BayTrail-T世代の「Atom Z3770」を搭載し、さらに水没させてもOKという防水性能を備えたことで話題を呼んでいる富士通のWindows 8.1タブレット「ARROWS Tab QH55/M」。前回のレビューではCPU周りのパフォーマンスが今一つ振るわなかったが、その原因はAtom Z3770のバーストモードが正しく発動していなかったことにあったようだ。

その後、同社から「CPUのパフォーマンスが上がらない場合がある問題を修正した」とする、QH55/Mの最新BIOS 1.12がリリースされた。そこで今回はこの最新BIOSにアップデートしたQH55/Mを用意し、あらためて性能をチェックし直してみた。どのくらい改善されたのか、楽しみに読み進めていただきたい。

「HWiNFO32」によるCPUなどの情報。左がBIOS 1.12、右がBIOS 1.10。BIOS 1.12では1.46GHzより高いクロックで動作する(CINEBENCH実行時にキャプチャ)

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CPUパフォーマンスが大きく改善

ここで再びベンチマークテストを行う理由について解説しておきたい。QH55/Mに搭載されたAtom Z3770は定格1.46GHz、負荷がかかるとバースト状態になり、2.39GHzまで動作クロックが上がる。しかし、前回レビューしたQH55/Mは負荷をかけても1.46GHzで頭打ちになっていたようだ。

BIOS更新によって、どの程度の性能改善がみられるのか。まずは総合ベンチマーク「PCMark7」、CPUの馬力を見る「CINEBENCH R11.5 (32bit版)」から検証していこう。表中の「旧BIOS」とは、前回のレビュー機材に入っていたBIOS 1.10であることを示している。

■PCMark7
QH55/M(新BIOS) QH55/M(旧BIOS)
PCMark score 2554 2068
Lightweight score 1457 1248
Productivity score 1085 873
Entertainment score 1681 1427
Creativity score 4671 4029
Computation score 6598 4783
System storage score 3667 3732
Raw system storage score 1178 1328
■CINEBENCH R11.5
QH55/M(新BIOS) QH55/M(旧BIOS)
CPU Multi 1.24 0.98
CPU Single 0.4 0.25

PCMark7において、新BIOSでは総合スコアで500ポイント、率にして約23.5%の改善。CINEBENCH R11.5ではマルチコアで0.26ポイント/約26%、シングルコアで0.15ポイント/60%の性能向上がみられた。いずれもバーストモードの効果が感じられる結果だ。

続いてGPUの描画性能を「3DMark」と「ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア」公式ベンチで比較してみた。「ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア」は、解像度1,280×720ドットフルスクリーンモード、標準品質(ノートPC)に設定している。

■3DMark
QH55/M(新BIOS) QH55/M(旧BIOS)
Cloud Gate 974 772
Ice Storm 9235 7333

QH55/M(新BIOS) : スコア 888

QH55/M(旧BIOS) : スコア 642

新BIOSは3DMarkで大きくスコアを伸ばしているが、これはCPUを使った物理演算(Physics Test)が好転した訳ではなく、GPUの描画能力が上がったためだ。バーストモードが効いたことで、3D描画のパフォーマンスが向上している。ただしBIOSを更新しても、実際にFF14クラスのゲームを遊ぶには物足りないという点はベンチ結果から明らかだ。

このCPUパワー、何に使う?

以上の通り、BIOS 1.12を導入することでQH55/Mの性能が改善されたことは明らかだ。体感レベルでも劇的に速くなったとまではいえないが、発売当初に購入したユーザーはBIOSバージョンを確認し、1.12よりも古いものであれば更新することで気持ちよく使えるようになるだろう。

最後に、QH55/MのCPUは動画エンコードに使えるかどうか調べてみた。Atom Z3770は、現行のCore iファミリーに搭載されている超高速の動画エンコード機能「Quick Sync Video(QSV)」に対応する。そこでQSVに対応した動画変換ソフト「MediaEspresso」を使い、11分のAVHCD動画(1920×1080ドット、MPEG2-TS)をH.264形式に変換する際の速度を計測してみた。変換ターゲットは「iPad2」、解像度は1280×720ドットである。QSVを使わずCPUだけでエンコードした時の時間と比較してみたい。

■MediaEspresso
QSVあり 2分6秒
CPUのみ 20分54秒

MediaEspressoにおけるQSVの設定。エンコードとデコードの両方にQSVを使う

MediaEspressoではQSVを使うと、CPUのパワーをほとんど使わずに高速でエンコードできる。動画をスマホ用にざっくりと変換するには、QH55/Mはちょうどよい手軽なマシンといえる。本体にMicroSDカードスロットも標準搭載されているので、Androidデバイスとデータを相互に移動しやすい気楽さもある。QH55/MはAtom搭載機といえど、使い方次第では既存のPC以上に軽快な運用が可能なのだ。

■[製品名] ARROWS Tab QH55/M 主な仕様 [CPU] Intel Atom Z3770 (1.46GHz) メモリ] LPDDR3-1066 4GB (2GB×2) [グラフィックス] Intel HD Graphics (CPU内蔵) [ディスプレイ] 10.1型ワイド液晶(2,560×1,080ドット、タッチパネル) [ストレージ] 64GB SSD [サイズ] W267.0×D180.8×H9.9mm [重量] 約650g [バッテリ駆動時間] 約15.5時間 [OS] Windows 8.1 32bit [店頭価格] 105,000円前後 (※)

※ 富士通の直販サイト WEB MARTでは、カスタマイズモデルの「ARROWS Tab WQ1/M」が80,820円から購入可能(1月10日現在)