セイコーエプソンは、山形県酒田市の東北エプソンに、インクジェットプリンター用ヘッドの生産を行う新棟を建設し、2025年10月10日に竣工式を行った。
新棟は、東北エプソンの6号棟として、2024年6月に着工し、約51億円を投資。エプソン独自のPrecisionCoreを実現する「マイクロTFPプリントヘッド」の製造の後工程を行う拠点となる。建築面積は5500平方メートル、鉄骨造2階建てで、延床面積は1万1191平方メートル。今後、生産設備の導入を進め、2026年5月の稼働を予定している。将来的には、東北エプソンにおけるプリントヘッドの生産能力を、現在の4倍程度にまで拡大するという。
セイコーエプソンの𠮷田潤吉社長は、「新棟建設への大規模な投資は、多くのお客様からの期待に応えるだけでなく、その先にあるエプソンが思い描く未来を実現するための大切な一歩になる。エプソンのコア技術をさらに進化させ、これからのモノづくりのあり方を変えていく、未来への力強い投資だと考えている」と述べた。
インクジェットプリンター用ヘッドに搭載している「マイクロTFPプリントチップ」は、インクを吐出するノズルに対して、ひとつひとつに異なる制御を行い、数ピコリットルという微細なインク滴を、1秒間に5万発噴射することができる。インクジェットプリンターの画質と速度を決定する重要な基幹部品といえる。
製造の前工程は、長野県塩尻市の広丘事業所で行っており、すでに、増産投資を行っている。これに対応した後工程の増産体制の確立に向けて、秋田県湯沢市の秋田エプソンでは、2023年12月に、10号棟を竣工していたが、今回の東北エプソンの新棟建設は、これに続いて、後工程を強化するものになる。
前工程ではウェハー加工、プレート貼りあわせを行い、プリントチップを製造。後工程では、完成したプリントチップと、基板や部品、ケースを組みあわせてプリントヘッドとして仕上げることになる。出来上がったプリントヘッドは、フィリピンやインドネシア、中国、ブラジル、イタリアの生産拠点に送られ、プリンター本体として組み立てることになる。
セイコーエプソンでは、「東北圏の2拠点において、安定生産を実現するため、機種別生産割り付けを行うほか、主流機種の両拠点での生産やライン共用による生産変動に柔軟に対応することで、生産性向上を図る。BCPにも対応できる」としている。
人手不足課題にも対応する最新工場、「省・小・精」の重要拠点に
東北エプソンは、1995年に、プリントヘッドの生産を開始し、2013年6月からPrecisionCoreプリントヘッドの量産を開始している。エプソン製ロボットを駆使した自動組立ラインを構築し、生産性を高めているのが特徴だ。
新棟は、既存のプリントヘッドの生産工場棟に併設して建てられており、部品から組立までの工程を効率化するとともに、新規設計した工程により、省人化、省スペース化を図っている。工程内在庫の最小化や自動運搬ロボットの導入、工夫したレイアウトなどによって、作業者の負荷を低減しているのも特徴だ。加えて、成層空調システムを導入したことで、省エネルギー化と省コスト化を図っている。
また、今後の製造業における人手不足などの課題に対応するため、夜勤業務の省人化など、働きやすさと合理化による高効率生産を両立する未来工場を目指すという。
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PrecisionCoreマイクロTFPプリントヘッド「S3200」。外販を行っている商業・産業向けインクジェットプリントヘッドだ
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PrecisionCoreマイクロTFPプリントヘッド「I3200」。さまざまな種類のインクに適合し、工業印刷用途など幅広いデジタル印刷に対応
セイコーエプソンの𠮷田社長は、「東北エプソンは、今年40周年の節目を迎え、エプソングループの垂直統合型のモノづくりにおいて、重要な役割を果たしてきた。インクジェットヘッドや半導体など、キーデバイスの生産に加えて、大型デジタルラベル印刷機や産業用ロボット部品など、これからのエプソンの成長に欠かせない事業を支えている。最大の強みは、装置開発から設計、精密金型の製作から成形、プレス部品の製造、そして製造ラインの立ち上げまで、自分たちの手で行う体制を持っていることである。これが、高品質な製品を、スピーディーに世の中に送り出すことにつながり、エプソンの競争力の源泉になっている」と発言。「新棟から生まれるインクジェットヘッドは、オフィスや家庭での印刷はもちろん、アパレルや広告といった商業・産業の現場や、電子部品の製造、バイオなどの新分野での課題解決にも貢献できる。『省・小・精の技術』を磨き続け、東北の地からもイノベーションを起こし続けていく」と抱負を述べた。
また、東北エプソンの齋藤学社長は、「マイクロピエゾ技術や、マイクロTFPプリントヘッドを活用した製品の需要増加に対応するための重要な拠点となる。東北エプソンが培ってきた技術力を活かし、新棟では、次世代のインクジェットヘッドの製造プロセスをさらに進化させ、商業印刷、産業印刷など、社会の多様なニーズに応える製品を提供していく。新棟は、未来を切り拓くための大きな一歩となる。ここから生まれる製品が、世界中の人々の暮らしや産業を支える力となることを確信している」と語った。
10月10日午後3時30分から行われた竣工式では、セイコーエプソンの𠮷田潤吉社長や、東北エプソンの齋藤学社長、山形県の折原英人副知事、酒田市の矢口明子市長などが参加。建築主を代表して挨拶したセイコーエプソン IJS事業部の上條隆弘副事業部長は、「新棟は、エプソンのプリンティング事業を支える要素部品のプリントヘッドを生産すると同時に、最重要コア技術であるインジェットヘッド技術をさらに進化させる重要な現場となる。技術は、工場の生産現場による量産によって磨かれる。今後の事業展開、技術発展において重要な拠点となる」と述べた。
インクジェットは需要継続、プリントヘッド外販も攻める
エプソンが、「マイクロTFPプリントチップ」の生産体制の強化を図る背景には、オフィスやホーム、商業・産業分野における製品およびサービスの提供を強化していることがあげられる。とくに、新興国市場では、大容量インクタンク搭載のインクジェットプリンターへの需要が継続していること、オフィス向け高速機が伸長していることを背景に、今後も全世界でインクジェットプリンターの需要が増加すると想定している。
また、商業・産業向けインクジェットプリンターでは、アナログ印刷からデジタル印刷へのシフトに伴い、デジタル捺染など、紙以外の印刷需要が高まっていることも見逃せない。
さらに、エプソンでは、PrecisionCoreプリントヘッドの外販ビジネスを強化しているのに加えて、エレクトロニクス分野やバイオ分野でのプリンティング技術の活用など、オープンイノベーションによる新市場開拓にも取り組んでいる。
今回の東北エプソンへの新棟建設は、PrecisionCoreプリントヘッドの旺盛な需要に対応するための拠点として位置づけている。















