宿泊予約プラットフォームを提供するAirbnbが日本への投資を加速している。Airbnb 共同創業者兼最高戦略責任者である ネイサン・ブレチャージク(Nathan Blecharczyk)氏は、「日本は、プライオリティ市場のひとつであり、今後も積極的な投資を継続する」と語る。そして、「日本での事業成長に向けた基盤が整った」と宣言する。
Airbnbは、新たにJTBと共同で、「地域未来にぎわい工房」を創設したことを発表。これまでの宿泊施設の提供や観光支援だけでなく、空き家などの遊休資産を活用した新たな宿泊拠点を創出することで、観光や移住、教育、企業研修、防災など多様な滞在ニーズに対応し、各地域の活性化を図るものになる。
これまでにも、自治体との包括協定を積極的に結び、地域活性化に向けた取り組みを支援したり、2025年6月には、世界初の災害対策プログラムを日本で開始し、災害発生および災害支援の確定から24時間以内に、47都道府県の選定地域において緊急避難先となる宿泊施設を提供したりといった取り組みを開始。民泊を中心とした宿泊予約サービスだけでなく、地域の活性化や災害支援などにも貢献しており、活躍の場が大きく広がっているといえる。ブレチャージク氏に、日本におけるAirbnbの事業展開や、今後の方針などについて聞いた。
―― ブレチャージク共同創業者は、来日する際に、自らAirbnbを利用していると聞きましたが。
ブレチャージク:Airbnbには、宿泊予約だけでなく、アクティビティなどの体験予約ができるようになっています。Airbnb Experienceを通じて、今回、来日して見つけたのが、「居酒屋ホッピングツアー」でした(笑)。夕方から参加し、様々な人たちと出会うことができ、楽しい時間を過ごすことができました。次回の来日は、家族と一緒に訪れたいと思っていますから、そのときには、レジャーを通じて、日本ならではの新たな体験をしたいと考えています。日本を訪れると、豊かな文化、深い伝統に触れることができます。すばらしいおもてなしの心を持つ日本には、いつもインスピレーションを与えてもらっています。
―― 宿泊予約サイトは数多くありますが、「Airbnbらしさ」を表現するとどんな言葉が当てはまりますか。
ブレチャージク:私の日本での体験からも明らかなように、Airbnbの魅力は、単に宿泊施設を予約するだけでなく、その土地ならではの体験ができる点にあります。地方であれば、民泊という形で、一般的な家に泊まることができ、旅行者でありながら、まるで地元の人のような生活をすることができます。ホテルの宿泊ではできないような深い体験が得られ、従来型の観光とは異なる、新たな観光の楽しさを感じることができます。
―― 現在の日本でのビジネスを、どう評価していますか。
ブレチャージク:日本にオフィスを開設し、事業を本格化したのは2013年であり、すでに10年以上を経過しています。その間、日本における信頼と評価を着実に獲得してきました。ようやく、ビジネスの基盤を確立できたと考えており、成長に向けた投資を加速していきたいと思っています。
―― ビジネスの基盤とは、なにを指していますか。
ブレチャージク:3つあります。ひとつは、米国やアジアなどのインバウンドのお客様から、日本への注目が集まり、Airbnbの利用者にとっては、アジアで最も人気がある旅行先が日本であるという点です。日本を訪れたいという多くの旅行者がいることが、日本においてビジネスを行うための基盤になります。2つめは、日本政府や地方自治体などとのパートナーシップが確立できたということです。日本では、2018年6月に、住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、そこでパートナー企業や政府、自治体と連携しなから、法規制にあわせた対応を行い、法令に準拠した形でビジネスを行える基盤を整えました。その後も、地方自治体との包括協定を積極的に結ぶなど、地域経済活性化と日本の魅力を、国内外に伝えられる地盤を整えることができました。そして、3つめは、Airbnb Partnersに参加している各社と、強固な信頼関係を構築できたという点です。Airbnb Partnersは、日本で最初に実施したプログラムで、現在では、200以上の企業/団体が参加しています。この関係が基盤となって、Airbnbが、日本で成長を下支えすることになります。
私たちは、日本を「トップ10プライオリティ」市場のひとつに位置づけており、日本に対して、重点的な投資を行ってきました。今後も積極的な投資を継続します。その取り組みのひとつが、2024年10月から開始した大規模なマーケティングキャンペーンです。YouTubeやNetflixなどのオンラインストリーミングサービスのほか、テレビや屋外看板などで、Airbnbの広告を見た方も多いのではないでしょうか。
―― 実際に、日本でのビジネス成長は実現できていますか。
ブレチャージク:はい、日本での成長は加速しています。2024年10月からのマーケティングキャンペーンを行って以降、初めてAirbnbで宿泊先を予約したという日本人旅行者が大きく増加しています。外部調査によると、2024年に、Airbnbのプラットフォームは、日本のGDPに対して7700億円の貢献をもたらし、8万8000人の旅行を支えたという結果がでています。
―― 海外に比べると、日本におけるAirbnbの認知度が低いという課題がありました。これは徐々に解決されていますか。
ブレチャージク:海外企業にとって、日本は参入が難しい市場だといえます。また、信用や信頼を獲得するまでに時間がかかる市場でもあります。10年以上をかけて、ようやく基盤づくりができ、日本人旅行者の利用も増加していますから、成長に向けて、いい軌道に乗ることができたという手応えはあります。時間はかかりましたが、より認知度を高めることができる段階に入ってきました。日本国内で実施した調査でわかったのは、18歳から40代半ばの日本人旅行者の85%が、今後1年以内に、東京、大阪、京都、札幌といった主要都市ではなく、それ以外の場所を訪れたいと回答していることです。また、地方の宿泊予約数は、2024年に前年比で25%も増加しています。実は、あまり知られていない場所に行きたいと考えている日本人旅行者がかなり多いのです。しかし、そうした地方には宿泊施設がないというケースが少なくありません。Airbnbであれば、地方に旅行に行きたいという人たちに対しても、アクセス方法を提供できます。しかも、それをユニークなやり方で提供することができます。Airbnbは、日本市場への投資を継続し、日本の旅行者のニーズを支えていくことになります。
―― 日本では、オーバーツーリズムの課題があったり、民泊に対する規制が改めて厳しくなったりという動きがあります。大阪市でも特区民泊の新規申請受け付けを中止したり、地域住民からの苦情が急増していることが課題になったりしています。これは、Airbnbにとっては逆風になりませんか。
ブレチャージク:ビジネスという観点からみれば、日本は成熟市場ではなく、これから成長させることができる市場だと捉えています。ただ、オーバーツーリズムの問題にはしっかりと向き合っていかなくてはなりません。ここにも、Airbnbは貢献できると考えています。たとえば、オーバーツーリズムの原因のひとつが、特定の観光地などに旅行者が集中してしまうことです。Airbnbはは、これを、地方に分散させる役割を担うことができます。Airbnbを通じて、宿泊施設が存在していない場所にも旅行者がアクセスできるようにし、地元ならではの体験を提供する機会につなげ、新たな楽しみ方や体験を提案することができます。地域の経済活性化などにつながり、地方と世界をつなげることができます。
一方で、Airbnbは、「責任ある観光」にも取り組んでいます。日本を訪れる外国人旅行者からは、ごみの分別の仕方がわかりにくいという声をよく聞きます。そこで、自治体と連携し、旅行者向けのガイドブックを用意し、宿泊した際に迷わないようにするといったことにも取り組んでいます。
法令や規制にはバランスが必要です。世界各国を見渡しても、自治体や地域、市民にとって、経済的損失を伴う規制が生まれているというケースが散見されます。ただ、日本の法令は実務的なものであると解釈しています。重要なのは、全体を捉えたメッセージを発信することです。
北海道上ノ国町では、2025年4月から、地域住民や高校生が参加するDIYやワークショップを通じ、2軒の空き家が宿泊施設として転換し、12月からAirbnbのリスティングとして営業を開始しています。将来的には、町全体で30~40軒に拡大していくことを目指しています。遊休資産だったものを資源として捉え、再活用が進み、町全体を活性化するという取り組みです。上ノ国町の工藤昇町長は、「これは町民にとってのチャンスである」ということを、時間をかけて、町民に説明し、今回の取り組みにつながっています。日本の自治体のリーダーは、こうした戦略的視点をしっかりと伝えることの重要性を理解しており、そこにもAirbnbが貢献できると考えています。
―― 先ごろ、JTBとのパートナーシップにより、「地域未来にぎわい工房」を創設しました。この狙いはなんですか。
ブレチャージク:これまでは、宿泊施設の提供や観光支援といった観点で役割を果たしてきましたが、今回の取り組みは、空き家などの遊休資産を活用した新たな宿泊拠点を創出することで、観光や移住、教育、企業研修、防災など多様な滞在ニーズに対応し、各地域の活性化を図るものになります。先に触れた北海道上ノ国町のケースも、この取り組みに則ったものになります。
日本は世界で最も人気がある旅行先のひとつで、国内旅行者、海外旅行者の双方から強いニーズがあります。また、世界中の旅行者が、これまでとは違う体験を求め始めていますし、日本の若い旅行者を中心に同様の傾向がみられています。
さらに、空屋の再生は、新たな宿泊施設を開設するだけでなく、地域の賑わいを活性化させ、地域経済活動の新たな循環を生み出すことができます。地域の小規模事業者がビジネスを成長させ、若い世代が地元に留まり、未来を築くきっかけにもなります。観光業の成長だけでなく、地域社会の強化にもつながります。
そして、持続可能な地域社会を旅行の形を日本から世界に発信するために、多くのパートナーの参加してもらいたいと思っています。そのためには強力なローカルパートナーが必要であり、全国規模のネットワークと、高い観光知見を持つJTBは、私たちにとって、最も相応しいパートナーでした。今回のJTBとのパートナーシップは、地方の活性化を図る原動力となります。
―― 日本人の旅行者に、Airbnbで、最高の旅行を楽しむためのヒントを教えてもらえますか。
ブレチャージク:旅行者は、初めての場所に行くと、快適に過ごせるのかどうかという不安があり、宿泊施設にも不安を感じるものです。そうしたことがないように、Airbnbでは、レビューを用意しており、それを読むことで、どんな体験ができるのか、どんな宿泊施設なのかを知ることができます。また、検索が簡単にできますから、360度のあらゆる角度から情報を得ることが可能です。「この体験に参加できたら楽しいだろうな」、「私もこれに挑戦できるのかな」という期待が生まれ、同時に安心にもつながります。レビューを参考にしてもらうことは、旅行を安心なものするためには有効です。また、旅行は、非日常を楽しむものですし、「とにかくやってみよう」という姿勢を持つことも大切です。体験してみると、視点が大きく変わることもあります。Airbnbで民泊を予約すると、「人の家に泊まることが心配だ」という人もいるのですが、ホストに聞くと、「まだ出会っていない友達と出会える機会だと捉えると、とても前向きになり、それが楽しみに変わった」と言う声が出ています。旅行者も同じように視点を変えてみることが大切です。
Airbnbは、利用者の体験を最大化するために、アプリの開発において、UXデザインを重視しています。3人の共同創業者のうち、私以外の2人は、いずれもデザイナーであり、UXデザインにはかなりこだわっています。スマホやタブレットは画面が小さいので、ユーザビリティが非常に重要になります。デザインは、複雑性を取り除き、人の認知能力に対する負荷を軽減することに貢献します。Airbnbでは、多くのUXデザイナーを雇用しており、アプリのUXデザインにこだわっている理由はそこにあります。
―― Airbnbは、2007年に、2人のホストが、サンフランシスコの自宅に、3人のゲストを迎えたところから始まったスタートアップ企業ですね。ホスト数は500万人を超え、世界のほぼすべての国と地域で、20億回以上のゲストを迎えています。日本の起業家に対して、事業を成功させるコツをアドバイスしてもらえませんか。
ブレチャージク:Airbnbの誕生は、自分たちが直面している課題を解決するために、新たなことに挑戦したことがきっかけになっています。それはなにかというと、住んでいたマンションの家賃を払わなくてはならないという課題だったわけです(笑)。ですから、大きなビジネスにしようという気持ちはありませんでした。そして、私も、一緒に起業したBrian CheskyとJoe Gebbiaも、誰一人として、ホスピタリティ業界での経験はありませんでした。しかし、その結果、慣例に縛られることがなく、ユニークなアイデアが創出され、真っ白なキャンバスに絵を描くようにビジネスを推進できたわけです。私はパワフルなインサイトや知見があれば、ちょっとした課題があったとしても、それはディテールにすぎないと思っています。
ただ、物事を判断するときに、自分の経験からくる偏見が足かせになる場合があります。そこには注意が必要です。大きなチャンスを見いだすためには、自分を信じる切るだけでなく、1度立ち止まって、、「これは、うまくいかないのではないか」と、逆の立場から思考してみることが重要です。そこで新たな課題を発見できることもありますからね。




