米国で新学年が始まった。この9月からようやくほとんどの公立の幼稚園・小学校がフルオープンしている。ウチの子の学校の場合、前学期から対面授業とオンライン授業を選べるようになったが、対面授業を選んでも、教室内の人数を減らすために1クラスを午前クラスと午後クラスに分けていたので、学校にいるのは半日(授業は3時間)だけ。残りは自宅でオンライン授業だった。今学期は対面授業を選ぶと、コロナ禍以前と同じように朝に登校して2時過ぎまで学校で過ごす。

昨年の春から1年半、本当に長かった……。公立学校が本格的に再開する経済的効果は非常に大きいと見られている。幼稚園・小学生の子供がいたら、保護者は子供の面倒をみることが優先される。不足する授業の代わりに勉強もみなければならない。そういったことから働き盛りの世代が解放され、以前と同じように集中して長い時間を仕事に割り当てられるようになる。

米国の公立学校にはスクールランチがあるが、1年半の間に子供達が学校でランチを食べることはなかった。それでもウチの子供の学校は以前と同じようにスクールランチを仕入れ、仕入れた食材を希望者に無料で配っていた。1週間分をひとまとめなので牛乳1ガロン(3.785リットル)、プラムとリンゴが5個ずつとかすごい量である。

なぜそんなことをしていたのかというと、地域の業者からの仕入れも多く、突然ストップしてしまったら長期的な計画で生産されているものが行き場を失って食品ロスにつながるかもしれない。また、スクールランチがない状態が長期化して生産者が減産したり、あるいは別の出荷先に切り換えることになったら、学校再開の時にスクールランチが用意できないということも起こり得る。地域の食品の流通が混乱するのを避けるために、学校は変わらずスクールランチの食材を仕入れ続けた。配布が月曜日の昼前という受け取りに行きにくい時間帯だったが、そうした事情なので普段スクールランチを利用していない家庭も協力して全て消費するように努めた。

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全米規模で見たら、食品を大量に生産・輸入し、大量に捨てる構造は今も健在だが、農業が盛んで小規模農家も多いカリフォルニア州やその上にあるオレゴン州では2010年代から地産地消を心掛ける消費者が増え続けている。食品ロスの問題についても、生産や流通の側だけに責任を押し付けるのではなく、"消費する側の責任"も意識されている。

それがコロナ禍になってより強まった。山火事や天候の問題も重なって地域の小規模農家の出荷が不安定になり、そのため地元の食材やオーガニック野菜・果物を扱うスーパーは、以前のように常に新鮮な商品で棚を埋めつくすのではなく、廃棄を出さないように陳列する商品の種類や量を減らし、以前と比べて同じ商品を長く並べ続けるようになった。それでも大手食料品スーパーチェーンに買い物客を奪われることはなく、週末の賑わいは以前と変わらない。買い物客も変化を受け入れ、今や少しぐらい見かけの悪い野菜・果物でも普通に買っていく。

今年5月に学術誌「Appetite」に掲載された論文「"Waste not and stay at home” evidence of decreased food waste during the COVID-19 pandemic from the U.S. and Italy」によると、米国では調査に協力した人の61.5%がコロナ禍から食品の無駄を減らす意識を高めた。食べ物を捨てない意識は、ポストコロナの変化の1つとして定着しそうだ。

野菜・果物を長持ちさせる植物由来の膜

生鮮食品は生産から販売までの過程で劣化し続け、商品として価値を減少させていく。それを遅くし、高い商品価値を長持ちさせられるようにラップに包装するのも方法だが、米国でプラスチック包装は嫌われる。オーガニック野菜を扱うような意識の高いスーパーほどその傾向が強く、野菜はそのまま山積みで売られている。ジレンマである。

そうした中、カリフォルニア州サンタバーバラを拠点とするスタートアップ「Apeel Sciences」が2億5,000万ドルの調達に成功し、評価額が20億ドルを超えた。インベスターには、シリコンバレーのベンチャーキャピタル会社Andreessen Horowitz、Bill & Melinda Gates Foundation、YouTube CEOのSusan Wojcicki氏、さらにケイティ・ペリーやオプラ・ウィンフリーなど錚々たる面々が名を連ねる。

Apeelは、植物の皮や果肉、種に含まれる成分を使った食品コーティングを開発している。無臭・無味で透明。流通段階では粉末状態で、液体にして、それをスプレーまたは塗布 する。それによって野菜や果物の水分を閉じ込め、酸素に触れないようにして腐敗を遅らせる。Apeelによると、見えない膜で包まれた野菜・果物は食べられる状態を2倍長く保てる。塗るだけだから、生産物を長期保存する冷蔵設備を持たない小規模農家でも簡単に導入でき、そのまま出荷できるのでラップ包装のようなゴミも出ない。

  • 試験的な提供から、コロナ禍をきっかけに注目が高まって、Apeelを用いたアボカドやキュウリ、オレンジを扱うスーパーが増加している

Apeelを塗布したアボカドがすでに一部のスーパーに流通しており、ウチの地域でも3つの食料品店で購入できる。アボカドは調理のタイミングが難しく、油断しているとあっという間に変色してしまうので、スーパーでは食べ頃がまだまだ遠そうな固い状態で並んでいるのが常だ。ところが、Apeel済みのアボカドは良い頃合いで並んでいて、買ってきてからもその状態がしばらく保たれる。食べ頃を逃さず、しっかり使い切れる。

まだ固い状態で収穫することなく、美味しい状態の野菜・果物を安全に消費者に届けられる。生産者や食料品店、そして消費者にとってうれしい技術である。