コミュニケーションにおける”笑い”の力が大きいことは誰もが認めるところだろう。 それはビジネスの場においても例外ではない。プレゼンや打ち合わせにうまく笑いを取り入れることができれば、場が和み、結果にも好影響を与えるはずだ。

そうした考えを「コメディケーション(コメディ×コミュニケーションの造語)」という言葉で表現し、ビジネススキルとして広めようとしているのが”元お笑い芸人”であり、6月には初の書籍『「ウケる」は最強のビジネススキルである。』(発行:日本経済新聞出版社)を上梓した株式会社俺 代表の中北朋宏氏である。

7月9日に開催された第122回IT Search+スペシャルセミナーでは、この中北氏が登壇。笑いのメカニズムについて解説すると共に、さまざまなワークを実施しながら正しく”ウケる”ためのテクニックを伝授した。

まずは「コミュニケーション」を理解する

中北氏は、NSC(吉本総合芸能学院)卒業後、浅井企画に所属し、TV/舞台で活躍。その後引退し、人事コンサルティング会社の営業やインバウンド系事業スタートアップの人事担当者を経て、2018年2月、株式会社俺を創業するに至った。同社は、元お笑い芸人の転職サポートやコメディケーション研修などを事業として展開するユニークな企業だ。

“お笑い”をコミュニケーションに取り入れるといっても、「面白いのは才能だから、努力で鍛えられるものではないのでは」と思う方も多いだろう。しかし、中北氏は「笑いは才能ではなく、一般的な『面白い人』のレベルなら日々の”(笑いの)筋トレ”で十分に身に付く」と説く。この日の講演も、いわばそんな”筋トレ”の1つなのだ。

株式会社俺 代表取締役社長 中北朋宏氏

まずはアイスブレイクとして、参加者同士による自己紹介、そして今回のワークショップで持ち帰りたいことを話す時間が1分間設けられた。中北氏によると、この1分間の自己紹介ですら話がもたない人も、世の中にはたくさんいるのだという。だが「今日持ち帰りたいこと」のように、ある程度内容を指定されたことで、それに付随して「『口下手だから』コミュニケーションのコツを知りたい」「『営業職なので』場を和ませる話術を身に付けたい」といった具合に自然に自己紹介にもつながっていったようだ。

参加者同士が交流し、会場の空気が温まったところで、いよいよ本題へ。漠然とした印象でとらえられがちな「コミュニケーション」という行為について、中北氏はロジカルに分析しながら解説していく。

まず、コミュニケーションで重要なのが最初の印象だ。米国の心理学者アルバート・メラビアンの実験結果に基づいてまとめられた「メラビアンの法則」によると、人は初対面時の相手の印象を視覚情報55%、聴覚情報38%、言語情報7%で判断しているという。したがって、この3つの要素を意図的に演出することで、自分自身をプロデュースし、相手に思い通りの印象を与えられるというわけだ。

さらに、中北氏によれば、コミュニケーションは「受信」と「発信」の2つの要素を合わせたものだという。

受信で重要なのが「リアクション」だ。相づちや笑い、表情、身体の動きなどで相手の言動を吸収し、相手が話しやすい場をデザインするのである。「売れない営業マンはこれができていないんです」と中北氏は指摘する。

リアクションのなかでも、特に重要なのが「笑う」という行為である。笑って見せることで場が和み、話を円滑に進ませる効果も期待できる。「人はお互いに笑い合った相手に対して親近感が湧くので、ビジネスもうまくいきやすい」(中北氏)のだ。

しかし、意外とこの「笑う」ことを苦手としている人は多い。笑ったつもりが顔がひきつっていただけという経験をした人もいるのではないだろうか。また、職場ではあまり大きな声で笑い合うというのもなかなか難しい。そんなときのために中北氏がお薦めするのが、次の5つの言葉を抑揚を付けながら順に繰り返すという方法だ。

「うん、うん」
「なるほど」
「そうですよね」
「おっしゃる通りですね」
「確かに」

基本的に相手を肯定する言葉なのでシチュエーションを選ぶ必要はあるが、リアクション下手の人は、これを意識するだけでも会話しやすくなるだろう。