宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月25日、筑波宇宙センターにて、H-IIBロケット3号機に搭載される超小型衛星5機をプレス向けに公開した。これらの5機は宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)3号機の与圧部に格納され、7月21日に打ち上げられる予定。

公開された5機の超小型衛星

HTV3号機に搭載される衛星は、JAXAの公募で選ばれた「RAIKO」(和歌山大学、東北大学など)、「FITSAT-1」(福岡工業大学)、「WE WISH」(明星電気)の3機と、NASAが提供した「F-1」(NanoRacks)、「TechEdSat」(Ames Research Center)の2機。大きさは、RAIKO以外の4機が1Uサイズ(10cm角)で、RAIKOのみ、それを2つ並べた2Uサイズとなっている。

JAXAの公募衛星は3機

NASA提供の2機も搭載する

今回のプレス公開では、当初、日本側の衛星のみ公開される予定であったが、米国側も含めた計5機全てが公開された。ただし、米国側からの説明者はおらず、JAXAもミッションの詳細については関知していないとのことで、衛星の内容については、配布資料以上の情報は出てこなかった。

「F-1」は電子基板をそのまま外装にしているように見える。チップやスイッチがむきだしのまま実装されている。この衛星はベトナムの大学が開発したとのこと

「TechEdSat」の周囲に巻き付いているメジャーはアンテナだろう。それはともかく、この三角の太陽電池は何だろう? 日本の超小型衛星では見かけないタイプだ

ISSからの初の衛星放出ミッション

これら5機のような超小型衛星は、大型の主衛星を搭載するロケットの余剰能力を利用して打ち上げられる場合が多い。このようにすることで、単独で打ち上げる場合に比べ、コストを圧倒的に安く抑えることができるのだが(JAXAの公募では無償、ただし商用利用は不可)、世界的なニーズの高まりに対して、打ち上げ機会が少ないことが大きな課題となっていた。

JAXAは現在、H-IIAロケットを利用した相乗り衛星の打ち上げを実施しているが、今回の試みは、年1回のペースでフライトが予定されているHTVの打ち上げ機会も利用しようというもの。今回のミッションは「一連のプロセスを確立することが目的」(JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部 土井忍氏)であり、技術実証という位置付けになるが、その結果を受けて、今後本格的な運用を開始する構えだ。

従来の相乗り衛星との大きな違いは、今回の打ち上げでは、衛星はロケットのフェアリング内部に直接格納されるのではなく、HTVという宇宙船の中の"荷物"として搭載されることだ。衛星は国際宇宙ステーション(ISS)に到着後、日本実験棟「きぼう」からロボットアームを使って、地球周回軌道に投入される。このための装置「小型衛星放出機構」については、過去記事も参照のこと。

超小型衛星を放出する作業の流れ(提供:JAXA)

打ち上げ方法の違いが何に関係してくるかというと、過酷な打ち上げ環境の緩和だ。

ロケットでの打ち上げ時、フェアリング内に固定された衛星には、様々な周波数の激しい振動が加わる。これによって壊れないように衛星を設計する必要があり、地上では振動試験や音響試験によって耐振性を確認するが、梱包されてHTV内に保管される今回の方法では、この振動を大幅に軽減することができるという。開発がしやすくなる上、実際に壊れにくくなり、これまで搭載するのが難しかったような繊細な装置を乗せられるようになる可能性もある。

RAIKOを開発した東北大学の坂本祐二助教は、従来のロケット相乗り方式でも超小型衛星を開発した経験がある。会見で、開発者側からの感想を問われた坂本助教は、「H-IIAで打ち上げる場合に比べると、振動は半分以下。しかし振動試験は省略できず、作業の手間自体は全く変わらないが、振動のレベルが低いので、振動試験時のトラブル発生が少なくなる。通常は、いろんなトラブルが起きるため、何度も構造を作り直して、試験をやり直す必要があったが、今回はトラブルが全くなかった。粛々と作業が進んで、スケジュールが読みやすかった」と実感を述べた。

東北大学の坂本祐二助教。RAIKOの開発を主導した

放出される順番に意味はある?

小型衛星放出機構には、「#1」と「#2」の2つの発射装置が取り付けられる。前回の記事からのアップデートとしては、5機の衛星の搭載場所が決まったことがあるが、ポイントとなるのは、RAIKOとFITSAT-1の位置だ。基本的に、衛星はどの場所に搭載されても有利不利はないが、この2機のみ、放出時の画像撮影をミッションにしている。そのため、他の衛星が視野の邪魔にならない最奥に入れられているのだ。

5機の衛星の搭載場所が決まった。後方を撮影する2機が一番奥に入る

放出機構の仕組み。バネでびよ~んと押し出すシンプルな方式だ

放出の速度は、秒速1.1m~1.7mの範囲になる見込み。バラつきが大きいのは、単純にバネの力で押し出す方式のため。金属製のバネは、温度が低ければ固くなり、反発する力が大きい。結果として、放出速度が速くなる。実際に温度がどうなるかは運用状況にもよるので、予測は難しい。

#1側の衛星を放出したあと、続いて#2側の衛星も放出する予定だが、今のところ、#1側の放出はISSの端末から星出宇宙飛行士がボタンを押して行い、#2側の放出は地上からのコマンドで行う方向で検討が進められている。あえて方法を分けるのは、今回の放出が技術実証ミッションであるからで、2つの方法が可能ならば、そのどちらも確かめて見たいという意図があるからだ。

放出された衛星は、ISSとほぼ同じ軌道(高度350~400km程度)を周回する。この軌道は衛星としては低く、大気抵抗も比較的大きいため、衛星は徐々に高度を下げ、軌道上に滞在できる期間は100日程度と短めになる見込みだ。

ちなみにこの小型衛星放出機構だが、打ち上げ時には分解した状態でHTV内に格納されており、ISSに到着後、軌道上で星出宇宙飛行士が組み立てる予定。今回のミッション後はISS内に保管され、繰り返し利用することが可能だ。

搭載されるのは個性的な3機

それでは次に、搭載されるJAXA公募の衛星3機について、1つ1つ見ていきたいが、長くなってしまったので、続きは次回にしたい。

「月刊宇宙開発」とは…筆者・大塚実が勝手に考えた架空の月刊誌。日本や海外の宇宙開発に関する話題を、月刊誌のような専門性の高い記事として伝えていきたいと考えているが、筆者の気分によっては週刊誌的な内容も混じるかもしれない。なお発行ペースについては、筆者もどうなるか知らないので気にしないでいただきたい。