Intuos4におけるマウスの役割

「Intuos4」には、オプションとして専用のマウスが用意されている。ペン入力が目的のペンタブレットに、なぜマウスが必要なのか不思議に思う人もいるだろう。ペンタブレットは電子ペンで入力を行うツールだが、マウスが一切不要かというと、そういうわけではないのが実情。ドラッグなどマウスポインタの操作という面では電子ペンの方が優れているが、メールや表計算などタイピングメインの使い方だと事情が変わってくる。電子ペンは「握って持ち上げる」ため、マウスの「必要な時に手を添えるだけ」という使い方と比べると、キーボードから持ち替えるのが煩雑なのだ。そこで用意されているのがIntuos4マウス。見た目はごく一般的なワイヤレスマウスだが、ボール、LED、レーザーなどのセンサーではなく、スタイラスペン同様の電磁方式。なので、Intuos4本体の上でしか使えない。

Intuos4マウス。ケーブルも電池も不要

マウスそのものは一般的なホイール付きマウス同様のデザイン。左右ボタン、ホイールクリックに加え、ホイールの上下にボタンがふたつある、計5ボタン仕様。ブラウザの「進む」、「戻る」など自由に機能を割り付けることができる。マウスとしては標準的な作りだが、その特徴はスタイラスペン同様、ワイヤレスでありながら電池が不要(=軽量)という点だろう。Intuos4マウスの重量は62g。手元にあった、一般的な有線USBマウスとほぼ同等の重さだ。Appleのワイヤレスマウスは単三電池2本を内蔵して約75gなので、13gほどIntuos4マウスが軽い。わずかな違いに思えるが、マウスにおけるこの重量差は、長時間での操作で、疲れ、肩こりなどに確実に影響してくる。もちろん作業中に電池が切れてしまうような心配もない。マウスとペンタブレットの操作場所をそれぞれ確保しようとすると、それなりのスペースをとってしまう。作業環境が狭く余裕がないというユーザーにはオススメのマウスだ。

なお旧FAVOや旧Bambooにはマウスが付属していたのでそれらを使ったことがある人も多いと思うが、これらのマウスとIntuos4のマウスは、性能がまったく違う。旧FAVO、旧Bambooのマウスは回転検知機能に対応しておらず、マウスの角度が斜めになっていると操作に違和感があった。これに対しIntuos4のマウスは回転に対応しているため、通常のマウス同様、マウスの向きにあわせてポインタが移動し、まったく違和感はない。

Intuos4は回転検知に対応しているため、マウスの持ち方が斜めになっていても、マウス本体の水平垂直を基準にポインタが移動する。これに対し、旧Bambooのマウスは盤面の水平垂直が基準となるので、マウスの向きと関係なく、移動方向にあわせてポインタが移動してしまい、一般のマウスの挙動とは異なる

マウスのボタンや加速度の設定はタブレットの環境設定で行う。システムのマウス設定ではないので注意しよう。環境設定ではボタンの機能、カーソルの速度、ホイールの速度などを設定できる。

タブレット環境設定。各ボタンには自由に機能を割り付けられる

ポインタの移動速度の設定。システムのマウス設定ではなく、タブレット設定で行うので注意。旧Bambooマウスと同じく、盤面の向きでの移動や、ペン同様、盤面上の座標にあわせたコントロールに変更することも可能

Intuos4ならではの便利な機能として、おすすめなしたいのがラジアルメニュー。センターボタンなどにラジアルメニュー呼び出しを割りつけておけば、多くの機能を簡単に実行させることができる。ラジアルメニューの使い方は連載第9回で詳しく解説しているので、そちらを参照してほしい。

マウスのボタンにラジアルメニュー呼び出しを割りつけておけば、様々な機能を呼び出すことができる

逆に、見た目や機能はマウスでも、あくまでもIntuos4として動作するためのアイテムなので、他のマウス用ユーティリティが使えるとは限らない。マウスを加速させるユーティリティや、軌跡でコマンドを実行するジェスチャ機能ユーティリティなどは機能する場合と機能しない場合がある。

レンズカーソルマウス

Intuos4のマウスにはもう1種類、カーソル付きマウスというモデルがある。こちらはマウスの先端に照準のついたレンズが埋め込まれている、ちょっと変わったタイプ。

マウスの先端に照準がついたマウス。Intuos4エクストララージサイズ専用

カーソル付きマウスは、一般にはあまり馴染みのないマウスだが、実はタブレットの歴史から見ると、電子ペン以前から存在するタブレット入力装置のルーツ的存在だ。現在ではペンタブレットは「アナログ感覚でグラフィックを作成するためのツール」だが、そのルーツは「建築図面や服の型紙をトレスし、デジタルデータ化するためのツール」で、デジタイザと呼ばれていた。CADシステムなどと併用し、レンズ部分で図面の要所に照準をあわせボタンをクリックすることで、CAD(設計システム)にデータを入力する。デジタイザの盤面上にはメニューエリアが設定でき、画面を見ないでもコマンドを実行することができた。

「Intuos」シリーズの先代にあたるワコム「UD」シリーズ(1987年発売)。マウスがレンズカーソルタイプだったことがわかる。これ以前の「WT」シリーズではレンズマウスが標準でペン(有線)がオプションだった

25年ほど前、筆者が建築関係のメーカーに勤めていた時、巨大なワコム製デジタイザでこのタイプを使った憶えがある。1987年頃、まだパソコンの操作をキーボード入力やファンクションキーで行っていた時代、マウスが標準では付属していなかった(オプション、しかも専用のインタフェースボードが必要)時代の話だ。Intuos4のカーソル付きマウスはエクストララージサイズ専用であることからもわかるように、一般的な用途ではなく、業務用設計システム向けの製品。一般ユーザーが目にすることもまずないオプションだが、ここにワコムの原点があり、そのオプションが今でも販売されているということが感慨深い。

Illustration:まつむらまきお