焼き肉、ステーキ、トンカツなどなど、肉をメインにした料理は食欲をそそるもの。クリエイターの中にも肉料理を好む「肉食」な人は多いかもしれません。そんな「肉」について、そのおいしさだけでなく、健康面について考えていますか?

この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。第13回は、クリエイターに最近人気がある「肉」の上手な食べ方を考えます。


若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID:@asilliza

一昔前まで、ミュージシャンやクリエイティブ職の方々には、ベジタリアンの方が多かった記憶があります。これはヒッピームーブメントの流れを汲んだもので、インドの土着宗教・民間医学が結びついたものの影響を受けていました。

でも、現代のクリエイターはどちらかと言えば肉食系であるようですね。このコラムの担当編集から、肉料理をはじめ、ガッツリしたものを食べたことをTwitterで発信するクリエイターは多くいる、と聞いたこともあります。

余談ですが、インドの医学というと、アーユルヴェーダを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はアーユルヴェーダでは肉食を禁じてはいません。また、東洋医学においても肉食は禁忌ではありません。アーユルヴェーダでも東洋医学でも、肉類は体を温めて衰弱した体を復活させるものと考えられています。

かつてはがんリスクの面から肉食を忌避する動きもありましたが、2015年に国立がん研究センターが発表したがんリスクについての見解によると、日本人の肉類の平均摂取量は世界的に最も低いレベルでがんリスクへの影響はきわめて低く、総合的な健康への影響を鑑みると「ある程度摂取すべき」と言及されています。

ですが、食べるタイミングについては注意が必要です。アーユルヴェーダや東洋医学では、あまりに疲労困憊した場合は肉を煮込んでスープにし、肉本体は食べずにエキス分だけを摂取するようにと指導されます。疲労している場合は消化能力も落ちていて、肉を固形で食べると胃腸に対する負担が大きすぎるため、これは一理ある考えです。

例を挙げれば、徹夜明けにいきなり「焼肉!!!焼肉!!!」と勢い込んで肉を食べに行くのは避けた方がよい、ということです。肉料理の多くはハレの性質を持つので、つい打ち上げの席で食べたくなるのはわかるのですけどね。

修羅場を生き抜く「上手い」肉の食べ方

修羅場の最中はたいてい炭水化物過多の食生活に陥りがちで、タンパク質が足りなくなります。タンパク質不足は中枢神経系の働きを弱らせるのですが、クリエイターにとって一番問題なのはセロトニン不足で鬱々とした気分になること。肉類や乳製品に多く含まれるトリプトファンがセロトニンの原料となりますので、意識的に食べることは作品のクオリティを保つために役立つともいえるでしょう。

また、豚肉にはビタミンB1が多く含まれていますが、こちらもクリエイターには必須の栄養素。脳を酷使する人は、脳内でぶどう糖を燃焼させる量が多いため、糖代謝に必須であるビタミンB1を多く消費するのです。甘いものは脳の栄養……と言ってスイーツをたくさん摂る方は多くいらっしゃいますが、ビタミンB1を多く含む食品も同様に摂取しているかというと疑問です。ブドウ糖が体内にたくさんあったとしても、ビタミン不足の状態では燃焼し、「脳の栄養」として使うことができないのです。

このように、肉類を摂取することは体に良い影響がある反面、食べ過ぎると問題が出てきます。ほとんどの肉類は油脂も多く含むため、タンパク質補給というよりも油の過剰摂取になりがちであり、カロリー過多の原因にもなってしまうのです。

また、ご存じの通り、おいしい肉ほど油分が多いもの。ささみや、皮を除いた鶏むね肉よりもも肉の方が柔らかくてジューシーですし、好みによるところはあるものの、ステーキはひれ肉よりサーロインの方が美味しいと思われる方が多いのではないでしょうか。特に、ごちそうの代表格である霜降りの牛肉や、焼き鳥では単体でも食べられている鶏皮の部分などは油の塊です。

クリエイターの創作をサポートしてくれる肉類。ですが、肉に限らず単体の食品「ばかり」食べるのは、栄養のバランスを崩すもとです。食べる量、そして脂質の量には気をつけてくださいね。食事のバランスについては、連載第4回の「脳の働きを一定に保つ食事の方法」を参考にしてみてください。