米カリフォルニア州で、継続的に自動更新されるサービスの解約に関して消費者を保護する法案 (Senate Bill No. 313)が7月1日に施行された。オンラインで契約したサブスクリプションや自動更新されるサービスに、ネットを通じた解約の仕組みを用意するように義務づけている。

解約・退会・解除などを簡単にできないことは日本でも珍しくないが、米国はその比ではない。一例として、私が数年前に大手携帯キャリアのサービスを解約した時のことを紹介しよう。その際、まずショップに行ったら、解約は電話のみで受け付けていると言われた。新規番号の登録を含めてショップで簡単に契約できるのに、解約は受け付けないというのはおかしな話だ。おそらく、解約に関しては、解約を思いとどまらせる専任スタッフが対応するということだろう。

そこで文句を言っても仕方がないのでカスタマーサポートに電話した。ロボットに「解約のための電話」と告げて、待たされること十数分、出てきたスタッフに「解約したい」と告げると、理由をたずねられた。他のサービスに乗り換えると言ったら、セールストークがスタート。それを乗り切って、ようやく解約手続きに移ると、担当者に替わるという。再び長く待たされ、ようやく出てきた人からまた理由を聞かれて説明。解約担当者は強い権限を持つらしく、今度は期間限定の特別価格を提案してきた。いい加減うんざりしていたし、そこで折れたら永遠に付き合うことになりそうだから、それも突っぱねてようやく解約できた。解約プロセス自体は実質10分程度だったのに、1時間を軽くオーバーする時間が潰された。

ショップやオンラインで簡単に契約できるのに、解約は不便な電話。電話したら「待たされる」「たらい回し」は当たり前。フォーラムをチェックすると、電話で解約手続きをした後、読んだ後に返信しないと解約が確定しないメールが送られてきて、それを見落として最初からやり直しというケースも。消費者の権利侵害が認められるんじゃないかと思うほど、ひどい体験である。

  • オンラインで簡単にサービスの追加や削除、解約が可能な「YouTube TV」。ひどいカスタマー対応で知られる従来のケーブルTVサービスは、オンラインで簡単に契約やチャンネルの追加を受け付けるのに、解約や削除には電話での申し込みを要求。とにかく面倒くさかったのが、ケーブルTVからストリーミングへの移行が起こっている理由の1つ。

カリフォルニア州の新ルールでは、新聞や雑誌の定期購読、ミールデリバリー、ビデオストリーミング等々、どのようなサービスでもサブスクリプションや自動更新が行われるサービスに対して、契約時の透明性を求めている。解約を受け付ける方法を分かりやすく説明するのはもちろん、たとえば無料トライアルや特別割引きなどを利用する人に対して、そうしたプロモーション期間が終了した後にいくらの課金になるのか適切な方法で伝え、契約者の同意なく、プロモーション期間の終了と共に料金を請求するのを禁じている。

さらにオンラインで結ばれた契約に関しては、オンラインでキャンセルできる仕組みを用意することを義務づけている。ユーザーとしてはWebサイトで簡単にキャンセルできるのが望ましいが、業者がキャンセル申し込みのフォームを用意し、契約者が記入したものをメールで受け付けることも認められている。それでもキャンセルのために電話をかけたり、またはショップに行ったり、解約希望の理由を説明することになるのに比べたら楽である。

Senate Bill No. 313は昨年9月に州知事が署名し、サービス提供者側からは「キャンセルの乱発が起こる」、理由も聞かずにキャンセルを受け付けると「深い顧客サポートを提供できなくなる」といった声が挙がっていた。しかし、これまでの変化を見る限りでは、この法案は顧客にもサービス提供者側にもプラス効果になりそうだ。

音楽ストリーミングサービスやビデオストリーミングサービスの普及をきっかけに、サブスクリプション契約や自動更新契約を提供するサービスが、この数年で増加している。音楽ストリーミング、ビデオストリーミング、YouTubeのプレミアサービス、Windows 365、クラウドストレージ、パスワード管理など、私自身それまで買い切りで使用していたソフトや、広告ベース無料で使っていたサービスをサブスクリプション型に切り替えることが増えた。ミールデリバリーのように、サブスクリプションで新たに利用し始めたサービスもある。

そうしたサービスの契約を検討する際に、私は必ずキャンセルの方法を確認している。「いつでもキャンセル可能」という看板だけ目立つところに置いて、実際にキャンセルする方法を複雑にしているサービスもあるから用心だ。アカウント管理に「キャンセル」が用意されていなかったり、またはPayPalやApple Payなど利用者が支払いをコントロールできる決済方法を採用していない場合は、それがどんなに魅力的なサービスでも契約しない。米国の面倒な解約手続きが身に染みているというのもあるが、そもそも自由にキャンセルさせない自動更新型のサービスは、業者が本当に良いサービスを提供しているのか疑いたくなる。限られた顧客をライバルと奪い合う大変さは理解できるが、入りやすく出にくくしてはユーザーの信用を損なう。逆に、本当にいつでも簡単にキャンセルできるサービスだと、業者が自信を持ってサービスを提供しているのが伝わってきて契約に前向きになれる。

Senate Bill No. 313の効果はこれから分かるのではなく、7月1日の施行に間に合わせるために昨年末頃からサービス提供者側の対応が進められてきた。今でも未対応なサービスもあるが、しっかりとカスタマー対応しているサービスなら、FAQページやサポート・ページで簡単にキャンセルの方法を確認できる。安心して契約しやすくなった。そう感じているのは、おそらく私だけではないだろう。

安心して契約できるサービスが増え、良質なサービスを使う人が増加することで、エンターテインメント、ゲーム、ニュース、コミュニケーションなど幅広い分野で採用され始めたサブスクリプション型サービスの成長が加速する。ユーザーをとどめておくために、サービス提供は消費者のためのサービス向上に努める。Senate Bill No. 313は、プラス循環を生み出すきっかけになり得る。