先日、Azure Stackの最後のテクニカルプレビューであるTP3が登場しました。

Azure Stack TP3 のダッシュボード

筆者自身、手元でTP3を稼働させ、Azure Stackの画面からWindows Server 2016日本語の仮想マシンを作るところまでの作業は完了しました。早速、TP3の技術について解説したいところではありますが、今回はその思いをこらえ、TP3提供と同時に行われた大きな発表の内容を中心に見ていきたいと思います。

元ネタはMicrosoft Azureのサイトに掲載されている記事「Azure Stack TP3 Delivers Hybrid Application Innovation and Introduces Pay-as-you-Use Pricing Model」です。

あらためてAzure Stackが目指す世界

「ハイブリッドクラウド」という言葉はいろいろな場面で利用されます。「社内ITは何も変えず、パブリッククラウドもちょっと使っている」だけでも、利用者目線ではハイブリッドクラウドだと言えるかもしれません。

ただ、パブリッククラウドの台頭により、利用者にとってITを利用する敷居は一気に下がりました。システムを展開するスピードも一気に上がりました。一般の企業が手を出せなかった大規模な分析がITを使って容易に実現できるようになりました。機械学習やニューラルネットワーク、ロボティクスなど、自分とは関係ないと思っていたエンジニアも多いことでしょう。

パブリックなクラウドが企業のIT戦略に大きく関わるようになった今、「社内はこれまで通りでよい」と言い切れなくなってきているはずです。では、これから目指していくハイブリッドクラウドとはどういうものなのでしょうか。

Azure Stackは、パブリッククラウドが持つスピードや柔軟性、利用者に近いITサービスを、パブリッククラウドの利便性を損なわずにオンプレミスで動かしてもらおうとしています。まさに、「パブリッククラウドファーストなハイブリッドクラウド」を実現したいのです。

オンプレミスでも「Pay-as-you-use Pricing Model(従量課金)」という選択肢

少し前置きが長くなってしまいましたが、今回の発表のなかで、非常にインパクトがあったのがAzure Stackによる「Pay-as-you-use Pricing Model」の採用でしょう。このモデルを採用すると、Azure Stack上で動かすもの、例えば仮想マシンやストレージ、PaaSを使った分だけ料金が発生することになります。パブリックなクラウドでは当たり前となった従量課金が、自社内のプライベートクラウド基盤にも採用される……そんな時代が来ていることに驚かれた方も多いと思います。

ただ、第14回の記事で解説したように、マイクロソフトは「Cloud is a model, not just a place.」という新しい視点で「クラウド」という言葉を捉え、お客様やパートナー企業と共に新しいIT基盤の利活用を推進しようとしています。そして、オンプレミスでありながら従量課金が行える仕組みを提供することもまた、その成果の1つとして見てもらえれば理解しやすいかもしれません。

もちろん、パブリッククラウドが企業システムの一部を担い始めているという状況のなか、オンプレミスに従量課金を持ち込もうとすることに違和感があっても不思議ではありません。しかし、考えてみてください。今、クラウドを使い始めている企業は、これまで通りのライセンス形態とクラウドの従量課金という2つのプロセスを処理することになっているはずです。いずれは、これらの処理をシンプルにしたいと考えている企業もあるでしょう。

そして、今後クラウドの比率が高まっていくことを考えれば、クラウド側に課金モデルを寄せるという選択肢があってもよいのではないかと思います。なぜなら、クラウドの従量課金やいつでも利用をやめられるモデルは、提供側の都合ではなく、利用者側の目線で作られたものだからです。

ちなみに、オンプレミスに置くのであれば、Azure Stack用のハードウェアを購入する必要があります。また、設置のためのファシリティ費用もあるはずです。そのため、Azure Stack上の従量課金はパブリッククラウドであるAzureよりも安く設定される予定になっています。

そうは言っても……

とはいえ、従量課金になじまないシステムや、企業・団体もあるかもしれません。今回の発表では、そのようなシステムや企業のための「fixed-price “capacity model” based on the number of cores in the system.」も提供予定である旨が明らかになっています。こちらは、Windows Server 2016のライセンス同様、物理サーバのコアベースで契約というかたちになりそうです。詳細については、今後の情報発信にご期待ください。

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さて今回は、Azure Stack TP3と共に出てきたオンプレミスにおける従量課金について説明しました。Azure Stackの導入を機に、プライベートクラウドを技術面だけでなく調達面からも進化させていく、そんな想いを持って、「自社にとって最適な解」を探してもらえればと考えています。

次回は上記発表と共に伝えられたAzure Stackの新機能について紹介する予定です。お楽しみに。

著者紹介

日本マイクロソフト株式会社
高添 修

Windows 10やVDIの世界にいるかと思えばSDNやDevOpsのエンジニアと普通に会話をし、Azure IaaS登場時にはクラウドの先頭にいたかと思えばオンプレミスデータセンターのハードウェアの進化を語るセミナーを開くなど、幅広く活動するマイクロソフト社歴15年のベテラン。最近は主にAzure Stackをテーマにしたハイブリッドクラウドの普及活動に力を入れている。