早いものでもう暮れである。令和元年となった2019年もあと2週間ということになった。エレクトロニクス業界は相変わらずものすごい勢いで変化を続けている。恒例の一年の総括をしよう。

米中貿易戦争

米中の貿易戦争それ自体は外交の問題であるが、それはそのまま両国の首脳が抱えている内政問題が反映されている。そしてその目まぐるしい動きは世界経済に甚大な影響を与える。2020年に大統領選を控えるトランプ米国大統領と14憶人を束ねる習中国最高指導者はともに自身の地位を防衛するためにこの分野で簡単には譲れない事情がある。共通の問題は経済である。年末には農産品の分野で歩み寄りがあったようで、最悪の事態は回避されたようだが、予断を許さない状況は来年も続くだろう。エレクトロニクス業界はその影響をまともに受けた業界である。

米政府が安全保障上の問題からファーウェイの通信機器の採用禁止を宣言し同盟各国に圧力をかける中、ファーウェイは米政府を提訴という事態になった。中国政府が報復として、政府系・公共機関で使用するコンピューターおよび関連機器をこれから3年以内に外国製から国内製品に置き換えせるという通達を出した。完成品のパソコンとサーバーはLenovo製を購入すればいいがWindowsなどのソフトやCPUはどうなるのか? 民間ユーザーへも波及するのではないか?

政府主導者の思惑とは別に、業界はこういった政治的な動きに対して常に臨戦態勢をとることを強いられている。米中の貿易戦争は図らずもエレクトロニクス業界のサプライチェーンの複雑さをあぶりだした。各社も独自の対応を迫られている。Teslaは中国の工場を稼働させたし、Appleの主力パートナーFoxconnは米国に工場を建設予定である。

農産品などの分野は両国首脳の駆け引きで比較的政治的な解決をみる可能性があるが、エレクトロニクス業界での貿易問題にははるかに根深いものがある。

と言うのも半導体を代表とするエレクトロニクス業界はすでに社会インフラの根幹を支える最重要技術となっているし、技術力は軍事力と並んで国力を表す戦略的な重要性を持つからである。

中国は「中国製造2025」を党のスローガンに要素技術の国産化を強力に進めている。その結果はメモリー半導体、自動運転、通信、ドローン、顔認証システムなどの分野で着実に出てきている。米国が警戒を強めるのは無理からぬことだ。米国は自由資本主義のフレームワークに規定されたルールに基づいて世界市場で活動を展開しているが、中国は国家資本主義に基づいた独特のやり方で自国の巨大市場で築いた独自の手法をそのまま世界市場で展開しようとしている。秘密保持などへのスタンスが根本的に違っていて、こうしたことを放っておけば中国は急速に技術で米国に追いつき追い越す可能性があることを米国は一番脅威に思っているのである。この分野での貿易摩擦の状況はトランプ氏から政権が変わったとしても変わらず米中関係に影響を及ぼしてゆくだろう。

  • 半導体

    半導体は社会インフラの根幹となっている

GAFAへの当局の包囲網が活発化

2019年はGAFAの世界市場でのビジネス展開への各国規制当局の包囲網が活発化した年でもある。これまでは個人情報、税金、独禁法などの分野で特に欧州の規制当局が攻めるパターンであったが、GAFAをおひざ元に抱える米国も動き出した。

米国政府と世界の金融当局が強力にFacebookのデジタル通貨「Libra」の規制に動き、Facebookが予定していた2020年からのサービス開始を断念したことが大きなニュースになった。世界中に27億人のユーザーを抱えるFacebookが加速しながら進めるプロジェクトに、米国の規制当局が待ったをかけた形になった。

  • Libra

    Facebookは金融関係当局の反対にあい2020年のサービス開始を諦めた (著者所蔵イメージ)

Facebookの27億人というユーザー数が示しているように、GAFAは便利さと引き換えに個人情報を自ら進んで提供する巨大ユーザー集団をビジネスの基盤としているのでその影響力は国家並みに大きい。さらにGAFAは巨大プラットフォームを武器に既存のビジネスを積極的なM&Aによって取り込んでいこうとしている。2019年になって日本の独禁当局もAmazonやGoogleの商習慣について規制をかける動きに向けて重い腰を上げた。しかし当局の規制のスピードが彼らの新たなビジネスモデル展開のスピードについていけるかは大変に疑問である。

  • Amazon

    公正取引委員会どう動く?

GAFAについてはもう1つ目立った動きがあった。各社での半導体専用チップの独自開発である。この分野で最も積極的であるGoogleは独自開発の機械学習用TPUチップの最初の製品を2017年に発表したが、今年はバージョン3を発表してクラウド側だけでなく端末側のインテリジェンスを強化しようとしている。

またOpenTitanプラットフォームを発表し、スマートフォン端末Pixelシリーズのハードウェアセキュリティをオープンな環境で開発することに挑み始めた。量子コンピューターの発表も行っている。かたやMicrosoftはSurfaceのラインアップに独自開発CPUを加えた。このSoC百花繚乱のトレンドはチップ開発環境の発展と、開発されたチップを最先端の微細加工技術で製品化することができるTSMCのようなファウンドリーの存在によりこれからも加速される様相である。

GAFAに対する規制当局のせめぎあいを横目に着々と力をつけているのが中国版GAFAといわれるBATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)である。これらの巨大プラットフォーマーは中国という巨大市場をおひざ元に抱えているし、グローバル市場での規制も受けないのでスケールアップが比較的容易である。まだGAFAに比べるとその規模は小さいが中国国内での手法をアフリカなどの発展途上国で展開することにより急激にその足場を構築しようとしている。

Libraの発行時期を遅らせる決断をしたFacebookの幹部でありLibraの責任者のデビッド・マーカス氏は、米公聴会での発言で「我々がLibraに失敗した場合、価値観が劇的に異なる人々によってデジタル通貨が支配されることになるだろう」、と発言した。ここで"価値観が劇的に異なる人々"と言っているのが中国であることは明白である。

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

・連載「巨人Intelに挑め!」を含む吉川明日論の記事一覧へ