日本メーカーのスマートフォンは海外市場で苦戦しています。ソニーはXperiaシリーズが一部の国で存在感を持っているものの、ハイエンド製品「XZ」シリーズよりもミッドレンジの「XA」シリーズが海外専用モデルとしてリリースされるなど、ハイエンド機はアップルやサムスンのライバルになりえていません。またパナソニックはインドなど新興市場に格安モデルを展開するにとどまっています。

先進国で目立っているのはアメリカにタフネス端末を出している京セラくらいになっていますが、ここにきてシャープのスマートフォンが世界各国で販売されるようになっています。シャープは2016年に台湾のEMS(電子機器の製造受託サービス)大手、「鴻海(ホンハイ)」グループに買収されました。ホンハイはグループ企業がiPhoneの製造を引き受けるなど携帯電話の製造ノウハウも持っており、関連会社のブランド名でスマートフォンも販売していました。といった中で、シャープを手に入れたことで、自社開発の独自モデルを海外向けに次々とリリースしているのです。

  • 海外IT展示会のシャープブース。買収元のFoxconn(鴻海のブランド)名が併記される

シャープは古くから中国市場などにスマートフォンを展開していましたが、日本向けモデルのローカライズ版であったため現地の消費者への受けは今一つでした。中国向けには専用設計した低価格モデルも展開しましたが、もともとブランド力が無いうえに中国メーカーの躍進もあり、市場開拓はなかなか進みませんでした。

しかしホンハイの傘下になってからは、製品開発や海外展開へのスピードも速まっています。いまや毎週のように中国メーカーがスマートフォン新製品を発表する時代だけに、製品の開発から投入、さらに現地でのマーケティングも含め、旧来の日本式のビジネスでは市場の動くスピードについていけなかったと考えられます。日本でも気が付けばAQUOSブランドのスマートフォンのシェアが急激に上がっていますが、これもホンハイ効果の現れといえるでしょう。

ホンハイの地元でもあり日本製品ファンが多い台湾では海外向けの独自モデルがいち早く販売されています。2016年には大容量バッテリー搭載でポケモンGoに最適な「ポケモンGoスマホ」とニックネームのつけられた「Z2」や、前後1,300万画素カメラを搭載したセルフィー向け製品「M1」などを投入。2018年には狭額縁で18:9のディスプレイを採用した上位モデル「AQUOS S3」も発売されました。

  • シャープが台湾で出しているスマートフォン

中国や香港など中国語圏、そしてシンガポールやインドネシアなどの東南アジアでもシャープはスマートフォンを販売しています。ほとんどのモデルがSnapdragon 600シリーズをチップセットに採用するミッドレンジまたはミッド・ハイレンジモデルで、手ごろな価格に美しいディスプレイときれいなカメラを搭載したモデルが購入できるとアピールしています。

  • シンガポールにも進出。「Japanese Style」をアピール

日本では基本的にキャリアがスマートフォンを販売することから、2年契約を基本として端末を割引販売するのが一般的です。そのためハイエンドモデルも見かけ上は安価に購入できるため、スマートフォンのスペックはやはり高いものが求められます。一方海外では通信回線(SIMカード)と端末は分離した販売が多く、キャリアで買っても端末価格は定価販売、割引もわずかというケースが大半です。そのためブランド力の弱いメーカーがハイスペックで高価な製品を出してもなかなか消費者には認知されません。

  • 海外では単体(SIMフリー)販売も多い

ちなみにミッドレンジクラスのスマートフォンでも、日々SNSやWEB検索を行うには十分といえるスペックを持っています。日本にも上陸して海外で躍進中のOPPOのスマートフォンなどは、Snapdragon 660を搭載したカメラフォンで世界シェアを大きく伸ばしています。ハイエンド中心の端末をそろえているAppleはさておき、ほかのメーカーも世界中で売れ筋モデルはそこそこの値段の製品なのです。

今年6月に市場参入した韓国ではAQUOS S3を発売。最大の特徴は定価39万9,000ウォン(約4万円)という価格で、通信キャリアのSKテレコムからの契約割引を受けると半額以下で購入できます。毎月の支払額もわずかで済むため、日本の格安スマホのような感覚で購入できるわけです。

  • 韓国にも参入。低価格な日本ブランドで売り込みをかける

そしてシャープの海外展開が本気と思えるモデルも出てきました。ヨーロッパ向けの「B10」と「C10」です。B10はフロント1,300万画素、背面は1,300万画素+800万画素という高画質カメラ搭載・セルフィー対応モデルといえる製品です。チップセットはメディアテック製とすることで299ユーロ、3万円台の価格を実現しています。またC10はS2のヨーロッパ向けとなる上位モデルで399ユーロ。どちらもライバルはファーウェイやASUSのミッドレンジモデルでしょう。

  • ヨーロッパ向けのC10はシャープ独特のノッチあり

2017年のシャープのスマートフォン国内出荷量は509.4万台(MM総研調べ)。海外でも同量以上を販売すれば、世界シェア上位入りもいつかは夢ではなくなります。もしかすると数年以内に、シャープのスマートフォンが世界中どこでも販売されている、そんな時代がやってくるかもしれません。