「The Fascination」というD2C(Direct to Consumer)ブランドを紹介する新しいキュレーションサイトがサービスを開始した。

自身も「Leesa」というマットレス・ブランドを成功させているDavid Wolfe氏とMatt Hayes氏が立ち上げたサイトで、特徴はエディトリアル力だ。商品の質や技術を見る「サイエンス」と、起業や事業運営のストーリー「ソウル」の2点からブランドを分析。特徴が一目でわかるように「オーガニック」や「メイドインUSA」といったバッジを採用する一方で、ブランドプロフィールのページもちょっとした読み物のようになっている。商品ページには、「Pros(おすすめポイント)/Cons(おすすめできないポイント)」、品質や価値/ブランド/体験といった様々な項目を用意した5つ星評価、そして実際に使用したレビュー記事が並ぶ。基本的におすすめできるブランドを紹介しているが、消費者視点で不満点も指摘し、購入または契約するかどうか迷っている人にとって参考になるコンテンツになっている。

  • スニーカーブランド「Allbirds」共同創業者の「オレたちのサスティナビリティのアプローチをどうぞ盗んでくれ」を紹介するなど、目的意識を持った100以上のD2Cブランドを集めてスタートした「The Fascination」

    スニーカーブランド「Allbirds」共同創業者の「オレたちのサスティナビリティのアプローチをどうぞ盗んでくれ」を紹介するなど、目的意識を持った100以上のD2Cブランドを集めてスタートした「The Fascination」

第814回で取り上げた「Thingtesting」、元Snapchatエグゼクティブが立ち上げた「Verishop」、Tinderのようにユーザーが商品を見ながら「YES/NO」を選択するとおすすめがパーソナライズされる「The Yes」、登録メンバー同士でショッピングに関するQ&Aを共有する「Masse」など、ショッピング向けの情報収集をサポートするサービスが続々と登場している。EコマースプラットフォームのShopifyも昨年春に「Shop」という独立系ブランドから商品を購入できるモバイルショッピングアシスタント・アプリをリリース。2020年末には登録ユーザーが1億人を超えた。

その背景にはオンライン専門ブランドの増加がある。メガネのWarby Parker、マットレスのCasper、アパレルのBonobos、コスメのGlossierなど、2010年代にいくつかのD2Cブランドが台頭してきた時は、独自のEコマースサイトとSNSを駆使して消費者と直接的な関係を築いくビジネスモデルが珍しく、それがブランドと商品の個性にもなっていた。

しかし、ShopifyやWooCommerce、Stripe、PayPalといったEコマース向けのプラットフォームを用いて簡単にオンラインでビジネスを展開できるようになり、オンライン専門ブランドであることが個性とは見なされなくなってきた。例えば、Casperが開拓したマットレスのオンライン通販は、2019年夏頃の時点で米国で約175ブランドに増加し、その後もさらに増え続けて今や数えきれない状態だ。「Mattress-in-a-Box」と検索すると同じようなマットレスがずらっと並び、それぞれがマットレスジェルの違いなどをアピールしているものの、大量の情報を前に消費者は迷うばかりである。

だから、2020〜2021年はD2Cブランドのリアル店舗が違いを生み出すようになると予想されていた。例えば、Casperが強みとしているのは優れた睡眠体験であり、同社は実際に昼寝(15〜45分)してその違いを体験してもらえるように、リアル店舗に昼寝用スペースを設け、カプセルホテルのような移動式体験施設を用意している。そうしたオンラインで成長したD2Cブランドならではのユニークなリアル展開が期待されていた。ところが、コロナ禍で一気にしぼんでしまい、逆に消費者がオンラインで買い物する習慣の常態化への備えが必要になっている

  • Casperのニューヨークストアに設置されている予約制の昼寝体験スペース

一昨年の11月にNikeがAmazonから撤退した。消費者とより直接的で緊密な関係を築いていくためと説明していたが、深読みするとAmazonから離れているのはNikeだけではない。Amazonが対策に乗り出してはいるものの偽造品の横行や不正レビューが根強く、そうした問題を消費者が嫌い、安心して買い物できる環境を強く求め始めているから、Nikeや他の多くのファッションブランド、小売企業が、Amazonのような販売プラットフォームから撤退し、独自に消費者とのつながりを求め始めている。

Nikeのような大手ブランドまで土俵に上がってきて、D2C市場は中小のブランドにとって一層厳しい状況になっている。だが、見方を変えると、信頼できるブランド、優れた体験を提供してくれるブランド、品質のよい商品に対するニーズが高まっており、消費者は発見できる方法を求めている。それに応えようとしているのが、Fascinationのようなキュレーションサービスである。

消費者の利益になるブランドを引き上げていく、消費者のためのサービスであり続けてこそ意義のあるキュレーションサービスであり、そのための事業モデルの確立が今後の課題になる。

例えば、「Consumer Reports」のような存在になることだ。Consumer Reportsは1936年から続く、消費者のためにコンシューマグッズを評価する媒体であり、評価対象となる企業の広告を一切掲載せず、記事を企業の広告や宣伝に使用することも禁じている。そうした独立性や公平性を保つ徹底した姿勢で消費者から大きな信頼を得て、レポート雑誌の販売やオンライン版のサブスクリプションから収益を上げている。サブスクリプションによるメンバー制のThingtestingは、Consumer Reportsのアプローチに近い。

Fascinationの場合、同社は現在アフィリエイト広告と広告記事を掲載しており、将来的にはD2Cブランドの商品をFascinationからも直接購入できるマーケットプレイス化を目指している。D2Cブランドの中にはオンラインである程度の成長した後、チャネルを広げるために卸しやショッピングモールに展開し始めるブランドが出ている。マーケットプレイス型のキュレーションサービスはそのオンライン版、D2Cブランドがオンライン上でチャネル拡大に取り組める場になる。