診断スキルは症例をたくさん見ることで上がる

―― なるほど。医師の診断スキルが重要になるということですが、スキルを上げるにはどうすれば良いのでしょうか。

皆川氏「それはもう、経験を積むことです。皮膚がんに限らずほとんどの病気は、たくさんの症例を見れば見るほど、その病気に詳しくなり、わずかな違いに気づけるようになります。皮膚がんであれば、ひとつの病気につき100例も経験すれば、その病気の診断はほぼ間違いなく下せるようになると思います。

ただ、たくさんの症例を見るといっても先ほども説明したとおり、メラノーマは10万人に1人といったレベルの病気です。こうした病気は、一般的な開業医の場合だと、実際に症例を見るのは、一生かけても数症例程度だと思います。それでは経験値が上がりません。そこで、書物やインターネットで症例を見ることによって、経験を積むわけです」

古賀氏「大学病院の勤務医であれば、院内に蓄積されている過去3年~4年分くらいのダーモスコピー画像をひたすら見る方法をすすめます。受験生が過去問を解くのと同じイメージですね」

―― クラウドベースで症例を参照して勉強する「CeMDS」の狙いも、まさにそこにあるわけですね。

古賀氏「そうです。CeMDSは一種のeラーニングで、所見が付いたダーモスコピー検査の画像を、ディスプレイ上で豊富に参照できます。日替わりの出題を解く『今日の問題』など、さまざまな診断トレーニング機能も備えています。問題を解くまで何の症例か表示されないため、写真と症例が同時に掲載されがちな書物を見るよりも、考える訓練になります。

パソコンやタブレット、スマートフォンなど、インターネットにつながるデバイスさえあれば、いつでもどこでも勉強できます。隙間の時間を有効に使えるため、業務に追われがちな医師でも自分のペースで効率よく経験値を積めるでしょう」

CeMDSの診断トレーニング(今日の問題)の一例。患者の基本情報と疾患の写真を見て、自分がこうと考える病名を答える。この症例は信州大学医学部附属病院 皮膚科が提供したもの

―― CeMDSで参照できる症例データには、信州大学医学部附属病院の提供した画像が多数使われているとうかがいました。

古賀氏「我々と千葉大学附属病院さんが提供しています。信州大学医学部附属病院では、ダーモスコピー検査が保険適用になる前から、撮影画像を蓄積してきました。最初は1980年代だと思います。

年間で訪れる患者さんの数は、他の大学病院と大きく変わらないはずですが、長く蓄積してきたことで、症例画像を多く持つことになりました。ですから、他の大学病院と何倍も違うというほどではありません」

―― 年間でどのくらい集まるものでしょう

皆川氏「最近は年に500~600例ほどです。これは日常診療の中で撮影している患者さんの数です。診療時に撮らない場合もありますし、悪性でも良性でも記録用に撮影するケースがあります」

―― 症例データを集める作業はやはり大変ですか?

古賀氏「正直なところ、かなり大変です。撮影画像のデータベースには、『結局、何だったのか診断が分からない画像』が意外と多く含まれているんです。

例えば、せっかく撮影しても、病院に来なくなってしまう患者さんがいるわけです。治ったのか、別の病院に移ったのか、事情は分かりませんが、そういう場合は『多分あの病気じゃないか』という予想はあっても、診断の答え合わせができません。モヤモヤしたものが残ってしまいますね。そういった結果の分からない写真は教材にも使いにくいですし。

集めるのも大変ですが、それ以上に症例画像に解説を付けたり、解説したい内容に合った素材を探す作業が大変ですね。学習に使う素材なので、なるべく病気の特徴が出ている画像を選びたいとも思っています」

―― 症例に片端から解説を付けるのではなく、「こういう解説文に合う症例の画像」というのを探していくやり方もあるんですね。

古賀氏「はい。一見して簡単に判別できる画像も必要ですが、それだけでは勉強になりませんし、かといって分かりにくい画像を使えば学習者が混乱します。ちょうどいいい素材を探すのがなかなか難しい。数年に一例のような珍しい病気となると、なおさらです」