【連載】

AIでイノベーションを起こすために

【第2回】テクノロジーの世界でリベラルアーツが生み出す価値とは?

[2018/03/15 08:00]周藤瞳美 ブックマーク ブックマーク

ソリューション

ディープラーニングを専門的に取り扱うABEJAでは、AI時代に必須の能力として「リベラルアーツ」を重視しているという。古代ギリシャ時代に誕生した学問であるリベラルアーツが、日進月歩でテクノロジーが進化する現代においてどのような意味を持つのか。

ABEJA代表取締役社長CEO兼CTOの岡田陽介氏と、ABEJAのブランディングを手がけるOVERKAST代表の大林寛氏による対談形式で進める本連載では、前回、両氏のリベラルアーツとの出会いから、「AI時代におけるリベラルアーツとは何か」まで、忌憚なく語っていただいた。

それらを踏まえ、今回はテクノロジーおよびテックカンパニーとリベラルアーツとの関係性について詳しく伺った。

STEM教育からSTEAM教育へ

――今回は、リベラルアーツとテクノロジーおよびテックカンパニーという観点からお話を聞いていきたいと思います。

大林:IT時代に必要な資質や能力を養うのに、これまで「STEM教育」が重要であるとされてきました。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとってSTEMですが、最近はここにArtが追加された「STEAM教育」が注目されています。

Artというと、日本語では狭義に「芸術」と訳されて、現代アートを鑑賞して批評する感性といったイメージに考えられがちです。しかし、本来Artという言葉は、技術とか技藝といった、かなり広い意味を持っています。私はこのArtを、芸術ではなくリベラルアーツ(Liberal Arts)と解釈するほうがしっくりくるんですね。

つまり、STEMからSTEAMへと向かったのは時代の成りゆきで、エンジニアリングの実践自体に価値があった時代から、何のために実践すべきか考えることが必要とされるようになったということじゃないかと思うんです。

OVERKAST代表の大林寛氏

岡田:私もそう思います。STEMの全分野の教育に言えることですが、特に科学がいちばんわかりやすい例だと思います。科学分野においては、現在正しいとされている知識を教えることはできても、それ自体は科学の教育になっていないという矛盾があります。科学の世界においては、答えはあらかじめ用意されていません。正しい知識を学ぶことだけではなく、わからないことをわかるようにすることが、本当の意味の科学研究なんです。

したがって、科学教育においては、知識そのものを教えることではなく、正解がないなかで自分なりの答えをいかにして発見していくか、PDCAサイクルの回し方をどう身に付けていくかという点が重要だと思うんです。それは、リベラルアーツの考え方と同じですよね。

――知識というよりもマインドセットを身に付けるというイメージでしょうか。教育だけでなく、ビジネスの世界においても重要な気がします。

岡田:時々お客様に「事例はありませんか?」と聞かれることがありますが、これは初めから答え探しをしてしまっている例だと思います。自社で起きている問題に完璧な正解があらかじめ用意されているわけはありません。

事例を知ることはもちろん大切ですが、それをそのまま自社にインストールするのではなく、自分たちなりに解釈して、答えを出し、経営層に進言できることが、これからの時代には重要なポイントになってくると思っています。そのための土台を育成するのが、STEAM教育なのではないでしょうか。

ABEJA代表取締役社長CEO兼CTOの岡田陽介氏

――リベラルアーツはどのようにして身に付ければ良いのでしょうか。

岡田:土台となる知識は、ある程度勉強するしかありません。その後、興味のある分野について自分なりに学習していくことで思考の枠が広がっていくと思います。正解のない課題に取り組むことで、リベラルアーツの会得が進むと感じていますので、ABEJAでもそういった取り組みを行っていこうと考えています。

――リベラルアーツを学ぶきっかけを作るのが難しそうです。

大林:リベラルアーツに取り組んでいると感じる人は、基本的にそれをやっていないと死んでしまいそうな人たちです。やらないといけないわけじゃないのに、駆り立てられていると言いますか。

だから、もしリベラルアーツに興味が持てないとしたら、今はその人にとって必要ないということなんだと思います。そこで無理をするのはリベラルアーツ的ではないので、きっかけがあるまで待つのがいい気がします。

岡田:リベラルアーツを学ぶ姿勢としては、まず謙虚になることが大切なのではないでしょうか。自分がまだ知らないという状態を認識し、継続して学び続ける姿勢がとても重要です。いわゆる「無知の知」の考え方に近いですが、自分がまだ何も知らないという前提の下、新しい考え方をどんどん自分のなかにインストールしていくようなイメージです。

テクノロジーとリベラルアーツの円環 - ABEJAのコンセプト

――テクノロジーとリベラルアーツの関係性について、詳しく教えてください。

大林:リベラルアーツの語源は「アルテス・リベラレス(artes liberales)」というラテン語。対概念は「アルテス・メカニケ(artes mechanicae)」で、これは今で言うエンジニアリングです。この両者の関係性を考えることが、この質問への回答になるかと思います。

例えば、活版印刷を発明したのはヨハネス・グーテンベルクというドイツの職人ですが、彼は開発したこの技術を「秘技」としてオープンにしませんでした。この技術を世に広めたのは、『百科全書』で印刷の方法を紹介した、フランスの啓蒙思想家のドゥニ・ディドロです。

つまり、グーテンベルグだけでもディドロだけでも、印刷技術のイノベーションは起きなかった。イノベーションの条件は、新しい技術だけではなく、その技術の使い方を普及させる活動とセットであることではないかと思います。

この話は、ABEJAにおけるテクノロジーとリベラルアーツの関係にも重なります。ABEJAのテクノロジーをどう使うか、自ら問い続ける姿勢がABEJAのリベラルアーツで、この円環をコンセプトとして表現しました。

ABEJAのコンセプト「Technopreneurship」を表した図

岡田:大林さんとABEJAのコンセプトを固めていく上で、この考え方は自分のなかでも非常にしっくりくるものでした。端的に言えば、人工知能は評価関数(何を最大化することをゴールとするのか?)をどう作っていくかということが重要です。しかし、その考え方では非倫理的な結論となってしまう場合もあります。

つまり、テクノロジーがどれだけ優れていても、リベラルアーツの素養がなければ、世の中にとって価値をなさないのです。テクノロジーが暴走してしまうリスクについては前回お話しましたが、それを食い止めることができるのがリベラルアーツの力なのだと思います。

さらに経営者の視点で言うと、これからの人工知能の時代においては、リベラルアーツ的な発想力を持っていなければ、イノベーションは生まれないと思っています。周りと同じような事業をやるのであれば、人工知能に考えてもらえばいいわけですから、いくら革新的な技術を持っていたとしても意味がありません。

ABEJAは、創業当初からイノベーションで世界を変えることを理念に掲げています。テクノロジーとリベラルアーツを組み合わせることで、これを実現していきたいですね。

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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