今、労働市場は大きく変化している。AIによる革新、第4次産業革命、人生100年時代などが到来し、個人の働き方はもちろん、企業の在り方も急速に変わりつつあるのだ。

この変革の時代に、労働者はどのように自らを価値を高めていくべきなのか。そして企業はどのように人材を確保、あるいは育成していくべきなのか。

コーナーストーンオンデマンドジャパンは2月26日、これからの人材育成の在り方をテーマに「コーナーストーン・タレントマネジメントフォーラム」を開催した。その基調講演には、経済産業省 産業人材政策室長 能村幸輝氏が登壇。日本における人材マネジメントの現状と課題を明らかにすると共に、今後の人材マネジメントや育成について語った。

社会の変化に企業はどう向き合うか - 日本の課題

能村氏はまず、2019年度から2020年度にかけて政府が策定した成長戦略について説明した。

同氏によると「2019年度の成長戦略では”組織”と”人”の変革が柱になる」と政府は考えており、その戦略は2020年度も変わらず続いていくのだという。

加えて、現在進行系で起きている出来事として「少子高齢化」と「人生100年時代」、さらに「AI×データ」をキーワードとする「第4次産業革命」を挙げ、これらを背景として働き方や学び方は否応なしに変わっていくだろうと述べた。

では、具体的に世の中の働き方や組織はどのように変化していくのだろうか。

能村氏曰く、すでに米国ではその潮流として「労働市場の分極化」が進展しているのだという。つまり、医療や対個人のサービス職などAIに代替できない職種や、高度な知識を必要とする専門職、技術職、管理職が伸びる一方で、AIや機械による代替が可能な製造業系や事務関連の職が減少の一途をたどっているというのだ。この流れは日本でも起きつつある。

能村氏はもう一つの潮流として、学問の観点からの変化を挙げる。

今後、心理学や社会科学、物理学のようなAIでの代替が難しい分野のスキルが求められるようになり、「ヒューマンファクターエンジニア」のような職種が増えていくことが予想される。実際に”GAFA”のような世界のトップIT企業では、こうした分野について修士レベル以上の知見を持つ人材を採用する動きが始まっている。

日本はどうか。

「日本でも同様にヒューマンファクターに着目した取り組みが進んでいくと見られますが、日本企業は米国企業に比べて人事面で差があり、優秀層や成果の高い者の昇進などが少ない傾向があります」

こうした日本企業の特性は給与にも表れており、社外から採用したデジタル専門人材に対して6割強の企業が一般社員と同じ賃金制度を適用しているのだという。今後企業の人材獲得や生産性向上の成否は、こうした”日本的”な制度をいかに改革していけるかにかかっていると言えるだろう。

オープンイノベーションと人材の流動化

オープンイノベーションもまた、次世代の成長戦略における重要な要素である。

能村氏によると、日本企業は大学や公的機関とのオープンイノベーションにおいては欧米企業と遜色ないレベルで進んでいるのだが、起業家やスタートアップ企業/競合企業とのオープンイノベーションでは大きな差があるのだという。

また、人材の流動化についても課題は多い。

流動化を促進する鍵の1つが兼業/副業だが、希望者は近年増加傾向にあるものの、実際に実践できている人口は横ばい傾向なのだという。兼業/副業は多様な経験を積む場として機能しており、本業へのマイナス影響もほとんどないと能村氏は説明。パーソル総合研究所が2019年2月に行った「副業の実態・意識調査」を挙げ、兼業/副業実践者の約2割はむしろ本業へのモチベーションが高まったと回答していることを紹介した。

「管理職や専門職においては特に、副業経験により本業の賃金パフォーマンスが上がることがわかっています。なかでも思考/分析タスクに良い影響があるようです」

副業による本業への変化/出典:副業の実態・意識調査(パーソル総合研究所/2019年2月)

兼業/副業を認めていない企業の多くは、「社員の総労働時間が把握できない」「社員の健康確保が図れない」という理由を挙げているが、そうした課題は今後解消していく必要があるだろう。