前回、私が通っている大学の授業で紹介された課題文献の1つである「GAFA:四騎士が創り変えた世界」の書評を書いた。授業は「消費文化論」という題目で、特にアメリカの消費文化の歴史をたどるものでマーケティング・オタクの私にとっては大変に興味深いものであった。

  • the four GAFA 四騎士が創り変えた世界

    the four GAFA 四騎士が創り変えた世界の表紙 (編集部撮影)

秋期の期末を迎え、私はいくつかあった指定文献の中からこの本を読んで授業の内容に沿って期末レポートを提出した。今回と次回は、編集部からも承諾を得る形で、私が大学に提出した期末レポートをできるだけそのまま掲載することにした。レポートの指定は4000~6000字というものであったが、実際の私のレポートは6000字を超えるものとなったため、2回に分けての掲載となるのだが、それを敢えて掲載することを編集部にお願いしたのには以下の理由がある。

  1. 最近の毎日の報道でGAFAについての話題を見かけない日はない。読者の皆様にとっても関心の高い問題であるし、ごく最近日本語訳が出版されたGAFAについてのこの本を踏まえた私の書評とは異なる見方を記したレポートは読者の皆様にとっても内容的に面白いと思った。
  2. 以前、私はGAFAについての記事を書いたが、大学で消費文化論の授業を真面目に受講した後で消費社会に与えるGAFAのインパクトを再認識したので、前掲の私の記事との多少の重複はあるのはご容赦いただいたうえで、私の考えをもう一度述べさせていただきたいと思った。
  3. これの元は1大学の期末レポートに過ぎないが、その体裁は一応大学で提出される論文の類であり、求められる形式を守ったものであるため、読者の皆様にも懐かしい思いがする方もおられると思った。最近の大学の授業では以前にもまして"剽窃"を避けるための指導が厳しくされている。他人の著作物を"コピペ"してしまうというのが横行しているのが最近の風潮であるらしい。私のレポートで十分な配慮がなされているかどうかについては指導教官の評価を待つしかない。本文中にことさら(p.XX)とあるのは参考文献からの抜粋である。
  4. なお、本レポートの大学への提出期限はすでに過ぎているので、他の学生への影響はない。

それでは、本文に入っていきたいと思う。

序論

本論では、ますますその影響力を拡大しつつあるGAFA、またその他の新興勢力が消費の主体である人間の消費行動、および既存産業にもたらす変化について下記の観点から考察する。

  1. GAFAの成立過程とその強み
  2. GAFAが人間の消費行動にもたらす変化
  3. GAFAが既存産業にもたらす変化

18世紀後半に起こった第一次産業革命をはじめとして、その後にも起こったテクノロジーの発展が社会構造、経済全般、人間の生活スタイルに及ぼした影響と変化についてはいろいろな考察がなされているが、現在我々が経験しているデジタル技術による社会の変化はそのスピードを加速して、人間社会のいろいろな部分に入り込んできている。本論では技術革新による社会の変化を主導している主要グローバル企業であるGoogle、Amazon、Facebook、Apple(総称:GAFA)およびその他の企業についての考察を行いながら、来るべき変化について考え、最近のGAFAをめぐる世界の動きを踏まえ今後のGAFAタイプの巨大ITプラットフォーマーの今後について考察する。

GAFAの成立過程とその強み

Google、Amazon、Facebook、Appleという米国ベースのグローバル企業の頭文字をとって総称されるGAFAは、その経済圏を急速に拡大しつつある。各社決算発表および有価証券報告書によるとこの4社だけで時価総額は3.42兆ドルに上り、これはドイツのGDPにほぼ匹敵する(Worldbank統計)。これらの企業はそれぞれのコアビジネスを中心にその影響範囲を広げてきたが、4社ともクラウドベースのITシステムで巨大データを駆使することで成長を遂げているという点で、プラットフォーマーという言い方が最近一般的である。スコット・ギャロウェイ著の「GAFA 四騎士が創り変えた世界」(2018年)によると、各企業がそれぞれのコアビジネスから現在の巨大企業に至った過程と、その成長を支えている強みは以下のとおりである。

Amazon(アマゾン)

アマゾンの成立過程を見るうえで重要なのは小売店の歴史的変遷である。ギャロウェイによれば、米国での小売業の歴史を見てみるとその進化にはいくつかの大きな結節点があった。20世紀前半の小売業の形態はおもに街角の店舗が一般的だった、これが国際博覧会・博物的な発想から、1つの巨大店舗ですべてのものを揃えるデパートの形式を生んだ。その後、自動車の普及により郊外の住宅地でも同じような経験が可能となった、ショッピングモールの出現である。さらに安く大量に仕入れた商品を廉価で消費者に提供するウォルマートに代表されるような大規模小売店が現れた(ギャロウェイ著 pp.39-47)。これらの小売店の変遷と並行して起こっていたのが、半導体の驚異的なイノベーションによるPC(Personal Computer)とWWW(World Wide Web)の普及である。

PCはそれまで高価な企業の専用メインフレームマシンでしか可能でなかった高性能なコンピュータの能力を個人のデスクトップに安価に届けることを可能とした。PCベースのインターネットの普及はそれを支える巨大記憶装置であるデータセンターと広帯域・高速通信網の組み合わせにより、この巨大化した小売業をEコマースという形で提供した。

これにより消費者は自宅に居ながらにして今までは容易に調べきれなかった多くのセレクションから瞬時にPCのスクリーンを通してクリック1つで注文が可能となった。ギャロウェイは、アマゾンの強さを、Eコマースの構築と同時にアマゾンが高度に自動化された巨大倉庫を中心としたロジスティクス・システムに大きな投資をした点を挙げている(同 p.92)。

これに加え、増大する物量を消費者に届ける宅配便などの流通業者に対する影響力も絶大となった。ギャロウェイは、「アマゾンが訴えかけるのは、より多くのものをできるだけ楽に集めようとする我々の狩猟採集本能だ」(同 p.53)とアマゾンが人間本能に訴える点を強調する。

アマゾンがユーザーに提供する価値とはEコマースとロジスティクスの組み合わせで必要なものを購入する煩雑な手間を一気に省いた「便利さ」であるが、アマゾンの本当の強みは、ユーザーがこの「便利さ」と引き換えに自ら自発的にアマゾンに開示する個人情報である。

この個人情報にはそのユーザーの決済情報はもとより、商品の好み、購買に割ける予算など従来のマーケッターにとっては喉から手が出る様な情報が含まれている。しかも購入が起こるたびにより多くの個人情報を入手し、深層学習に長けた最先端のAI(Artificial Intelligence)装置にどんどんため込んでゆくことができる。

Apple

アップルはGAFAの中では物理的な製品を持っている点で他の3社とは異なる存在となっている。しかも設立が1976年とその社歴も古い。ハードウェア商品だという意味では古典的なマーケティグの文脈でその成功を理解するのが比較的に容易である企業である。

マイクロソフトWindows系のIBM互換PCへの対抗として発表されたマッキントッシュでエンジニア中心のハイエンド・ユーザーのブランド・ロイヤルティを勝ち取ったアップルは、その後のiPod、iTunes、アップルストアといった一般若者向けの「クールな」商品の発表でそのユーザーベースを拡大し、iPhoneとiPadの発表で世界中のデジタル端末のハイエンド・ユーザーの支持を勝ち取った。

これには天才的なマーケッターで創業者のスティーブ・ジョブズとそれを技術から支えたスティーブ・ウォズニアックの先見性は大いに評価されるべきであるが、ギャロウェイが指摘するように、ジョブズの死後も驚異的な成長を遂げているアップルの強さは、PCをはじめとする数々のデジタル機器が発表されてはあっという間にコモディティ化してしまうという、デジタルハードウェアのセグメントの中で常にハイエンドの「ぜいたく品」(p.118)のブランド・ポジショニングを維持している点であろう。

その結果、「アップルのスマホ市場のシェアは、台数では14.5%に過ぎない。しかし全世界のスマホの利益の79%を独占している(2016年)」(同 p.116)。アップルはこの高級ブランドのポジショニングを維持することによってアップルブランドを他の領域に展開することもできる。ギャロウェイが本書でいう「贅沢志向は人間の外部で作られるものではなく、我々の遺伝子に組み込まれている。それは人間の枠を超越して神聖なる理想に近づきたいという本能と、自分の魅力をアピールしてよき伴侶を手に入れたいという欲望を結びつける」(同 p.118)との記述は多分に誇張された表現と読めるが、このハイエンドポジションでため込んだ27兆円という驚異的な保有現金をすれば、アップルがこのポジショニングを維持したまま他の領域(例えば自動運転車など)に拡大することは容易に考えられる。

Facebook

PCとそれに続くスマートフォンの爆発的な普及の波にうまくのり、ソーシャル・ネットワークという新たなメディアを主導するフェイスブックは世界の20億人のユーザーと、フェイスブック、ワッツアップ、インスタグラムという3つのプラットフォームでつながっている。

これはなんと「人類の4分の1」にあたる(同 pp.157-158)。しかも、「人は毎日35分をフェイスブックに費やしている。インスタグラムとワッツアップを合わせると50分になる」(同 p.158)というように、それらのユーザーとのきずなは大変に強い。これらのユーザーは自分の情報をアップロードする、他人をフォローする、自分の現在地を公開するという行為で、毎日せっせと自発的に個人情報をフェイスブックに提供する。

アマゾンと同様、この貴重な情報はAIベースのフェイスブックのデータセンターに集められ、ユーザーの属性分析に貢献する。この属性分析に基づいた広告収入がフェイスブックの主たる財源となっている。

同時にフェイスブックは既存の新聞、ニュースなどの情報拡散のメディアとしても大きな役割を担っている。スマートフォンの性能の向上と広帯域高速ネットワークの普及によって、今まではテキストでしかなかった情報は動画となり、その動画の画素数も表示時間もどんどん向上した。

これによって個々人が現場からのレポーターとなって情報を発信することができるようになった。カバレージに限界がある既存メディアもそれらの情報を進んで利用するほどになっている。「そのせいで、かつてはアメリカのメディア業界が誇る企業の1つだったニューヨーク・タイムズ社が、単なる商品提供業者になっていしまった」(p.187)。しかしフェイスブックは自らをメディアとして認識することをしない。その社会的責任を取ることに大変に消極的である。

Google

Googleに関する章の書き出しでのギャロウェイの下記の言いようは非常に衝撃的である。

近代科学によって解き明かされた宇宙の壮大さに重きを置く宗教なら、因習的な信仰からまずは生まれることのない崇拝と畏敬の念を引き出すことができるかもしれない。遅かれ早かれ、そのような宗教が現れるだろう。- カール・セーガン。セーガン氏が思い描いていた宗教が現れた。それがグーグルだ。(p.203)

知らないことに何でも答えてくれ、人に言えないようなまるで懺悔のような質問についても黙って聞いてくれて瞬時に何かしかの答えに導いてくれるグーグルをギャロウェイは現代の「神」に例えるが、その実態は検索エンジンという技術を駆使し答えを提供し、コアな個人情報を収集し分析するための深層学習に長けた巨大AI装置である。

その唯一の目的はその個人のプロファイルを特定し、属性を割り出すことによって広告効果を上げることにある。アマゾンの仕組みと同じように、ユーザーはその利便性の故に貴重な個人情報を大量にAIにフィードする、その個人情報はAIにとっては"食べ物"のようなもので、それが多ければ多いほどAIは成長しプロファイルの特定、属性割り出しの精度は向上することになる。

グーグルは以前まで端末への入力を手動に頼っていたが、ユーザーインタフェースをGoogle Homeというスピーカー(実は収音機である)を発売し音声認識での入力を可能とした。これによりユーザーからの情報提供の利便性はさらに向上することとなる。

ここまでがレポート前半部分である。切りのいいところで前編を終えようとしたので多少長くなってしまった。後編となる次回はGAFAが人間の消費行動、既存産業にもたらす変化について考察し、結論に結び付けたい。

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、今年(2016年)還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

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