タイガー魔法瓶の最上位モデル「土鍋ご泡火炊きJRX-S型」の内釜には、三重県四日市の伝統工芸品である萬古焼による「本土鍋」を採用している。タイガー魔法瓶では、このほど、「本土鍋」による内釜を生産している三重県四日市市のミヤオカンパニーリミテド本社工場の生産工程の様子を公開した。土鍋ならではの大火力によって、ごはんの甘みと粒立ちを実現する「土鍋ご泡火炊き」を支える生産技術に迫った。
今回、タイガー魔法瓶が公開したのが、「土鍋ご泡火炊きJRX-S100/S060」の内釜に使用している本土鍋の生産工程である。
生産パートナーであるミヤオカンパニーリミテドの本社工場は、名古屋駅から約40分。のんびりした風景が広がる近鉄名古屋線の霞ヶ浦駅から徒歩7分の位置にある。
同社は、1931年に、創業者の宮嶋芳平氏が、陶器製造業の宮尾商店を設立したのが始まりで、海外向け洋食器の生産で事業を拡大。ノベルティやテーブルウェアで長年の実績を持つ。1992年にミヤオカンパニーリミテドに社名を変更。2015年に丸利玉樹利喜蔵商店と資本提携し、現在に至っている。セラミックでは、長年の実績を持つほか、地元の四日市の伝統工芸品であり、耐熱性に優れた「萬古焼」の技術も受け継いでいる企業である。
陶器製造業の場合、一般的には、土は外部から購入したものをそのまま成形することが多いのに対して、ミヤオカンパニーリミテドでは、土や釉薬、印刷絵具に至るまで、自社で調合と管理を実施。原料から仕入れ、それをもとに、成形、焼成、絵付けも行っている。こうした一貫生産の体制を実現することで、最終製品の特性ごとに、最適化した土を自ら用意することができ、性能や品質を高めることが可能になっている。陶磁器業界では、世界的にも数少ない一貫生産メーカーのひとつだという。
そして、熟練者による完全手作業の工程と、ロボットによる自動工程を組み合わせている点も見逃せない。
タイガー魔法瓶とのパートナーシップは、2007年に、IH炊飯器向けセラミック内釜の生産を受託したのがはじまりだ。現在では、本社工場で生産している全数量の約8割が、タイガー魔法瓶の炊飯器向け内釜だという。
ミヤオカンパニーリミテド 営業・開発部 営業主任の廣田哲平氏は、「炊飯器の内釜は、家電の一部になるため、量産時の寸法の正確性が求められたり、毎日使うためにそれに耐えられる強度が重視されたりする。その実現のために、原料の仕入れや調合にこだわっている。通常は2、3種類の土を混ぜるが、タイガーの炊飯器向け内釜は、10数種類の土を混ぜて、それぞれの原料が持つ良い部分を生かして、求められる性能を実現している」という。
原料となる土は、世界各国から調達しており、山から削りだしても、枯渇せずに、長期に渡って安定して原料を採掘できる場所を選定していることも明かす。現在、使用している原料の約50%が海外から調達したものだという。ベトナム、インド、オーストラリア、欧州、北米など、様々な場所から調達している。
調合においては、大小の粒を混在させることで特性を高めている。粒が大きいと強度を保てないという課題があり、逆に小さい粒ばかりだと、焼いたときに縮まりやすくなるという課題が生まれる。同社では、炊飯器の内釜に最適な混合バランスを追求しており、まさに、原料選びのところから内釜づくりがスタートしているというわけだ。
生産工程では、まずは、原料を組み合わせて、水と混ぜた泥漿(でいしょう)を作るところから始まる。原料と水は、2階の位置から、円柱状の装置に投入。このなかの半分ぐらいの位置まで、15cm程度の大きさの石が約1万個入っており、そこが横回転することで、石と石の間に入った原料がすりつぶされて、決められた粒径に整えることができるという。回転数や水分量はノウハウの塊だ。
完成した泥漿は床部分に設置されたタンクのなかに貯められる。ここには、100トンの泥漿を蓄積できる。1回の仕込みは、5トン程度であり、20回分を貯蔵していることになる。
「自然原料であるため、変化が起きやすい。その変化を平準化したり、対策を行う時間を取ったりするために、一度に大量の泥漿を作り、蓄積している」という。
泥漿は、専用の装置に流し込んで脱水をする。円盤上の型の中央部分から泥漿を流し込み、型ごとに圧力をかけて、水切り板の穴から脱水が行われる。脱水が完了した材料は、プレスケーキと呼ばれ、1枚あたりの重量は約20kg。水分がまだ約20%程度含まれているため、かなりの重さがある。ここから5~6個の内釜を作ることができるという。完成品では1個あたりの重量は2kg以下となっていることと比較すると、重量の半分ぐらいが、工程のなかで減っていくことになる。
完成したプレスケーキは、夏場では3週間程度、冬場では1カ月程度寝かせる。これにより、土のなかに含まれる微量のバクテリアが活性化し、土に粘り気を出すというメリットが生まれる。このバクテリアは焼成工程で死滅することになる。
プレスケーキは、真空土練(どれん)の工程に移動。空気を完全に抜くことで、焼いたときに割れないようにする。
夏場は、午前中に土練した材料が、水分が抜けて硬くなることがある。硬いと成形の際に伸びにくく、欠陥が出やすいという影響が生まれる。これは、外気温によって変化するため、熟練工の知見をもとに、狙った土の柔らかさまで練り上げていくという。
「一般的な土鍋であれば、サイズに多少の差があってもいいが、炊飯器の内釜はサイズがきちっと決まっている。また、形状に変化があると熱源との距離が変わり、性能が出なくなるという問題も発生する。土の状態次第で、サイズが1%変わってしまうこともある。この工程は極めて重要であり、熟練工のノウハウが不可欠である」という。
炊飯器の内釜の底の場合、±0.3mmという精度で生産をしているという。
生産工程の各所では、いくつもの検査が行われており、そこで不良品を取り除く作業が行われているが、約2割が不良品と認定されることになるとという。歩留まりはかなり悪いと言わざるを得ない。それだけ内釜を、厳しい基準のなかで量産するのは難しいことがわかる。
真空土練が行われた材料は、成形工程に運び込まれる。この工程は完全自動化されている。
材料は、内釜1個分にカットされ、ロボットアームを使って型に入れられ、回転しながら、上から下りてくる上型で成形され、上側に出てくる不要な部分はカットされる。
成形が完了すると、型に入ったまま一次乾燥の工程に入ることになる。一次乾燥が終わると、離型し、内釜本体の生地仕上げの工程に入る。ここでは、複数のローラーを使って仕上げ作業を行うことになる。生地仕上げが終わったあとは目視での検査工程が待っている。熟練工による厳しいチェックが行われている。
一次乾燥は30分間だが、検査工程後の二次乾燥は1時間。そして、専用エリアを使って、最低でも一晩をかけた三次乾燥を行うことになる。時間をかけて、ゆっくりと水分を抜くことで、内釜が割れないようにするというわけだ。
三次乾燥までが終わると、次は焼成の工程に入る。ここでは、変形を防ぐ治具を使用しながら、半日をかけて焼成する。
最初が締焼と呼ばれる工程だ。約1250℃という高い温度で行うことになる。
一般的な陶器の場合、最初に素焼きした後に、釉薬を塗布して本焼を行うことで、釉薬が溶けて形を形成するという仕組みとなっている。だが、炊飯器の内釜では、ガラス樹脂の釉薬を使用しており、本焼をした際に形の矯正ができないという課題が生まれる。そこで、締焼として高い温度で焼いて、治具を使用しながら形を決め、その後、徐々に温度を下げて焼くことで、内釜を最初の形状から変形させずに完成させることができるという。
そのため、タイガー魔法瓶の炊飯器の内釜生産では、本焼という工程がなく、締焼、釉薬焼成、発熱体焼成という3つの焼成工程を経るという。
締焼が終わると、締焼検査が行われる。ここでは全数を対象に厳しい検査が行われる。内容は、重量やサイズ、外観、特性検査などであり、1日あたり1500個ほどの内釜を検査するというが、10%程度はこの検査で取り除かれるという。炊飯器に使用せずに普通の鍋として利用するには、十分な水準のものばかりだというから、その基準の厳しさがわかる。。
ちなみに、材料の調合から、この検査に至るまでに、約4日間を要しているという。
締焼検査が終わると、釉薬を塗布し、ガラスコーティングを行う。内釜は、生地状態だと水を吸うため、これを防ぐことに加えて、強度を付加できるメリットがあるという。
釉薬の塗布は、ロボットを活用したスプレー方式で行っているが、ここに大きなノウハウがあるという。μ単位での膜厚塗布を管理しており、今回の取材でもこの工程だけは公開されなかった。
釉薬を塗布したあとには、釉薬焼成を行う。約1150℃の炉のなかに、釉薬を塗布した内釜を入れることになる。
釉薬焼成による2回目の焼成が終わると、釉薬検査と呼ばれる工程に入る。ここでも全量を対象に検査を実施し、目視や触手による検査のほか、サイズを測ったり、叩いて反響する音を聞いて、空気やひびが入っていないことなどを確認したりする。
工場内には、発熱体の印刷工程もある。この工程を内製化しているのも、ミヤオカンパニーリミテドの大きな特徴のひとつだ。
発熱体シートは内釜の底面用と、斜面用を用意。印刷した発熱体は、水で濡らして、シートから外し、内釜に貼り付けることになる。プラモデルの水転写型シールと同じ構造だ。
発熱体は、薄膜の銀を重ねて、ガラスコーティングを行い、樹脂成分を乗せることで完成するという。
ミヤオカンパニーリミテドでは、卓上用土鍋で発熱体を使用しており、タイガー魔法瓶は、土鍋の生産技術だけでなく、発熱体の実績にも着目し、パートナーシップを結んだという経緯がある。
実際、炊飯器の内釜で使用する発熱体の材料については、常に研究を行っており、タイガー魔法瓶とミヤオカンパニーリミテドの開発チームが緊密に連携しながら、発熱体を進化させているという。
「2週間に一度は、大阪府門真市のタイガー魔法瓶の本社を訪れている。先ごろ、火山灰を原料にしたシラスバルーンを、内釜の発熱体に混ぜ込んだところ、炊飯性能を高めることができた。その成果をもとに、どの膜厚がいいのかといったことも研究している。発熱体は毎年進化を遂げている」と語る。
発熱体を貼付した内釜は、乾燥工程を経て、最後の発熱体焼成を行う。ここでは、約900℃で発熱体を内釜に焼きつけることになる。そして、最終検査を行ったのち、梱包作業を行い、炊飯器の製造を行う大阪府門真市のタイガー魔法瓶の本社工場に向けて出荷。その後、MADE IN JAPANの炊飯器として、国内外に出荷されることになるという。
このように、ミヤオカンパニーリミテドでは、材料の調達、配合から、成形、焼成、発熱体製造、検査、出荷までの一貫生産体制を敷いているのが特徴だ。
ミヤオカンパニーリミテドの廣田氏は、「材料の選別、調合だけでなく、釉薬の開発、それにあわせた焼成、乾燥などの組み合わせによって、強度や耐熱性を高めることができる。実際、炊飯器の内釜では、通常の土鍋の2倍の強度を実現している。生産工程にあわせた調合や材料添加が可能なのは、一貫生産だからこそ、実現できる強みである」と自信をみせる。
三重県四日市市の国内拠点において作られている萬古焼による「本土鍋」は、長年の実績と蓄積した技術、ノウハウがあるからこそ実現できるものだといえる。
蓄積した技術をもとに、時間をかけて、じっくりと作り上げる内釜が、タイガー魔法瓶の炊飯器のモノづくりを支えている。
では、生産現場の様子を、写真で見てみよう。
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原料置き場。タイガーの炊飯器向け内釜は10数種類の土を混ぜる。大小の粒を混在させることで性能を高めるという。土は世界各国から調達。ここにあるのは約2000個分の量だという
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こちらの土はベトナムから仕入れている。枯渇せずに、長期に渡って安定して原料を採掘できる場所を選定している
<動画>成形工程の様子。完全自動化されている
<動画>目視や触手による検査のほか、サイズを測ったり、叩いて反響する音で完成していることを確認したりする



























































