NECは、2025年6月20日、神奈川県川崎市のNEC玉川ルネッサンスシティホールにおいて株主総会を開催。NECの森田隆之社長兼CEOは、「125年の歴史のなかで、絶えず行ってきた変革と、その成果である2024年度の実績を報告することができる。数々の変革が実を結び、成果が出始めたことを実感している。私たちの方向性は間違っていなかったと確信している」と、これまでの企業変革の成果に自信をみせた。
NECの2024年度の売上収益は3兆4234億円、調整後営業利益は2871億円となり、8期連続で期初計画を達成。GAAP営業利益、当期利益は、過去最高益を達成している。また、時価総額は、2017年比で、7倍以上となる5兆円に達している。
また、株主総会の冒頭に放映した事業報告のビデオでは、NECは、先進テクノロジーを駆使し、自ら変革しながら、新しい価値を社会に届けてきた経緯と、2013年にNECの存在維持を改めて問い直し、社会価値創造型企業への変革を決意したこと、その意思をパーパスに込めたほか、2025中期経営計画では、パーパス、戦略、文化の一体的な取り組みを経営方針に掲げ、BluStellar(ブルーステラ)を中心としたITサービスと、宇宙防衛分野などの社会インフラを、NECの「貢献領域」として明確化したことにも触れた。
また、2025年度通期業績見通しが、売上収益で3兆3600億円、調整後営業利益は、当初計画に対して100億円増額の3100億円としていることも報告した。
NECの森田社長兼CEOは、「NECは、自らを変革しながら、新しい価値を創造してきた。代わり続けることが、NECの生命線であり、これからも、変革の歩みを止めることはない」としながら、「これまでのひとつひとつの変革が、いまのNECにつながっている。世界は日々変化しているが、果敢に挑戦を続け、安心できるテクノロジーを提供できる存在として、世界の発展に貢献していく。変革を通じて社会価値を創造しつづける」とし、「とくに、安全保障においては、サイバー攻撃が重要インフラを機能停止に陥れるほどの影響力を持つようになった。官民一体での対策が急務であり、自国を脅威から守る上で、国産技術の重要性が高まっている」と指摘。そこにNECが貢献できることをアピールした。
変革のキードライバーは「AI」「セキュリティ」「BluStellar」
NECが変革のキードライバーに位置づけているのが、「AI」、「セキュリティ」、そして、「BluStellar」である。
「AI」については、「NECは、開発力と実装力で、AIによる変革をリードする」とし、自社開発の生成AIであるcotomiを中核とした事業展開を進めていることを示す。
cotomiは、2023年に市場投入してから、継続的に性能強化と拡充を推進。2024年12月には、v2に進化させ、生成速度では一般商用モデルの2倍、精度では世界トップレベルのプレーヤーに匹敵する9位(cotomi Pro v2の場合)のボジションにあるとした。
「cotomiは、日本のテクノロジーカンパニーであるNECが、日本独自の法制度や価値観、文化に基づいて開発したAIである。安全安心で、高度な専門業務を自動化するAIとして着実に実績を積み上げており、NECの強みを生かすことができている」と位置づけた。
また、NEC Generative AI Service Menuでは、根拠の有無をチェックするハルシネーション対策機能により、高度な正確性が求められる医療や金融分野でもAIの活用ができること、NEC Generative AI Appliance Serverでは、cotomiを顧客の専用環境で安全に利用でき、データの秘匿性が求められる領域でも生成AIの活用が可能になることを示した。
「セキュリティ」については、「NECは、.jp(ドットジェーピー=日本のサイバー空間)を守るという使命感を持ってセキュリティ事業を推進している」と語る。
NECは、米国政府基準をベンチマークした最高レベルのセキュリティ施設であるCyber Intelligence & Operation Centerを新設し、サイバー攻撃の予兆把握や、地政学リスクなどを考慮したインシデント対応支援から報告までの機能を集約。包括的なサービスを提供することができるという。また、KDDIとは、サイバーセキュリティ事業における協業に向けた基本合意書を結び、国内企業とグローバルに広がるサプライチェーン、政府機関をサイバー脅威から守るために、強固な基盤を共同で構築することで、国内最大規模のサイバーセキュリティ事業を目指すとしている。
「日常的に使用しているインターネットやデジタルサービスを支えているのが、データセンターや5G、海底ケーブル、衛星といったデジタルインフラである。これらは社会全体の神経網になっており、すべての産業の根幹を支えている。NECは、これらの分野のすべてで事業を行っている稀有な企業であり、日本のデジタインフラを守る役割を果たしたい。それを実現できる事業、テクノロジー、人材を有していると自負している」と、強い意思をみせた。
「BluStellar」に関しては、「DXに関する技術やノウハウを結集したブランドである。また、コンサルティングを起点とし、構想から実装、運用までを一気通貫でDXを成功に導く、価値創造モデルでもある。ここには世界レベルのAIや国家レベルのセキュリティを核としたNECの先進技術が注ぎ込まれ、お客様と伴走する専門人材も増強している」とし、500商材にのぼるプロダクトサービスと、それらを顧客ニーズにあわせたパッケージ化した約150セットのオファリング、経営課題軸でモデルかした30セットのシナリオで構成。1万人のコンサルタント、1万2000人のDX人材を通じて、BluStellarを提案している強みを示した。
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BluStellarは「DXに関する技術やノウハウを結集したブランド」。500商材にのぼるプロダクトサービスと、それらを顧客ニーズにあわせたパッケージ化した約150セットのオファリング、経営課題軸でモデルかした30セットのシナリオで構成している。コンサルティングを起点とし、構想から実装、運用までを一気通貫でDXを成功に導く
BluStellar Scenarioは、4種類の業務共通シナリオ、16種類の業種シナリオを用意。「シナリオは、最新のDX事例から成功要因を抽出し、モデル化したものである。実績に裏づけられた最先端のDXを、最速に、安心して導入してもらえる。民間企業、政府自治体、公共団体までをカバーし、今後も、業種、業務に特化したシナリオも拡充していく」と述べた。
セブン-イレブン・ジャパンでは、BluStellar Scenarioを活用して、国内では業界初となる約2万1000店舗、約30万台の店舗システムの全面クラウド化を実現しており、NECが蓄積した経験を活用することで、将来の店舗構想から運用までを伴走。また、自治体向けのBluStellar Scenarioの提案では、行政DXに特化した独自テンプレートの活用により、ガバメントクラウドへの安全な移行を最短5日間で実現。すでに53案件への導入が完了したという。
「BluStellarは、売上げ、利益ともに1年前倒しで計画を達成するなどの成果をあげている。多くのお客様から高い評価を得ている」と、想定を上回る事業成長に手応えを示した。
また、NECでは顔認証システムなど、同社が持つ先端技術をNEC自らが導入し、実験場として社員が使いこなす文化を醸成。データドリブン経営の実践については、データ整備とともに経営情報を可視化し、事業領域ごとの業績状況やセキュリティ状況をリアルタイムで閲覧できるようにし、迅速で高度な経営判断ができる環境が整っていることを明らかにした。現在、10領域98種類の経営情報を可視化している。
「この仕組みは、NEC本社のリファレンスオフィスにおいて、社外にも公開しており、360人を超えるお客様に見学してもらっている。NECはクライアントゼロとして、失敗を含めた活きた知見を、お客様や社会に還元している。自社のDXに課題を感じているお客様からも大きな関心が寄せられている」と語った。
DXの大きな波、NECに大きなビジネスチャンス
株主からの質問に回答する形で、DXの今後の見通しについても説明。「かつては、リーマンショックのときがそうだったように、景気が落ち込むと、多くの企業が、最初に予算に手を付けるのがIT領域であった。これがNECの事業に大きな影響を与えてきた。だが、5~10年で状況が変わり、DXが事業の骨格となり、AIの活用が組織の在り方や仕事のやり方、業務プロセス全体に関わるようになっている。これが、30年、50年に及ぶ産業変革を引き起こすものになる。NECが、この大きな波に乗れば、大きなビジネスチャンスがある」とした。
現在、デジタルビジネスの7~8割をモダナイゼーションが占めており、この状況が数年続くとの見方を示したほか、モダナイゼーションの進展とともに、データ利活用が加速することにより、業務プロセスやビジネスそのものをDXする動きが手えると予測した。
防衛事業に対しては、「NECは、情報通信、無線、制御の分野でユニークな技術を多数持っており、政府が防衛予算を増やすなかで、受注を伸ばしている。2024年度は、防衛分野と宇宙分野で約5000億円の受注があり、前年度に比べて、2倍以上の規模となっている。この規模のビジネスは、数年は続くだろう。NECのDXの強みを生かせる領域である。すでに、通信事業部門の約1000人のリソースを異動させ、さらに1000人近い技術者の増強が必要であると見ている。外部からのリクルートも考えなくてはならない。府中事業場には防衛部門のために新棟を建設するなど、ここを中核拠点として、さらなる施設や人員の増強を図る。防衛分野は、NECの技術、ビジネスを支える領域になる」とし、今後の事業拡大にも意欲をみせた。
医療分野向けの電子カルテシステムについては、「電子カルテシステム同士に相互互換がないという点には大きな問題意識を持っている。マイナンバーカードの導入をきっかけにして、この状況を大きく変えられないかという動きがあるなかで、政府とも連携しながら、取り組みを進めているところである」と発言。また、「NECの電子カルテシステムであるMegaOakシリーズでは、300床未満の中小病院と、それ以上の大手病院とでは、システムが異なるという状況もある。現在、システムの統合化や、ヘルスケアおよびウェルビーイングに関する情報との連携、画像情報の互換性確保に向けた制度変更にも取り組んでいる。社会課題を抱えている領域である一方で、AIとヘルスケア、ライフサイエンスは親和性が高い領域であり、NECにとっても重点領域となる。電子カルテシステムの改善に取り組む」と回答した。
AIによって、仕事が無くなるのではないかとの指摘については、「AIによって仕事がなくなるのではなく、仕事が変わると考えている。過去の産業革命でも、新しい産業や新しい仕事が生まれることが繰り返されてきたのと同じである」としながらも、「だが、人の人との温度感を持った接点は、音声合成や顔合成でも、とって変わることはできない。また、意思決定は人がしていくことには変わらない。これからは、学び続け、考え続けることが、ますます重要になってくる。問題の本質を考え抜くことが、新たな仕事や新しい知恵を生むことになる」と回答。NECの西原基夫CTOは、「テクノロジーが進展すると、新たな仕事が生まれ、むしろ、仕事は増えるといっても過言ではない。若い人が活躍するチャンスが生まれてくる」と述べた。
なお、株主総会の会場には180人が参加。唯一の議案である「取締役11名選任の件」については可決され、総会は96分間で終了した。