5月よりキャリアによるSIMロック解除が原則義務化された。これに伴って、NTTドコモとKDDI、ソフトバンクの大手キャリアはSIMロック解除に関するルールをそれぞれ公表しており、SIMロック解除ににわかに注目が集まっている。とはいえ、「そもそもSIMロックって何?」「SIMロック解除によって何が変わるの?」などと疑問に思っている人も多いだろう。

本稿では、SIMロック解除についてあらためて解説するとともに、そのメリットとデメリットを紹介していく。また、キャリア以外の選択肢として最近人気となっているMVNOサービスとあわせ、SIMロック解除の義務化によって、今後スマートフォン市場で何が起こるのかを考察してみたい。

キャリアのSIMロック解除義務化で何が変わるのか?

そもそも"SIMロック"って何?

まずは、そもそも"SIMロック"とは何かについて解説していこう。NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといった主要キャリアが販売するスマートフォンや携帯電話では、SIMロックという制限がかけられている。スマートフォンなどでは、SIMカードと呼ばれる小型のICカードを装着することでデータ通信や通話を行えるが、一般的にキャリアが販売する端末の場合、そのキャリアのSIMカードしか利用できず、他社のSIMカードは利用不可となる。これがSIMロックだ。

たとえば、ドコモのSIMカードをKDDIやソフトバンクのスマートフォンに装着しても認識されず、データ通信や通話はできない。そのため、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)などで他のキャリアに乗り換えた場合、SIMロックがかかっている限り、以前のキャリアで使っていたスマートフォンは利用できず、移行先のキャリアで新たに端末を購入する必要が生じる。

実際には、MNPのキャンペーンによって端末代金や月額料金が割引されることも多いが、SIMロックは"2年縛り"などの契約期間の制限とあわせて、キャリア間の柔軟な乗り換えを阻害する要因になっていたと言えるだろう。

SIMロック解除によるメリット

SIMロック解除とは、このSIMロックをユーザーが自身の希望に応じて解除できるというものだ。これまでもNTTドコモが同社のAndroidスマートフォンでSIMロック解除に応じていたほか、ソフトバンクでもごく一部のAndroidスマートフォンでSIMロック解除が可能であった。

しかし、総務省が昨年12月に発表し、5月より適用されたSIMロック解除に関する新ガイドラインでは、キャリアが販売するすべての端末で原則としてSIMロック解除に応じるように改められた。また、SIMロック解除の手続きについては、ユーザーがインターネットや電話を使って簡単に解除手続きができるようにし、なおかつ無料で解除が行えるものとした。

4月22日にNTTドコモとKDDI、ソフトバンクがそれぞれ公表したSIMロック解除に関するルールは、同ガイドラインに沿ったものとなっており、5月1日以降に発売される機種について、購入日から180日経過後にSIMロック解除の手続きを受付けるとしている。また、3社ともWebサイトから申し込むことで無料でSIMロック解除が可能となっている。

このように各キャリアでSIMロック解除が可能になるメリットとしては、まず以前のキャリアで使っていたスマートフォンなどを、乗り換え先のキャリアでそのまま利用できることが挙げられる。現在利用中のキャリアのサービスや料金に不満がある場合に、端末を変えることなく、キャリアのみ乗り換えることが可能になるわけだ。ただし、後述するように端末がサポートする通信方式や周波数帯によっては、乗り換え先のキャリアで利用できない可能性があることに注意が必要だ。

また、SIMロック解除のもう一つのメリットは、スマートフォンの海外利用が可能になることだ。SIMロックを解除した端末であれば、海外旅行先などで現地の安価なSIMカードを購入し、端末に装着して使うことができる。割高なローミングサービスを利用したり、海外用の端末をレンタルしたりする必要がないため、旅行や出張で海外によく出かける人にとっては、大きなメリットと言えるだろう。

SIMロック解除によるデメリット

一方、SIMロック解除が原則義務化されることにはデメリットもある。もっとも懸念されているのは、端末代金が高騰することだ。たとえばiPhoneなどが実質0円から購入可能となっているように、キャリアは端末代金の一部を肩代わりして、ユーザーの端末購入のハードルを下げる代わりに、月々の料金から回収するというビジネスモデルを採用している。

このビジネスモデルは長期利用を前提としており、キャリアにとっては、端末代金を肩代わりしたユーザーが、早期に他キャリアへ移行してしまっては端末代金を回収できず損失となる。SIMロック解除によってビジネスモデルが成り立たなくなるのであれば、キャリアによる端末代金の肩代わりがなくなり、ユーザーの端末代金の負担額が増加する可能性があるわけだ。

また、SIMロックを解除した端末だからと言って、必ずしも他のキャリアで利用できるわけではなく、それによるトラブルや混乱が起きることも懸念される。各キャリアのネットワークの通信方式や周波数帯は同一ではなく、端末がサポートする周波数帯も各キャリアごとに異なるため、SIMロックを解除して他キャリアに乗り換えても、移行先のキャリアで使えない可能性がある。そのため、SIMロック解除がスタートしても、解除した端末を用いた他キャリアへの乗り換えが増えるかと言えば、実際にはそうはならないかもしれない。