日本において、Chromebookの存在感が急速に高まっている。

その起爆剤となっているのが、政府が推し進めているGIGAスクール構想である。PCメーカーやシステムイングレータなどに聞くと、GIGAスクール構想においては、これまで教育分野では約8割という圧倒的なシェアを獲得していたWindows PCを押しのけ、Chromebookが、約5割のシェアを獲得しているという声も聞かれる。

  • 量販店に設置されたChromebookの専用コーナー。いま、国内でChromebookの存在感が急速に高まっている

    量販店に設置されたChromebookの専用コーナー。いま、国内でChromebookの存在感が急速に高まっている

Chromebookの評価が高いワケ

なぜ、Chromebookが注目を集めているのだろうか。

先ごろ、MM総研が発表した「GIGAスクール端末の選定における3OS評価と活用課題の調査」(3OS: Windows、Chrome OS、iOS)によると、Chrome OSが21の評価項目のうち、3分の2にあたる14項目で最も高い評価を獲得するという結果が出た。

  • 自治体によるGIGAスクール向け3OS の評価項目別のトップ獲得数

これは、小中学生の児童生徒数が1万人以上の自治体を対象に実施した調査で、全国126の自治体から有効回答を得ている。いわば、GIGAスクール構想により、PCを導入する現場の声をまとめたものだといえる。

GIGAスクール構想では、Windows PC、Chromebook、iPadのなかから、それぞれに決められた仕様のデバイスが導入できる対象となっており、それに準拠したデバイスであれば1台あたり4万5,000円の補助が行われる。自治体は、この仕様に則ってOSや機種を自由に選択できるというわけだ。PCメーカーでもGIGAスクール構想に準拠したPCをラインアップしている。

これまでの流れからいえば、教育分野で圧倒的なシェアを持つWindows PCが最有力ともいえたが、実際に蓋を開けてみると、Chromebookが想定以上の動きをみせた。

町田市や相模原市、豊島区、姫路市、川崎市、奈良県など、GIGAスクール構想によるPC導入で先行した自治体がChromebookを一括導入する事例が相次ぎ、この動きはますます加速している。

その背景にあるのが、Chromebookの管理性の高さや、導入および運用のしやすさだ。

MM総研でも、「Chrome OSはクラウドを活用した運用管理の負担軽減への貢献などが自治体から高い評価を得ている」とする。

同調査で、Chromebookが最高点を獲得したのは、「セキュリティアップデート」、「運用コストへの配慮」、「データ漏えいリスク対策」、「端末初期設定」、「アカウント管理」などのセキュリティ、運用管理にかかわる評価を中心に、14の項目にのぼる。

  • 自治体によるGIGAスクール向けOSの評価結果

GIGAスクール構想向けChromebookの提案で先行したデル・テクノロジーズは、「Chromebookは、クラウドバイデフォルトの管理ツールであり、先生たちの働き方と、生徒児童のセキュリティ、ユーザビテリィの両方を担保でき、教材アプリは、プラットフォームアプリのもというシンプルさも評価されている」と語る。

すでにデルのChromebookを導入している教育現場からも、「情報端末の維持や管理に関する教員の負担をなくし、教育そのものに専念できる環境を実現しているほか、G Suite for Educationの採用によって、教員が教育アプリを簡単に利用し、それにより授業づくりに集中できたるといった効果が生まれている」とする。

教育現場では、「Windowsは急に更新がはじまってしまい、授業中に使えなくなるのではないか」「Windowsは起動が遅く、あらかじめ電源を入れておかないと授業がすぐにはじめられない」といったWindows PCに対する不安があり、この裏返しがChromebookの評価につながっているともいえそうだ。

その一方で、Windows PCは、「既存データ資産との連携」、大型モニターやプリンタなどとの「物理的な接続環境への対応」、「拡張性」、「端末に選択肢が潤沢」の4項目で最高得点を獲得。既存の資産の優位性が評価されている。そして、iPadは、「教育アプリケーションとの連携」、「授業中の利用における利便性」、「ユーザービリティとアクセシビリティ」の3項目で最高点を獲得しており、使い勝手の良さが評価されていることがわかる。

Googleが挙げる、Chromebookの10の特徴

Google Chrome OS プロダクトマネージメント統括 John Maletis(ジョン・マリータス)氏は、「Chromebookには、10の特徴がある」とする。

同社があげる10の特徴とは、以下の通りだ。

  • データと個人情報を保護する「Titan Cセキュリティチップの搭載」
  • サンドボックス化のアプローチと確認済みの起動により追加のウイルス対策ソフトが不要な「何層ものセキュリティで守る」
  • 開いてすぐに使え、ランチャーを搭載し、一か所から検索できる「数秒で起動し、すぐに見つかる」
  • 更新をバックグラウンドで自動的に行う「Chrome OSを常に最新に保つ自動更新」
  • 手書き認識、アニメーション、直感的な編集ができる「スタイラスペンで生産性アップ」
  • Googleアカウントにログインするだけで新たなChromebookの設定が完了する「簡単なセットアップですぐに使える」
  • ファミリーリンクアプリによって不適切なサイトへのアクセス制御などを行う「家族のデジタル上のルール設定」
  • Google Playストアやウェブアプリを活用した「多彩なアプリで仕事も遊びも」
  • オフラインモードでも、ドキュメントやスプレッドシートを利用できる「Wi-Fiが落ちても手は止めない」
  • デバイスメーカー各社から多様な製品が用意されている「Chrome OSを多様なハードウェア」
  • Chromebookの10の特徴

こうした特徴を示しながら、「セキュリティ、スピード、シンプル、スマート、シェアビリティ(共有)の"5つのS"を備えるのが、Chromebookである」と語る。

  • セキュリティ、スピード、シンプル、スマート、シェアビリティ(共有)の"5つのS"

Chromebookは、2010年に第1号機となる「Cr-48」が発売され、ちょうど10年を経過したことろだ。日本では2014年から販売が開始されている。

教育分野で本格的に活用されはじためたのは2016年以降で、現在、全世界の教育市場全体では約3割をChromebookが占めている。米国やカナダ、ブラジル、スウェーデン、ニュージーランドなどでは教育分野でトップシェアを持つ。

Googleによれば、全世界では4,000万台以上のChromeBookが教育分野で利用されているという。

Googleのマリータス氏は、「米国では、自宅での遠隔学習に使用したり、在宅勤務用に購入したりといった動きも加速している。今年に入ってから、米国のエンタープライズ分野においては、前年比22%増となっている。Chromebook以外の製品が前年比5%減になっているのとは大きな差がある。コンシューマ、教育、エンタープライズのいずれもが伸びている」と説明する。

また、「新たな国に参入する際には、その国にあわせて、マーケティングおよび営業の仕方をカスタマイズすることを重視している。その市場において、適正な形で製品を投入したり、施策を展開している」と語る。

そして、「日本でも今年に入ってから、前年比2倍以上の急成長を遂げている」と語る。

日本では、日本HP、レノボ・ジャパン、ASUS、日本エイサー、デル、NECがChromebookを発売している。各社がラインアップを拡充する方向にあり、選択肢も広がっている。こうした点からも、Chromebookの存在感が着実に高まっていることがわかる。

マリータス氏は、「日本市場向けには、GIGAスクール構想への対応を進め、子供たちの学び方や、未来の学び方にフィットした提案を行っている。また、日本では、LTEの搭載に対する要望が高いという特徴がある。日本のユーザーの声を聞き、それに対応していく姿勢は崩さない。そして、アプリを開発する日本のデベロッパーとの連携も大切である。その部分も強化していきたい」と述べる。

GIGAスクールを追い風に日本で急伸するChromebook

MM総研が発表した「国内Chromebookの市場規模調査」によると、2019年末には、24万5,000台だったChromebookの稼働台数は、2022年末には616万6,000台に拡大すると予測している。

  • 国内Chromebookの稼働台数推移

また、年間出荷台数の予測では、2019年には、わずか15万台だったものが、2020年には157万1,000台と10倍以上の伸びをみせると予測されており、2021年は前年比8割増の281万5,000台の出荷が見込まれている。

  • Chromebookの年間出荷台数推移

国内のノートパソコン市場全体に占めるChromebookの比率も2019年の1%から、2020年には13%に拡大し、2021年には24%を占める見通しだ。

  • 国内ノートPC市場推移とChromebookの構成比

この原動力になっているのは、やはりGIGAスクール構想だ。当初は、4年をかけて整備が進む予定であったが、これが1年間で整備をすることになったことが影響している。ただ、すでに納期の遅れなどが出ており、一部の導入は2021年度にずれ込むことも想定されそうだ。

そして、Chromebookの教育現場への導入促進は、個人向け市場におけるChromebookのシェア拡大にもつながることになりそうだ。

たとえば、学校にChromebookが導入されれば、自宅で子供が利用するPCも、できれば同じメーカーの同じ機種のChromebookを購入したいといったことになるだろう。これも、日本におけるChromebookの広がりを支える動きになる。

GIGAスクール構想では750万台以上のPCが導入されると想定されている。そのうちの約半分がChromebookになるとすれば、その影響力はとてつもなく大きい。GIGAスクール構想におけるChromebookの利用が増加することで、個人市場におけるChromebookのシェア拡大も見込まれることで、日本における出荷台数が一気に増加するという構図だ。

現状、すでに主要な量販店では売り場にChromebookの専用コーナーが用意されているが、少なくとも現時点では、量販店におけるChromebookの構成比は数%以下に留まっている。

今後、これがどんな勢いで拡大していくのか。それが、日本におけるPCメーカーの勢力図にどんな影響を及ぼすのかが注目されている。