今回は「QuickTime」について。時期によって位置付けや存在感に変化があるため、Mac使用歴によって認識に差があるはずだ。ここでは、現在に至るまでの概略と、フロントエンドたる「QuickTime Player」について解説してみよう。

QuickTimeの過去と現在

古くからのMacユーザであれば、Mac OSのマルチメディアフレームワークといえば「QuickTime」が思い浮かぶはず。WWDCの基調講演など最新技術が披露される場で長い時間を割かれることはなくなったが、Mountain Lionの現在もOSの基盤技術のひとつであり、Windows向けソフトウェアにおいてはAppleのマルチメディア技術を伝える手段となっている。

QuickTimeは、言及される場面によって意味が変わる。前段でいうところのQuickTimeは、マルチメディアフレームワークとしてだが、OS Xにはほぼ同じ名のアプリケーション(QuickTime Player)が存在する。エンドユーザの中には、QuickTime PlayerイコールQuickTimeと勘違いする向きもあるが、「QuickTime Playerとは(フレームワークとしての)QuickTimeを利用したマルチメディア再生ソフト」だと認識を改めていただきたい。

そのマルチメディアフレームワークとしてのQuickTimeは、長らく旧Mac OSの設計(QuickDrawに依存)を残してきた。それがTigerのとき、Cocoa/Objective-Cからの制御を可能にした新フレームワーク「QTKit」が投入され、活用範囲が拡大した。しかし従来のQuickTimeフレームワークを完全には置換できず、レガシーから脱するには、Snow Leopardで全面的に刷新される「QuickTime X」を待つしかなかった。

QuickTime Xの登場でようやく64bit化、Grand Central Dispatchのサポートもありメニーコア環境をフル活用できるようになったが、モバイル分野が急拡大するという外部環境の変化により、今度はiOSとの調整という課題が浮上した。iOSのCore Mediaフレームワークから移植される形で、Lionには「AV Foundation」が導入されたが、QuickTime/QTKitとAV Foundationには役割が重複する部分があるのだ。

つまり、今後OS Xのマルチメディアフレームワークは、QTKitからAV Foundationへと移行を促される可能性がある。AV FoundationはiOSと共通であり、「OS XとiOSの融合」を掲げるAppleのスタンスにも合致するからだ。OS Xの開発者からは、ようやくQTKitに落ち着いたのに……というため息が聞こえてきそうな話ではあるが。

Mountain Lionに収録の「QuickTime Player」。名称に変わりはないものの、基盤部分は大きな変化を遂げている

"レガシー"を切り捨てていった結果、Quick Time Xベースに移行したQuickTime Playerでは、QuickTime VRの再生に対応しなくなった

"古き良き"QuickTime Playerよ、もう一度

そのような経緯があるQuickTimeだが、自分が触れる機能がすべてのエンドユーザにとっては大差ない話かもしれない。それに、現在のQuickTimeのほうがモダンだといわれたところで、ユーザエクスペリエンスを左右するQuickTime Playerに関していうと、QuickTime X登場以前のほうが高機能な部分もある。

たとえば、複数の静止画をつなぎあわせる画像合成技術「QuickTime VR」。以前のQuickTime Playerでは、360度の視界を見渡せるパノラマ画像を再生できたが、Mountain Lionに収録されている(QuickTime Xベースの)QuickTime Playerは、このフォーマットをサポートしない。ほかにも、QuickTime Xベースへの移行を機に、サポートされなくなったビデオコーデックはいくつかある。

ビデオのエクスポート機能も、以前のQuickTime Playerのほうが上だ。たとえば、読み込んだH.264ムービーをAVIやDVストリームに変換できるし、音声ストリームのみ取り除いて書き出すこともできる。

そんな"古き良き"QuickTime Playerは、いまも健在だ。Appleのこちらのページからディスクイメージをダウンロードし、画面の指示に従ってインストールすればOKだ。ビデオの書き出しなど、いくつかの機能はPro版ライセンスを購入しなければならないが、支障なくMountain Lionで動作することを確認している。昔購入したはず……という方は、どこかにメモしているはずの登録コードを探してみてはいかがだろう。

現在のQuickTime Playerではサポートされない「QuickTime VR」が再生できる

AVIファイルへの書き出しなど、コーデックの選択を含めた細かい設定が可能な点がメリットだ

書き出し機能を利用する場合には、PRO版のライセンスが必要。現在もApple Store(オンライン)で販売中だ