ロボットによる介護

続いては、経済産業省のロボット介護機器開発・導入促進事業について。同事業は、高齢者の自立支援、介護実施者の負担軽減に資するロボット介護機器の開発・導入を促進することを目的とした事業である。企業などによる介護現場などのニーズを踏まえて特定された「ロボット技術の介護利用における重点分野」のロボット介護機器の開発補助事業と、ロボット介護機器の実用化に不可欠の標準化および実証プロトコル確立のための研究などの基準策定・評価事業の2つが、平成25年度から始まった。ロボット介護機器は、厚生労働省と経産省で定義した「移乗(装着型・非装着型)」、「移動(外出しての歩行)」、「排泄」、「見守り」の4つに分類される。補助金総額は4.3億円だ。

ロボット介護機器開発・導入促進事業に関しては、基準策定・評価事業については産総研が担当することが決定済みで、中間報告会なども実施しており、50社近い企業のヒアリングから得られたのは、各企業がユーザーのニーズを把握するために行っているヒアリングが、まだまだ時間のかけ方などが足りない、ということである。多い企業でも3社とヒアリングをしたレベルというので、ロボットを本気で開発するのなら、事前にユーザーとのヒアリングに最低でも1年の時間をかけ、徹底的にニーズを把握しないとダメなのではないか比留川研究部門長は苦言を呈した。サービスロボットの市場形成には、ここの部分の解析が特に重要だろう、としている。

日本が抱えるロボットベンチャーの問題点

また、3つ目の開発企業が大きすぎる点に関しては、前述したように、ホンダクラスの大企業がロボットもしくはロボット技術を用いた機器を販売するには、デメリットも大きいから、なかなか本格的にロボット事業を行うのが難しいため、「中庸企業に期待する」という。

また、現在の開発投資についても触れられた。ロボットの開発にはここ4~5年だが、国内民間企業の投資額の合計が200~300億円になるとする。通常売り上げの5%ぐらいが開発投資費用だそうだが、400億円程度の市場に50~75%の額が投資されているわけで、投資額としてはものすごいことになっているのはいうまでもない。トヨタも、200人の正社員を導入して開発しているということで、民間企業のサービスロボット開発に関する努力はかなりのものだといえるという。民間の投資と国の投資の比率は10対1ぐらいで、この部分は日本はうまくいっているとする。

ただし問題は、研究開発/実証フェーズの企業は今述べたように複数あるのだが、大きすぎるということである。そして肝心なのは、新規事業立ち上げフェーズだ。日本のロボット系ベンチャーはいくらでもあるのだが、資本金66億円というCYBERDYNEクラスはほかになく、それが問題だとする。例えば、そのほかの国内におけるサービスロボット系企業の資本金を挙げてみると、例えばZMPが35億円強、テムザックは11億円弱、近藤科学やヴイストンなどのホビーロボット系は5000万円という具合である。

その点、米国は新規事業フェーズでのロボットベンチャーの立ち上げがうまく、ルンバでお馴染みのiRobotが67億円、Rethink roboticsが65億円、そのほかにもANYBOTS、Unbounded Robotics、Meka、Redowood Roboticsなど、同規模の中堅企業が複数存在する。日本は技術力があるが、なかなかロボットベンチャーが立ち上がらないという点が、サービスロボットの市場形成につながらないという状況にもつながっているというわけだ(画像11)。

画像11。日本はロボットベンチャーが育ちにくい

ただ、こればかりはなかなか難しい問題であり、市場が形成されればそうした会社が出てくるのかも知れないし、ニワトリが先かタマゴが先かてきな話になりかねない。そもそも、米国の方が人口も多いわけだし、もともとベンチャーを育てる仕組みや風土が日本と比べてとても整っているので、条件が有利なので、数が多くて当然、ともいえる可能性がある。ただし、こうしてさまざまなプロジェクトや実証実験が進められており、3つの課題の内の2つだけでもクリアすることで、状況はきっと変わっていくものと思われる。

また、ロボットを普及させるためのカギとして、「足し算」ではなく、「引き算」の考え方が必要だと比留川研究部門長はいう。「このロボットは安くて役に立ちますから」の性能やメリットの足し算では、なかなか新しいものなので世の中には受け入れられないとする。そこで、「これを導入することで業務全体の効率が上がって、コストが減るもしくは売り上げが増える」という引き算の考え方を用いることが重要だという。要は、導入することで業務全体が確実によくなっていく、というところまでをしっかり見せる必要があるというわけだ。こうしたことをきちんと理解して実践できるシステムインテグレータやサービスプロバイダも必要だとしている。

次回以降は、残りの5人の各講演をお届けするが、登壇順ではなく、最初にサービスロボットの市場形成に重要な意味を持つ生活支援ロボット実用化プロジェクトを題材とした、知能システム研究部門の大場副部門長による「生活支援ロボット実用化プロジェクト-生活支援ロボット安全検証センターにおける国際標準化と認証-」をお届けする。

またその後は産業用ロボットに関して、6番目に登壇した知能システム研究部門の河合良浩研究主幹による「産業世ロボットの新たな展開」を紹介した後、防災ロボットに関しては5番目に登壇した知能システム研究部門の横井一仁副研究部門長兼ヒューマノイド研究グループ長による「災害対応ロボット」を紹介したい。パーソナルモビリティについては、同講演の3番目に登壇した知能システム研究部門の松本治総括研究主幹兼スマートモビリティ研究グループ長による「モビリティロボット実証事業」で取り上げる。さらに、医療および福祉・介護用ロボットに関しては、同講演の2番目に登壇した介護機器に関しては、知能システム研究部門サービスロボティクス研究グループの松本吉央 研究グループ長による、「ロボット介護機器導入・促進事業」を取り上げる予定だ。