日本でもスマートフォンや携帯電話のSIMロック解除が義務化され、2015年5月1日より原則として通信事業者はSIMロック解除に応じなくてはならなくなった。これまではドコモが販売するスマートフォン全機種を手数料を取りロック解除していたが、その動きがauやソフトバンクにも広がる格好だ。だが蓋を開けてみれば各事業者のロック解除は「購入後180日以降」と、現在即時解除に応じるドコモですらサービス内容は後退している。

SIMロック解除が実施されると、例えばドコモで買ったスマートフォンをソフトバンクで使うことが可能になる。また海外へ旅行へ行った際も現地のプリペイドSIMを入れて使うことができるなど、様々なメリットがある。とはいえ普段日本でスマートフォンを使っている多くの消費者には、そのメリットはあまり感じられないものだろう。

ロック解除できれば海外SIMを入れて海外で使えるが、メリットを感じる人は少ないだろう

だが日本のSIMロック解除は日本国内だけの話題にはなっていないのだ。日本を囲むアジア周辺国が日本のSIMロック解除の動向に注目しているのだ。なぜならSIMロックを解除した日本のスマートフォンは、海外で現地のSIMを入れて使うことができる。しかも最近はXperiaやGalaxyなど、日本と海外でほぼ同じ製品が販売されているため、日本の製品を海外へ持って行っても海外の消費者は違和感なく受け入れ購入するのである。

SIMロック解除された携帯電話はもう10年以上前から日本と韓国を除く世界中で販売されている。この両国は通信方式が独自だったりSIMなし端末が販売されていたため、世界のいわば「裏の世界」とは繋がっていなかったのだ。だがアジアやヨーロッパでは輸入品を扱う携帯電話店が多数存在し、他国販売のSIMロック解除端末を買って使う消費者も多い。

事業者のSIMロック端末が多いヨーロッパ。ワゴンで投げ売りもされている。ロック解除されアジアで転売される光景は当たり前だ

もちろん自国で販売される正規販売端末は価格が割高だが、正規のサポートが受けられ修理対応も万全だ。これに対して輸入品だと自国の言語が入っていなかったり、故障しても修理が受けられない。そのためきちんとしたものを買いたい人は正規品、安ければいいと考える人は輸入品、のように消費者側も販売されている製品を理解して購入している。

では現状はどうなのだろうか? SIMロック解除可能なドコモのスマートフォンはすでにアジア各国で売られており、日本限定モデルが高値で取引されるなど人気製品になることもある。またXperiaの新機種は日本での販売が早いこともあり、現地での正規販売に先駆けて輸入品が入ってくることもあるのだ。

香港の日本・韓国スマートフォン輸入専門店。日本品はドコモのスマートフォンを販売

では輸入販売店の仕入れルートはどうなっているのかというと、日本側に輸出を取り扱う業者がいてそこから各国に流通しているケースが多い。その日本の業者の仕入れルートは秋葉原などの買い取り店からの仕入れがメジャーだが、代理店から入手しているという話もある。

だがいずれにせよ、日本のスマートフォンのSIMロック解除の義務付けは、今後日本で販売されるスマートフォンのほとんどを海外でそのまま利用できるものにしてしまうのだ。日本で商品価値のなくなったスマートフォンでも、海外へ持っていけば現地で再販できる可能性も生まれるのである。

ではなぜ日本が注目されているのだろうか。たとえば香港やシンガポールでは事業者が販売するスマートフォンにSIMロックはない。しかも無料販売もされている。ところがこれらの国では事業者が販売端末の転売被害にあわないような対策を打っているのだ。

香港ではスマホはFree=無料が当たり前。だが翌月解約すると違約金だけでも大損してしまう

香港では端末無料購入の際は2年契約が必要で、違約金は端末の定価プラス契約残期間の全基本料金が必要だ。1ヶ月後に解約した場合でも、23か月分の基本料金と端末の定価が請求される。また最近ではスマートフォンは無料だが、最初に定価を払い基本料金の割引で返金する方法もとられている。

一方日本では、時たま「一括無料」のような激安販売が行われることもある。しかも違約金は一定額なことが多い。そのため違約金を払っても定価の半額以下で新品スマートフォンを買えるケースもある。それをSIMロック解除し、海外では現地定価の7-8割程度で販売しても十分ペイできるわけだ。

さてこのような仕入れ側の事情はさておいても、日本の端末は年々注目度が高まっている。なぜなら最近は日本でしか販売されないスマートフォンが増えているからだ。例えばauが販売するLGのisaiは香港の若い女性に人気だ。また日本ならではのキャラクターとコラボしたスマートフォンも高値で売られることがある。

日本限定スマートフォンが意外と人気だ

日本のスマートフォンのSIMロック解除が可能になることで、日本販売端末が海外へ流れる動きは今後加速するだろう。そうなれば日本の通信事業者は今の無料販売などを見直し、消費者にとっては今までよりも不利益を感じる状況になってしまうかもしれない。とはいえ今の状況が実は歪みのあるものであることを考えると、まっとうな販売方法へ是正してくれるものになる、と考えるべきかもしれない。

撤退続きの日本メーカーの再進出を後押しするかもしれない

一方で日本限定販売のスマートフォンが海外に流出することはメリットも生み出しそうだ。例えば富士通のドコモ向け2015年夏モデル「Arrows NX(F-04G)」は世界初の虹彩認証機能を搭載、この機能を欲しがる海外ユーザーも多いはずだ。SIMロック解除は日本メーカー製品の非正規な海外流出を生み出すが、口コミで人気が広がれば日本メーカーの海外への正規進出を促すものになるかもしれない。