市場の成長が期待されるサービスロボット分野

最後は、産業用(FA)ロボットを題材とした、知能システム研究部門の河合良浩研究主幹(画像1)による「産業用ロボットの新たな展開」だ。

画像1。産総研 知能システム研究部門の河合良浩研究主幹

これまで読んできていただいたように、日本のFAロボットは、世界を席巻している。ここのところアジアの各国の台頭などもあって、シェアとしては減ってきているが、依然として強い。画像2は、経済産業省製造産業局産業機械課が2013年の7月に発表した、サービス、農林水産、RT(ロボテク)製品、FA(製造)の4分野を合計したロボット産業市場動向の調査結果(足元市場規模推計)だ。なお、2015年から2035年までの推計は、経産省・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「平成22(2010)年度ロボット産業将来市場調査」が資料となっている。

2012年のデータも掲載されているが、2015年、2020年、2025年、2035年といった1年後から20年後までが予想されている。2012年や2015年時点では相変わらず圧倒的にFAが締めるが、2020年になってようやくサービスがFAと比較できるレベルとなり、2025年時点では逆転、2035年にはサービスロボットの市場が最も大きくなっているという具合だ。

具体的には、FAは2012年では6600億円、2015年には1兆18億円、2020年には1兆2564億円、2025年には1兆5807億円、2035年には2兆7294億円。サービスは、600億円、3733億円、1兆241億円、2兆64652億円、4兆9568億円という具合である。

FAは少なくとも国内では頭打ち、海外も諸外国のメーカーが台頭してくるのでこれまで通りにはいかないとされているが、少なくとも経産省としては、今後も劇的な伸びは見せないにしても、FAも伸びていくと予想しているようである。

画像2。日本のロボット産業の足元市場規模推計

画像3は、日本のロボット産業における足元市場規模推計の各分野の内訳だ。FAに関しては、従来型(電子部品実装聞きを含む)、次世代型、食品産業、医薬品産業、化粧品産業の5つがある。さらに小分類として、次世代型の中には自動車用次世代組み立てと、電気機械用のロボットセルの2つ、食品産業は食品ハンドリングと食品加工の2つにわかれる。2012年時点では、自動車用次世代組み立て、食品ハンドリング、医薬品産業、化粧品産業はまだ計上されていない。医薬品も化粧品も実質のところ2015年から2035年まで推定値が入っていない具合だ。

画像3。日本のロボット産業における足元市場規模推計の各分野の内訳

次世代産業用ロボットとして注目を集める「双腕型ロボット」

続いては、産業用ロボットをいくつか紹介しよう。今、次世代型として今注目を浴びているのが、双腕型だ。日本の企業では、川田工業が「Nextage(ネクステージ)」(画像4)を、安川電機が「MOTOMANシリーズ」(画像5)をすでに市場に投入しているほか、セイコーエプソンも「自律型双腕ロボット」(画像6)を開発中で、不二越も開発中だ。海外のメーカーでは、米Rethink Roboticsが「Baxter」(画像7)を、スイスのABBが「Frida」(画像8)を市場に投入している。

画像4(左):川田工業のNextageシリーズの「OPEN」。オープンソースのロボットOS「ROS」に対応したバージョンだ。 画像5(中):安川電機のMOTOMANシリーズの最新機種で、バイオメディカル用途に最適化された「MBDA3」。 画像6(右):セイコーエプソンの自律型双腕ロボット

画像7(左):Rethink RoboticsのBaxter。 画像8(右):ABBのFrida(公式サイトより抜粋)

Nextageは、グローリーの工場に導入済みで、2012年の第5回ロボット大賞では、同社が川田工業と共に「次世代産業特別賞」を共同受賞している。グローリーの工場において、Nextageは人のすぐそばで自動組み立てラインの一部においてシールをはがす作業を受け持つなど、かなり複雑な作業を行っているということだが、河合研究主幹が川田工業のスタッフから聞いたところでは、相当作り込んでいるそうで、このレベルのものをほかの企業の工場に持って行って、すぐにできるわけではないという。

川田工業としても、双腕ロボットがどういったところにもっと導入することが可能なのか、今はシステムインテグレータ的な事もして、市場がどこまで広がるのか、どういうところに展開できるのかということを、検討している最中だそうだ。

ちなみに安価という点では、Rethink RoboticsのBaxterがかなり秀でているという。性能的には位置決めなどは日本メーカーのロボットの方が全然上だそうだが、箱から出して1時間ぐらいで動かせるといった設置のしやすさも特徴だ。簡単に設置できて、簡単なピック&プレース作業をするのなら、非情に適しているのである。なお、米国の製造業に米国製の機械を呼び戻そうという流れの内の1つということだ。

従来、FAロボットといえば、動作中は人が基本的に近寄らないラインの中か、もしくはロボットを危険防止用の柵で囲ってしまうのが一般的である。しかし、そうしていると人との協調作業などは不可能なわけだ。双腕ロボットには、人と共存しての作業をすることが求められており、安全性が確保され、省スペースや複雑な環境などでの利用が可能なようにもなっている。

また双腕を強調させて動作させることで、部品などを持ち替えて正しい向きに直すといったことも、器用にこなせる点も大きな特徴だ。ただし、部品を組み合わせたりするのにまだ治具を結構使っているということで、それらをどれだけ減らせるかが課題だろうとした。

また双腕ロボットの対象環境としては、多品種少量生産、変種変量生産の現場に導入されていくだろうとしている。また工業生産とは異なり、農水産物の不定形物加工に関しては、決められたものや決められた動作で扱うというよりも、状況に応じてさまざまなことをしなければいけないので、双腕ロボットの需要の1つになるだろうとした。