携帯電話大手3社が5Gの商用サービスを開始したことから、エリアはかなり限定されるが実際に5Gを利用することは可能だ。しかしながらその通信速度を確認すると、必ずしも5Gらしい高速通信ができる訳ではなく、状況によっては4G並みの通信速度にとどまるケースもあるようです。一体なぜでしょうか。→過去の回はこちらを参照。

5Gが入っているのに通信速度が4G並みの理由は?

国内で5Gの商用サービスが始まって3カ月ほどの時間が経ちました。しかし、5Gのサービスエリアが非常に狭いことに加え、その間は新型コロナウイルスの感染拡大で政府が緊急事態宣言を打ち出すなどして、都市部を中心に外出自粛が続いたことから実際に5Gのサービスを契約し、試したという人はまだ多くないかもしれません。

しかしながら市場には徐々に5G対応スマートフォンが登場してきていますし、緊急事態宣言が解除されたことで、地域によっては5G対応エリアにも足を運びやすくなったことから、今後は徐々に5Gを実際に体験するケースは増えてくるのではないでしょうか。

筆者も実際に5Gの回線を契約し、高速大容量通信を体験するべく東京都心のさまざまな場所で5Gによる通信を試しています。確かに5Gのアンテナが明確に見える場所など、環境が整っている場所で通信をすれば、1Gbpsとはいかないまでも下りで600~800Mbpsの通信速度を実現するなど、5Gらしい高速通信を体感できるようです。

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    5Gスマートフォンは環境が良ければ下り数百Mbps~1Gbpsの通信が可能だが、場合によっては通信速度が4G並みに落ちることもあるようだ

しかし、そうしたアンテナが見えない場所では通信速度が下り100~200Mbps程度にまで下がることも多く、場合によっては数十Mbps程度と、4G並みの通信速度に落ちてしまう場合もあるようです。いずれの場所でもスマートフォンのアンテナピクトには「5G」の文字が表示されているにもかかわらず、環境によって通信速度にはかなりムラがあるようです。

その理由として、5Gの電波の入り具合が大きく影響しているのは確かでしょう。現在の5Gは障害物に弱く遠くに飛びにくいとされる高い周波数帯が用いられているのに加え、現在は5G基地局の設置数自体が非常に少なく、5Gの電波が良く入る場所自体が非常に限られていることから、少しでも外れた所では5Gの電波の入りが悪く不安定になり、通信速度も落ちてしまうというのは容易に想像できます。

ですが、中には5Gのアンテナが安定して立っているにもかかわらず、通信速度が上がらないというケースも少なからず見られます。そこに影響しているのは、実は「4G」なのです。

NSA環境下では密接に絡み合う4Gと5G

現在、各社の5Gネットワークは携帯電話会社が5Gへの移行をスムーズに進められるようにするため、4Gのネットワーク設備の中に5Gの基地局を設置するノンスタンドアローン(NSA)での運用となっていることは、何度か説明している通りです。

それゆえNSAでの運用時は純粋に5Gの基地局だけに接続して通信するということはできず、まず5Gのベースとなっている4Gの基地局に接続し、その後5Gの基地局にも接続する形となっているのです。

そのため4Gの基地局に接続できても、5Gの電波をうまく拾うことができず、4Gにしか繋がらないという事態も起き得ます。しかし、実はNSAの仕様上、そうした場合でも5Gに接続しているという扱いとなり、アンテナピクトは5Gとなっているが、実際の通信は4Gという状況が起き得てしまうのです。

これがアンテナピクトが5Gでも通信速度が上がらない原因の1つ。仕組み上やむを得ないとはいえ、ユーザー側からすると紛らわしいことは確かであり、海外ではこの仕組みが消費者から問題視され、トラブルが生じたこともあるようです。

そしてもう1つの原因は「デュアルコネクティビティ」にあります。デュアルコネクティビティとは異なる基地局の電波を束ねて高速化する技術であり、同じ基地局の電波を束ねる「キャリアアグリゲーション」に類するモバイル通信の高速化技術で、NSAで運用されている4Gと5Gのネットワークにも適用できることから、現在の5Gネットワークは4Gとのデュアルコネクティビティによって高速化されています。

それだけに4Gの通信速度が落ちてしまえば、その分5Gでの通信速度は下がってしまう訳です。4Gは利用者が多く環境によって通信速度が変動しやすいことから、都市部などでは4Gの通信速度がトータルでの通信速度を左右する可能性が高いのです。

実は携帯電話各社は5Gのサービス開始に当たり、4Gのネットワークを強化していくことも同時に打ち出していました。それはここまで挙げた理由から、5Gの通信速度に4Gが大きく影響してしまうが故といえるでしょう。

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    KDDIは5Gのサービス開始前に、4Gのネットワーク整備も強化し“ピカピカ”にするとしていたが、そこにはNSAの環境下で、4Gの通信速度が5Gの通信速度に大きな影響を与えるが故といえる

しかし今後、4Gの電波を5Gと共用してエリアを広げる「ダイナミックスペクトラムシェアリング」が導入されれば、5G単体のネットワークとなるスタンドアローン運用に移行した後であっても、5Gのエリアが広がっても4Gと通信速度が大きく変わらないという事象増えていくものと考えられます。

5Gのネットワークは、すべてにおいて高速大容量を実現するとは限らないものなので、5Gのアンテナが立っているからといって必ずしも4Gより劇的に高速になるとは限らないことは知っておく必要があるでしょう。

佐野正弘

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。