米小売り市場で数十年に一度の出来事が起きた。長年Walmartが君臨してきた米小売りトップの座をAmazonが奪った。

米Walmartが17日に発表した2021年5~7月期決算によると、7月末時点の同社の12カ月間の売上高は5,660億ドルだった。New York Timesによると、FactSetがまとめたアナリストの予測で、6月末まで12カ月間のAmazonの流通総額(GMV:消費者が購入した商品売上の総額)は6,100億ドルを超えている。現時点では予測に基づいた王座ではあるが、AmazonがWalmartを抜いて中国以外の地域で世界最大の小売業者になった。

米小売りトップの歴史を振り返ると、多店舗展開と組み合わせた大量仕入れ/大量販売、価格引き下げで食料品チェーンのA&Pが大戦後の米国市場を制覇。1960年代に入って、ミドルクラスをターゲットに、車社会に対応させた郊外のデパートとカタログ販売で急成長したSearsがトップに。そして格安大型スーパーのWalmartが1990年代にSearsを追い抜いた。Walmartはディスカウントスーパーと表現される「安さ」で知られるが、同社の革新性は高度に管理されて効率的に商品を動かす巨大物流ネットワークの構築にあり、個人商店や地元資本の小規模スーパーしか存在しないような小都市にも進出した。

そのWalmartの強みは今も色褪せないものの、オンラインショッピングという新たな小売りカテゴリーを開拓し、Web・モバイル時代に急成長を遂げたAmazonに、30年近く維持してきた首位の座を明け渡した。時代の移り変わりを感じさせる出来事だ。

Amazonがトップになるのは予想されていたことだが、早くても2022年と見られていた。そのペースがコロナ禍の影響で加速した。Walmartも実店舗と連携するオンラインストアを強化しており、昨年に売り上げを240億ドルを拡大した。だが、同時期にAmazonは流通総額を2,000億ドル近く増加させたと見られている。

Amazonが苦戦している分野に新勢力

Amazonの創業は1994年だ。1990年代にWalmartが米小売りトップに上りつめた時に、当時オンライン書店でしかなかったAmazonが追い抜くなんて想像もできなかった。同様に、1960年代にSearsがA&Pを上回った時に、当時アーカンソー州のディスカウントストアに過ぎなかったWalmart(第1号店は1962年)がSearsと抜くことを誰も予想できなかったはずだ。

今Amazonの時代の終わりを予測するのは難しい。だが、トップの交替は、さらに次の時代に向けた始まりでもある。4〜6月期決算において新たな挑戦者が現れている。例えば、フードデリバリーで米シェアトップのDoorDashだ。巨人Amazonにフードデリバリーでは競合にならないという声が聞こえてきそうだが、Walmartがトップになった時にAmazonはオンライン書店に過ぎなかったのだ。

DoorDashの2021年4〜6月期の売上高は12億3,600万ドル。前年同期比83%増で、注文総数が過去最多を塗りかえた。ところが、時間外取引で同社の株価が下落した。前年同期の損益が2,300万ドルの黒字だったのに対して、今年6月期は1億200万ドルの赤字。アナリスト予想の平均は6,600万ドルの赤字だったからだ。原因は、フードデリバリー以外の分野の事業構築や海外進出、マーケティング費用の増加など。

この大規模投資について意見が分かれており、人の外出増加でフードデリバリーの成長が鈍化する逆風に直面していると見る向きがあれば、ギグワークの新たな可能性と期待する声も聞こえる。

注目したいのはDashersと呼ばれるDoorDashのドライバー(配達員)の増加だ。2017年に約10万人だったDashersは、昨年SECに提出した書類で100万人となっており、最新の情報だとコロナ禍の3月中旬から9月の間にDashersが190万人増加したという。これが何を意味するかというと、ニューヨークやサンフランシスコといった大都市に限られるが、スマートフォンで注文してすぐに届けてもらえる配達ネットワークが整おうとしていること。これをフードデリバリーだけにとどめていたら、ポストコロナでフードデリバリーの注文数が減少してドライバー余りが生じ、Dashersをカーシェアリングなど他のギグワークに奪われるだろう。そこでグローサリー、日用品や雑貨など、フードデリバリー以外にもDashersを活かせる新分野の開拓に乗り出した。

数時間で届けるデリバリーは今Amazonが最も苦戦している分野であり、DoorDashはAmazonが持っていないものを持っている。そしてDoorDashは、Amazonを脅威に思うローカルの小売店やローカルの雇用をサポートしたい人達のニーズに応えられる。DoorDashの4〜6月期の販売&マーケティング費用は154%増の4億2,700万ドル。その多くをサービスの宣伝ではなく、Dashersの獲得に費やし、元AmazonのChristopher Payne氏をリーダーにサービス拡大を進めている。

今年初めに食料品チェーンのAlbertsonsが自前のデリバリーサービスを廃止してDoorDashと提携した。デリバリーが不調だったのではなく、コロナ禍で急増したオンライン注文に対応しきれなくなったためだ。顧客は低コストで数時間で届くサービスを求めており、それを速やかに実現するためにDoorDashとの提携を選択した。Dashersのようなローカルの配達ネットワークの価値が少しずつ認められ始めている。

  • DoorDashは2013年にシリコンバレーの中心地であるパロアルトで、Palo Alto Food Deliveryとしてフードデリバリーサービスを開始。DoorDashにはサブスクリプションサービスがあり、ほかにもDoubleDashという1度の注文で複数の店を回って届けてもらうサービスなど、賢く使うとデリバリー費用を抑えられる。