幅広い音色変化により、伴奏の中でも埋もれることのない音に仕上げています。また、サックスでは自然なビブラート部分の波形も搭載しており、どの鍵域でも自然な演奏が再現できます。さらに、ドラムでは、ステレオサンプリングによる空気感を持った広がりも再現され、消え際までリアルに再現されたシンバルなども聴き所のひとつです」
――電子ピアノと電子キーボード、それぞれの新製品に搭載された「AiR音源」と「AiX音源」の特長や魅力、違いについて教えてください。
松本氏:「AiR音源は、開放される弦の共鳴や、押鍵中の鍵盤の弦の共鳴など、ピアノの楽器としての構造から生み出されるさまざまな共鳴音まで再現した、グランドピアノならではの“響き”にとことんこだわった音源です。また、弊社独自のマルチ・ディメンショナル・モーフィング技術により、鍵盤の演奏状況(打鍵強度や押鍵状態等)や時間軸に合わせ、音と響きを刻一刻と変化させることで、よりリアルな音色を再現可能としています。電子音を感じさせない自然な変化のある余韻、そして柔らかな弱打から、きらびやかな強打まで、幅広く自然なサウンドが大きな魅力です。
AiX音源は、一言でいえば楽器演奏の豊かな表現力を追求した、キーボードに最適な音源といえるでしょう。新開発の専用LSIを採用し、アコースティック楽器の魅力を再現する高品質な音色波形と、電子楽器用に新たに設計した高性能DSPを駆使した音作りにより、キーボードにおける多彩な演奏に対して、高い表現力を実現しました。また、高速演算処理により、3つのパートに最大4個のエフェクト効果をかけることが可能であり、今までの普及価格キーボードでは考えられなかった、バック伴奏と手弾き演奏それぞれに異なるエフェクトをかけたリッチなサウンドが楽しめます。
実際には、ロータリースピーカーのオルガンと、アンプシミュレータのエレキギターを組み合わせた伴奏に、さらにフェイザー効果のエレクトリックピアノで手弾き演奏するといったシーンなどで、抜群の威力を発揮してくれます!」
――「AiR音源」および「AiX音源」の高音質なサウンドを支えるコアテクノロジーともなっている、高速演算処理や波形高品質化の技術について、もう少しお話をお聞かせください。
松本氏:「例えば、AiR音源ではピアノに内在するさまざまな響きを再現するために高速演算処理が必須となります。また、AiX音源でも数多くの複雑なエフェクトを実現するためには高性能なDSPが不可欠です。そのため、我々は楽器の音源処理に最適化されたハード(DSP)を複数搭載した専用LSIを開発したのです。専用LSIでは、これらの並列処理が行えるよう設計されており、さらなる高速演算処理を実現することができました。
波形の高品質化についてのご質問については、正直なかなかおお答えしづらい部分もあるのですが……。(笑)
少しだけお話させていただくと、原音の波形クオリティを劣化させることなく再現することが可能な独自の波形圧縮技術『ロスレス・オーディオ・コンプレッション』により、限られたメモリー容量に波形を多数搭載可能とすることで、波形の高音質化を実現しています。同技術は、本来ならば相反する、搭載波形の質と量の両立に大きく貢献してくれています」