富士通は、技術開発の最新成果などを紹介する「Fujitsu Technology Update」を開催した。富士通 執行役員副社長 CTOのヴィヴェック・マハジャン氏は、富士通の技術戦略について説明。さらに、併設した展示会場では、12テーマの新技術を公開した。
まずは、公開された技術を紹介しよう。
デジタルフェイク対策テクノロジー
富士通の独自技術によって、顔や画像、文書の偽造をまとめて検知することで、人間には見抜けないデジタルフェイクなどのAI技術を用いた詐欺から、企業の資産を守ることができる。根拠情報をもとに内容の真偽を分析する「虚偽内容分析技術」、世界最高となる97%の検知精度を持つ「偽画像分析技術」、GPT-4oの性能を超える性能を持つTakaneによる「偽情報特化LLM」で構成。ディープフェイク検知、SNSファクトチェック、文書整合性・エビデンスチェック、クロスモーダル矛盾検知を行い、フェイクを高精度に見抜くという。なお、同技術は、内閣府による「経済安全保障重要技術育成プログラム」にも展開している。展示会場では、富士通の時田隆仁社長のフェイク画像を用いたデモストレーションを行っていた。
国際コンソーシアム「Frontria」設立
富士通は、AIに関する偽情報や誤情報、セキュリティリスクに対応する国際コンソーシアム「Frontria」の設立も発表した。偽情報やAIガバナンスなどの新たなAIリスクに対応していく国際コンソーシアムであり、様々なIPをグローバルに組み合わせ、新たな市場を創出するプラットフォームになると位置づけている。すでに、57の組織が参画している。同コンソーシアムでは、デジタルフェイク対策の研究開発を、AIの安全性や信頼性に関する課題解決にまで拡大するために、技術を活用した共創の場として活用するほか、先進テクノロジーの国際社会への実装を加速させることを目的に先端技術(IP)をプール。日本から、欧州やアジア、北米に対して、国際的なアプローチも進めるという。金融、保険、メディア、エンターテイメントなどの業界の最先端企業が参画し、世界中の最先端技術と知見を結集することで、単一組織では困難な解決策の実現を目指すとしている。
宇宙データオンデマンドによる衛星データ利活用
コンピューティングやAIを用いて、衛星データと地上データを総合的に分析し、グローバルビジネスの効率化に向け、高付加価値な知見を創出することができるという。富士通では、衛星データ基盤技術を開発。衛星エッジコンピューティングを構築して、省電力が必須となる衛星内で、素早く、正確に、データを処理する。同社によると、データ処理では3分の1の低電力、データ送信では10分以内の準リアルタイムを実現しているという。また、降水量推定高精度化技術により、低解像度衛星の降雨データを地上レーダーなどに頼らずに、衛星データだけで高解像度化。画像を225倍に鮮明化できるという。さらに、衛星データ・産業データ融合技術により、大規模地理情報処理基盤を構築。衛星データと地上の産業データ、地理空間グリッド情報を連動させた分析が可能だ。衛星画像を地上へリアルタイムに配信し、安全保障や産業競争力強化に貢献できるとしている。
データドリブンは可視化から因果へ
膨大なデータから因果関係を高速に計算し、通常は見逃される有用な因果関係を発見。最も効果が高く、悪影響を及ぼさない施策を広範囲な情報をもとに推薦するという。従来比1000倍の高速化技術によるスケーラビリティと、強い因果を持つデータを分割し、因果効果を推定する技術によって、「原因」と「結果」の因果関係を探索、推論できる。ヘルスケアやマーケティング、商品開発、経営など、様々な分野への応用が可能であり、すでに住友商事や平和堂などの一部企業が導入。2026年度には、富士通のデータドリブンを支えるコア技術として、Uvanceのランイアップのひとつとして製品化する予定だ。
空間World Model
空間内の未来の状態を想像し、危険を察知して事前に回避。人やロボットが共生する空間を実現する。富士通では、複数のロボットを活用して、高度な行動を実現することを目指し、今回の空間World Model技術を開発したという。固定カメラと移動するロボットの空間情報をリアルタイムに統合し、空間World Modelを構築。空間内での多様な関係性から因果構造を読み解き、行動意図を高精度に推定するという。デモストレーションでは、人が不審な動きをはじめると、ロボット犬が、それを感知して、対応を図るといった様子を紹介していた。Fujitsu Uvanceで示した5 Key Technology Areasとは異なる新たな領域の取り組みに位置づけている。
エンタープライズLLM「Takane」と生成AI再構成
独自の量子化誤差伝播法を用いた高精度量子化技術により、16ビットで表現されているものを、1ビットで表現。これにより、推論速度を3倍、消費電力やGPUコストを98%削減しながらも、89%の精度維持を実現したという。また、特化型AI蒸留技術により、特定のユースケースに必要な知識だけを抽出し、再構築することで、パラメータサイズを100分の1にまで縮小。推論速度は11倍高速化しながら、精度は43%改善し、メモリ使用量を70%削減できるという。1ビット量子化技術は、Takaneだけでなく、汎用的に使える技術であることから、富士通ではOSSとして公開したという。
HPC&AIによる材料向けシミュレーション技術
スーパーコンピュータ「富岳」で培ったHPC技術を活用するとともに、自社での材料およびデバイス開発の経験や量子科学計算の知見をAI技術に融合させることで実現した科学反応AIシミューションをデモストレーションした。すでに、JSRや帝人と、同技術を買い作用した材料開発において協業を進めているという。
企業間マルチAIエージェント連携によるレジリエントなSCM
企業内でAIエージェントを開発するだけでなく、異なる企業間のクロスインダストリーでのマルチAIエージェント環境の構築により、サプライチェーン全体での最適化、調整、判断を可能にするという。異なる企業間のやりとりを前提としていることから、不完全情報下でもAIエージェント全体最適制御を実現するとともに、機密情報を共有しないLLMガードレール技術や分散学習技術を用いたセキュアエージェントゲートウェイを実現しているのが特徴だ。すでに、ロート製薬がサイプライチェーンでの実証実験を行っており、2026年度中には、UvanceのDynamic Supply Chain事業を通じて提供する予定だ。
Policy Twin
人々の動きを高精度に予測し、デジタル上に再現。ソーシャルデジタルツインによって、デジタルリハーサルを行うことで、多様な施策の立案を支援し、都市の交通課題、地方の交通空白問題、環境対策およびEV化推進、医療費増大といった社会課題の解決につなげることができるという。ソーシャルデジタルツインの新たな技術として紹介したPolicy Twinは、課題解決施策のデジタル化により、専門家レスで施策を自動生成することができる。予防医療サービスの充実などにつなげる事例を示していた。
AIエージェントとデータ活用でネットワーク障害対応を自動化
データ活用により、ネットワーク障害発生時の対応業務を完全自動エージェント化する技術としてNetwork Coachインシデントマネージャーを公開。メタデータ自動生成技術により、AIが活用できる構造化データを生成するとともに、動的抽出型ナレッジグラフ技術により、構造化されたデータ、ナレッジを活用して、解析、対処フローを動的に生成。、エキスパートよりも早く、正確に、未知の事象にも対応できるという。研究所が持つ技術と、Takaneの活用により実現したもので、すでに通信事業者と実証実験を進めている。2025年度下期には製品リリースを予定し、2026年度からの商用導入を見込んでいる。
量子アプリケーション実用化に向けた量子古典ハイブリッド技術
富士通が持つ量子と、HPCなどの古典計算技術を組み合わせて、複雑化する現代の課題に取り組むユースケースを紹介。量子技術と古典計算技術がそれぞれに得意とする部分を組み合わせた計算を行っているのが特徴だ。製造現場で利用するロボットの運動制御では、ボールを投げて球速を向上させるといった観点からの実験をデモストレーション。量子では関節角度の計算範囲が広がることから、振りかぶって投げる動作が可能になり、球速の向上を図ることができたという。また、新材料開発では、触媒材料の開発事例を示しながら、量子フーリエ変換の活用により、複雑で大規模な触媒表面を効率的にモデル化する例を示した。
海洋活用試作でネイチャーポジティブ実現
高精度に海をデジタル化し、課題解決施策を立案および検証することで、海における社会課題を解決する取り組みだ。独自の水中ドローンの自動航行制御により、位置誤差±50cmという高い精度を実現。日本の海域の約8割をカバーし、海藻や海草や被度の高精度認識できるように進化させた。また、藻場創出シミュレーションの研究開発も推進しており、海洋生態成長モデルでは、複数生態種を、日単位で変化することを確認できたり、様々な海域や施策を対象に、多面的シミュレーションを行えたりするという。
富士通の技術戦略、5年先のロードマップ
一方、富士通 執行役員副社長 CTOのヴィヴェック・マハジャン氏は、富士通の技術戦略を説明するなかで、エンタープライズ向けのSovereign AI PlatformおよびSovereign Infrastructureについて言及。「富士通は、AIを中心とした技術戦略を推進しており、これは5年前から変わっていない」と前置きしながら、「エンタープライズ企業のニーズに応えるためにはソブリンが重要である。富士通は、ネットワークからソフトウェアスタック、コンピューティングまでをカバーし、Sovereign AI Platformを実現するAI技術とセキュリティ技術を提供することができる」と自信をみせた。
ソブリン環境を実現するには、企業内部のデータ、AIモデルやエージェント間通信のセキュリティを担保する「Security」、顧客特化業務にフィットしているAIエージェントを顧客自身でカスタマイズする「Flexibility」、業種や業務に特化したAI Platformを実装する「Domain specific」が重要であると指摘し、この領域で富士通の特徴を生かせることを強調した。
また、富士通のAI戦略については、Fujitsu Kozuchiを中心に、企業のニーズに合わせたエンタープライズに特化した最新AI技術を提供。防衛や行政、ヘルスケア、金融、製造など、Sovereign AI Platformが不可欠な業種をターゲットに向けて、事業展開を加速する姿勢を示した。
富士通では、エンタープライズ生成AIフレームワークを発表。「生成AI再構成」、「ナレッジグラフ拡張RAG」、「生成AIトラスト」により、企業のニーズに合わせたベストな専用モデルを提供できる高い柔軟性を実現したり、経営資源である企業データを構造化し、常にAIが利用可能な状況を実現したりできることを示しながら、「日本だけでなく、グローバルにおいて、Sovereign AI Platformを展開したい」と述べた。
また、富士通は、AIに関する2030年までのロードマップを発表。富士通のAIプラットフォームである「Kozuchi」のほか、エンタープライズ向け生成AI「Takane」、フィジカルAIの「BRAIN」、マルチAIエージェント化やAIセキュリティへの対応などの開発計画を示してみせた。「テクノロジー企業は5年先のロードマップを出すことはない。富士通は、毎年、どんな進化をするのか、どんなマイルストーンを計画しているのを明らかにしている」と語った。
次世代プロセッサと位置づける「FUJITSU-MONAKA」については、「AIスタックを支えるコンピューティングであり、AIの世界で最も強力なCPUを目指す。先ごろ、戦略的提携を発表したNVIDIAのGPUとの組み合わせによって、AIプラットフォームを進化させる」と述べた。また、今後の計画についても説明。FUJITSU-MONAKAが、2027年から、2nmによる国産プロセッサとして登場するほか、2029年には、1.4nmのFUJITSUMONAKA-Xを市場投入し、これを富岳NEXTにも搭載することになる。
量子コンピュータについては、「Made in Japanの大規模量子コンピュータ構築のトッププレーヤーを目指す」とし、2026年度に1024量子ビットの超伝導量子コンピュータを開発するほか、2030年度には、1万以上の量子ビットと、250論理ビットの超伝導量子コンピュータを開発し、2035年度には1000物理ビットの超伝導量子コンピュータを開発する予定を改めて示した。さらに、量子コンピュータとHPCを組み合わせることで、富士通の強みを発揮することができるとも述べた。
さらに、「ネットワークの進化が無ければ、AIの世界は実現できない」とし、「Photonic System」、「Mobile System」、「Network Orchestration」、「Data Centric Infrastructure(DCI)」の4つの領域から技術開発を進めていることを示した。「光伝送シテスム開発でも世界をリードしたい」と語った。
富士通の研究戦略については、富士通 富士通研究所の岡本青史所長が説明。「富士通は、AI研究において、TakeneとKozuchiにより、ソブリンAIに対する強い技術を構築することを重要な指標に掲げている。Takeneの進化では、大規模モデルが抱えている開発および運用コストの増大、消費電力の増加、エッジAI対応のニーズの拡大といった課題に対応しながら、ソブリンAIを強化していく。Kozuchiの強化では、NVIDIAとの連携により、NeMoやNIMといったソフトウェアスタックをKozuchiに搭載することで信頼性を高め、自動化を加速するほか、FUJITSU-MONAKAとNVIDIA GPU、NVLink Fusionの連携により、グローバル標準のセキュアなAI基盤を提供する。さらに、業界最大となる7700 にのぼるナレッジにより、LLMの脆弱性に対処し、業界最高精度98%の品質対応技術によりRAG情報の漏洩リスクにも対処する」と述べた。
さらに、AI、Computing、Network、Data & Security、Converging Technologiesの5つのキーテクノロジーエリアに加えて、Physical AI、宇宙防衛、次世代通信という3つの新領域の改革に取り組んでいることを示した。
とくに、防衛・次世代通信分野においては、防衛向け常時広域監視システムを開発し、2波長赤外センサーを完成させ、防衛装備庁に世界トップクラスの高感度・多画素赤外センサー技術を提供していることや、省電力ワイヤレス通信技術として、独自の窒化ガリウムデバイスで世界一の省電力性能を達成し、FR3と呼ばれる6G候補周波数において、世界最高となる電力効率70%を実現したことも紹介した。






































