本連載では、これまで8回にわたり、企業として取り組むモバイル活用、特にアプリ開発など、アプリケーションレイヤを中心に説明してきました。それらを踏まえ今回は、企業の情報システム部門として、やらなければいけないことについてまとめておきたいと思います。

変化の源泉を押さえる

ホスト・コンピュータからWindowsマシンのオープンシステムへ、オープンシステムからWebベースの業務システムへ、そしてERPといったパッケージ系のシステムへの対応など、情報システムには定期的に大きな変化が訪れ、その度に新しい技術を習得したり、新たな取り組みが必要になったりしてきたわけですが、エンタープライズモバイルにもそうした大きな変化があることは間違いありません。そのため、さまざまな検討事項に対応する必要があります。

そして、その変化を生んでいる源泉は実は3つに絞られます。

  • デバイスのサイズが小さくなったこと
  • デバイスの種類が多いこと
  • アプリという概念が生まれ、それをAppleやGoogleが提供する仕組みを通じてユーザーに届けることが可能になったこと

これらに対応できれば、変化を恐れる必要はありません。

この3つの源泉から生まれる新しい要件のうち、システム部門が対応するべきものは大きく4つに分類することができます。

システム部門が対応するべき4つの要件

以降では、各要件について順に考えてみましょう。

基幹系、情報系に続く、新しいシステムカテゴリとして考える必要がある

多くの企業システムは、基幹系・情報系といったシステムに区分けされています。この区分けに応じて、使う技術や非機能要件、開発プロセス、保守体制などが異なるのが一般的です。それと同様に、エンタープライズモバイル系のシステム区分が生まれたと考えることが必要でしょう。ある企業のシステム部門では、「デジタルグループ」という名称を付けた1つのグループにエンジニアを集めたりしています。

テストや運用体制などを考える必要がある

対象が従業員に一律で配布したタブレットやスマートフォンの場合は問題ありませんが、BYODで持ち込まれた端末向けや顧客向けのアプリの場合、端末の種類や画面サイズが多種多様なため、テスト端末や対象OSのバージョンなどさまざまな検討事項が出てきます。また、「従業員が勝手にOSのバージョンアップをしたために不具合が発生した」といったことも起こりやすく、PCを前提としたシステムよりも運用に手がかかる傾向にあります。

ビジネス部門との新たな関係が必要である

「スマートデバイスを活用して新しいビジネスを考えたい」というニーズは大変多いです。ここで、システム部門としての選択肢は2つあります。1つは、「ビジネス部門に任せて、システム部門はまったく関与しない」というスタンス。もう1つは、「システム部門としてガバナンスを効かせ、ビジネス部門と協調していく」というスタンスです。

一般に、自社が提供するWebサイトの構築にはシステム部門が関与していないケースが多いかと思います。その場合、ビジネス部門が独自でベンダーなどを選定し、構築・運用していることでしょう。これと同様に、ビジネス部門では、スマートデバイスによる新しいビジネスもシステム部門を絡めずに独自で計画している場合が多いようです。

しかしスマートデバイスを活用したビジネスでは、Webサイトと違い、「頻繁なOSのバージョンアップにどう対応するか? 」「社内の既存システムと連携すれば、こんなことができるのでは? 」「その際のセキュリティは? 」といった複雑な要素が生じます。そのため、ここにはシステム部門として積極的に関わる必要があるというのが筆者の意見です。

ITに関しては素人であるビジネス部門だけでは、ベンダーの提案内容の是非を正しく判断できません。あえて悪い言い方をすると、ベンダーのセールストークにだまされて間違った方向に向かってしまう可能性もあり、非常にリスクが高いと感じます。これを防ぐ意味でも、システム部門とビジネス部門とが協力することは意義があるでしょう。

スマートデバイスを活用した新ビジネスの検討は、システム部門がビジネス部門の良きITパートナーとなる絶好の機会です。

言語や仕様を理解する必要がある

言語や仕様は、常に新しい技術を習得していく必要があります。モバイル系の技術に関しては、ERPのようにベンダーに閉じた情報などはほとんど無く、オープンなものが多いですし、情報自体もどんどん増えてきています。恐れずにトライしていくのがお勧めです。むしろ避けようとしても、避けられない変化になってきています。

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次回は最終回ということで、今後のエンタープライズモバイルの展望について説明し、総括する予定です。

早津 俊秀
企業のUX・モバイル活用の専門企業であるNCデザイン&コンサルティング株式会社を2011年に起業。 ITアーキテクチャの専門家とビジネススクールや国立大学法人等、非IT分野の講師経験をミックスして、ビジネス戦略からITによる実現までをトータルに支援できることを強みとする。