スマートフォンやノートPC、あるいは大型TVなどのディスプレイは強度のあるパネルでできています。そのディスプレイを折り曲げることなどできるはずがない、と長年思われていました。しかし今や折りたたみ式のスマートフォンが登場し「曲がるディスプレイ」は現実のものになっています。

  • 画面を曲げられるサムスンの「Galaxy Z Fold4」

他にも巻物のようにディスプレイを巻き取って大きさを変えられるローラブルディスプレイも各社が開発しています。しかしLGが新たに発表したストレッチャブルディスプレイはこれまでのディスプレイの概念を大きく変えるものになりそうです。このディスプレイは伸ばしたり折り曲げたりある程度なら丸めることも自在にできる、柔らかい素材のディスプレイなのです。現時点ではまだ試作品ですが、数年もすれば実用化されるでしょう。

  • LGが開発したストレッチャブルディスプレイ

硬いパネルのディスプレイをどうやって曲げたり伸ばしたりすることができるのでしょうか。それには人間の目を覆うコンタクトレンズの開発が関係しています。ソフトタイプのコンタクトレンズは目を傷つけないようにやわらかい特殊なシリコン素材が使われていますが、ストレッチャブルディスプレイはそのコンタクトレンズ用のシリコンを採用することで柔らかい基盤を実用化したのです。

  • コンタクトレンズの開発技術がディスプレイに応用された

LGのストレッチャブルディスプレイは12インチサイズ。左右に引っ張ると14インチまで伸ばすことが可能です。表示解像度は100dpi。たとえば13インチのノートPCで1,024x768ドット表示の場合で98dpiとなりますから、このままノートPCへの搭載もできる解像度と言えます。細かい文字の表示も十分可能ですし、動画の視聴も問題なさそうです。

ストレッチャブルディスプレイはディスプレイ全体を曲げられるため、今までには無かった応用が効くようになります。LGによると皮膚、衣類、家具、自動車、航空機など応用分野は様々で、ファッション、ウェアラブル、モビリティ、ゲームなど、さまざまな業界でディスプレイの可能性を広げてくれるとのこと。腕に巻き付けるバンド型のストレッチャブルディスプレイが登場すれば、スマートウォッチは今のような腕時計型ではなく、ベルト全体を表示領域にできる全く新しいデバイスに生まれ変わります。

  • ストレッチャディスプレイならスマートウォッチもこんな形になる(Nubia α)

スマートウォッチはIT製品でありながら、ファッション製品でもあります。ストレッチャブルディスプレイを使ったスマートウォッチはベルト部分に映像やSNSのタイムラインを流すという使い方もできますが、ベルト全体の色を変えたり模様を表示するなどすれば、ベルトを交換するかのように外観を変えられます。ベルトの色が変えられる腕時計が出てきたら、ちょっと欲しいと思いませんか?

このようにストレッチャブルディスプレイはファッション用途への応用も期待されているのです。ストレッチャブルディスプレイは洋服のように柔軟性がありますから、たとえばコートやジャケットの背中部分、あるいはスカートの布地の代わりに使うこともできるでしょう。するとその日の天気やTPOに合わせて洋服の色や模様を変えられるのです。スマホのアプリを使い朝の出勤時は元気を出すため明るい色、夜の食事に向かうときはレストランの雰囲気に合わせて落ち着いた色にする、そんな日常生活が当たり前のものになるかもしれません。季節トレンドに合わせてテクスチャパターンを変えられるのなら、一度買った洋服も長く着られるでしょう。

  • 色やデザインを変えられる服も可能になるかもしれない(THE UNSEEN「Selfridges 」)

またストレッチャブルディスプレイを使った服をブランドが販売し、色やデザインを自在にアレンジできるサブスクサービスという新しいビジネスも考えられます。ブランドがロゴ入りのデザインを多数用意し、サブスクサービス利用者は1か月指定回数変更可能、「アンリミテッド」に加入すれば好きなだけ変更できる、なんてサービスがあったら面白そうです。

柔軟性のあるディスプレイのファッションへの応用はすでに一部のメーカーが取り組んでいます。中国の新興ディスプレイメーカー「Royole」は超薄型で曲げられる7.8インチサイズのフレキシブルディスプレイを帽子やシャツに応用しています。ディスプレイを内蔵したシャツはイベントなどで実際に使われた事例もあるとのこと。

  • Royoleのディスプレイを貼り付けた帽子

Royoleはルイヴィトンと協業してモノグラムのバッグにフレキシブルディスプレイを貼り付け、ニューヨークで開催された「Louis Vuitton Cruise Collection 2020 in New York」でデビューさせました。ストレッチャブルディスプレイを使えばバッグ全体をディスプレイにできますから、ブランドを表すデザインや柄をディスプレイに表示するバッグも可能になるわけです。

  • モノグラムバッグにディスプレイを内蔵

ストレッチャブルディスプレイは壁に貼り付けたり家電の表面を覆うなど、応用の可能性は無限大にあります。実用化はいつになるのか、そして「色の変わる洋服」は現実のものになるのか、今後の進化に期待したいものです。