パナソニックのVieureka(ビューレカ)プラットフォームを活用した小売店舗向け来客分析サービスが、サッポロドラッグストアー(サツドラ)が運営するドラッグストア3店舗に導入された。
「Vieurekaプラットフォーム (Vieureka PF)」は、本体でAIによるデータ処理が可能な「Vieurekaカメラ」と、カメラ上で実行されるアプリケーションを遠隔地から管理できるクラウドベースの「マネジメントソフトウェア」、アプリケーションを開発するための「ソフトウェア環境」で構成したプラットフォーム。パナソニックでは、これを活用したアプリケーションとして、小売店舗向け来客分析サービスを開発し、提供している。
カメラは、電気、ガス、水道に続く、新たなインフラに
業界で初めて、クラウドを通じて、IPカメラ内に搭載された画像認識機能を容易に入れ替えることができる仕組みを採用。さらに、クラウド上でシステム運用を行い、制御や動作状況を監視できるのが特徴だ。用途に合わせてIPカメラの機能をカスタマイズできることから、新たな機能を追加したり、店舗でのマーケティングや工場での従業員の行動管理、病院や介護施設での見守り、建設現場の入退出管理など、さまざまな用途でのシステムを開発できる。
2019年4月にスタートしたパートナープログラムでは、すでに30社が参加。技術情報の提供や技術サポート、パートナー同士のマッチング、共同マーケティング活動などを行う体制を整えている。
2019年6月5日に開催した流通業を対象にしたセミナーでは、30社50人が参加。9月26日に開催予定の第2回目のセミナーでは製造業を対象に実施し、50社70人が参加する予定だという。
「開発環境の提供により、アプリはゼロから開発する必要がなく、遠隔保守や遠隔アップデートにより、カメラの故障対応や再起動、顧客の要望にあわせた機能をすぐに追加するといった対応も可能だ。Vieurekaでは、過去3年間で44回のアップデートをしている」という。
小売業向けアプリケーションはパナソニックが開発をしているが、その他の業種展開については、パートナーとの連携によって品揃えしていく考えだ。
パナソニック ビジネスイノベーション本部 AIソリューションセンター エッジコンピューティングPFプロジェクト総括担当の宮崎秋弘氏は、「これからの100年、くらしのサイバーフィジカル化が進むなかで、Vieurekaは、くらしのアップデートを実現する製品のひとつになる。カメラを使った眼によるセンシングに着目し、世界の"いま"をデータ化することで、新たな社会インフラを創造する役割を担う。年間数1000万台が出荷されているカメラは、電気、ガス、水道に続く、新たなインフラになると考えている。道路や工場などに設置したカメラの情報を、画像解析により意味のあるデータにし、それをカメラによるエッジコンピューティングを活用した分散処理で実行。また、Vieureka Managerによって、どこに、誰が、どんなカメラを設置し、どんなアプリを動かしているかを管理することができる」とする。
また、カメラ本体で処理するエッジコンピューティングとクラウドの分散処理により、サーバールームが不要であり、無線LANやLTEなどのほか、将来的にはHD-PLCなどのネットワークの利用も可能になり、本部にいながら、来客数や属性の可視化によって、店舗の状況がリアルタイムで把握できるソリューションとして活用できる。
北海道で強い影響力を持つサツドラがパートナーに
一方、このほど、Vieurekaを導入したサツドラの親会社であるサツドラホールディングスは、北海道を中心にドラッグストアなど218店舗を展開。北海道のドラッグストア市場では30.2%のシェアを持つという。独自の地域共通ポイントカード「EZOCA(エゾカ)」は180万人が利用。これは北海道の人口の約3分の1が所有していることになり、北海道における世帯カバー率は約57%。120社698店舗での利用が可能だ。同社は「ドラッグストアビジネスから地域コネクティッドビジネスへ」をビジョンに掲げており、北海道で蓄積したノウハウや知見を生かして、ノウハウをソリューション化し、日本や海外に展開していく方針を打ち出している。
同社で特徴的なのは、複数のIT関連企業を傘下に持ち、デジタルトランスフォーメーション化を積極的に展開している点だ。グループには、POSシステスムを開発するGRIT WORKSが約600店舗への実績を持つほか、AIソリューション開発事業を行うAWL、プログラミング学習塾の経営や教育に関するソフトウェアの開発を行うシーラクンスなどがある。
さらに、店舗のキャッシュレス化にも力を注いでおり、サツドラおよび北海道くらし百貨店では、札幌圏の地下鉄、バスなどで利用できるSAPICAのほか、Suicaなどの9種類の交通系電子マネー、nanaco、WAON、楽天Edy、QUICPay、iD、WeChat Pay、Alipay、PayPay、d払い、au PAY、LINE Pay、メルペイ、楽天ペイの電子決済サービスが利用可能となっているほか、グループのリージョナルマーケティングでは、電子マネー決済サービス「EZO(エゾ)マネー」を展開するほか、ひとつの端末で、WeChatPay、ALIPAY、LINE Pay、PayPay、au PAY、d払い、Origami Pay、メルペイ、楽天ペイの国内外の9つのブランドでQR決済が可能になるサービスを提供している。サツドラの店舗では、EZOCAやクレジットカードの利用を含めて、約4割が現金以外の決済になっているという。
サツドラホールディングス インキュベーションチーム リーダーの杉山英実氏は、「ドラッグストアは、どんな場所であっても同じ商品を同じ価格で提供する地域格差の解消が役割であったが、これからは同じ情報を同じ価値で提供する情報格差の解消が役割になってくる。そのためには、生活者に商品を売る場から、商品とサービスを提供する場にならなくてはいけない。だが、労働人口の減少などの課題もあり、今後は、モノを売る部分への人の関与を減らして、サービスを売る部分に人を割かなくてはならないだろう。今回のVieurekaは、モノを売る部分での人の関与を減らすことができる」とする。
Vieurekaを導入したサツドラ店舗、実際に何が変わった?
Vieurekaを導入した一店舗である札幌市豊平区のサツドラ月寒西1条店では、約380坪の売り場面積に96台のVieurekaカメラを設置。商品棚などのレイアウト変更の効果測定やマーケティングなどに活用している。
「ECでは、性別や年齢、距離などの情報のほか、どうやって商品の情報を収集しているのか、どれとどれを比較検討しているのか、なにを購入したのかということがわかるが、リアルの店舗では、なにが売れたのかという、購買情報しかわからない。Vieurekaを利用することで、リアル店舗でもECと同様の情報が得られるようにできる」(パナソニックの宮崎氏)
サツドラ月寒西1条店では、すでに2018年10月から54台のカメラを使用して運用を開始。2019年3月にはメーカーなどの要望を反映して、設置台数を増加。それらのメーカーの商品の売れ行きや補充による影響、販促物の活用効果などを測定している。
具体的には、カメラで来店客の顔を認識して、性別や年齢を推定。店舗全体の導線を把握したり、個別の売り場の立ち寄りや滞在時間をカウントする。
また、パナソニックが提供する顧客データと、サツドラが提供するPOSデータ、棚割データを取引メーカーと共有。三者共同で検証したり、ノウハウを活用したり、技術検証などを行うことで、店舗運営や商品マーケティングなどに活用する。さらに、Vieurekaカメラのアプリケーションをクラウドから容易にアップデートできるデプロイ機能により、来客分析サービスの最新バージョンをいち早く導入。あわせて、開発途上のα版などのアプリケーションを店頭で試行し、運用に配慮しながら次世代店舗に向けた検討を行うこともできるという。サツドラ月寒西1条店でも、当初は、店内の来店客分析で活用していたが、棚の欠品検知にも活用するといった取り組みを開始している。
サツドラ月寒西1条店へのVieurekaの導入で最初に活用したのが、来店客の導線をもとにした店舗レイアウトの変更だ。
サツドラ月寒西1条店では、サツドラの強みのひとつとなっている食料品を店舗の一番奥に配置。さらに、入口を入って、まっすぐ直進した突き当りの場所には、購入頻度が高いシャンブーやヘアケア商品のコーナーを置き、これを「第1マグネット」と位置づけ、来店客が店舗内全体を周回するようなレイアウトを目指した。
だが、Vieurekaカメラを設置して分析したところ、同社の思惑通りに入口から通路を直進して、第1マグネットを通過して、食品売り場に到達する来店客は45.1%と半分以下に留まっていることがわかった。多くの来店客が、入口を入って右に曲がり、レジの前を通過したり、通路の途中に横に入れるエリアを通過して、食品売り場に到達しており、第1マグネットに到達している来店客が少ないことがわかった。
そこで、売り場レイアウトを変更。横に入れる通路を無くし、第1マグネットに到達しやすいようにした。だが、結果として、レジ前を通過する来店客が多いため、突き当りの第1マグネットに到達する来店客は46.9%と微増したに過ぎなかった。
サツドラホールディングスの杉山氏は、「導線を変えるという点では成果は出なかったが、データを収集することによって、想定した通りには人が流れていないこと、レイアウト変更だけでは顧客導線を変えられないことがわかった。棚割りで導線を変えるのではなく、商品軸でレイアウト全体を変えて、店内を一周させることを検討。別の店舗の改装にあわせて、入口からまっすぐ入ると食品コーナーに至り、その並びに設置された食品を見ながら店内を周回する形に変更した。「食品を軸とした売り場レイアウトにより、顧客導線がどう変化するのか、買い上げ点数はどう変化するのかといったことを考察したい」とする。
新たに改装した店は帯広市内にあり、ここでもVieurekaカメラを導入して、再度、導線の検証などを行うことになる。
POSデータとの組み合わせ、AI分析にもVieurekaを活用
ID-POSで収集したデータとの比較による活用も進む。
これまでサツドラでは、180万人のEZOCA利用者のデータをもとに、購入者や購入動向を分析していた。それによると来店客の71.1%が女性であり、世代別では多い順に、40代女性、50代女性、30代女性、60代女性と続き、5番目に40代男性が入るという女性中心の来店客層と分析していた。
だが、Vieurekaカメラを設置して収集した情報では、女性の比率が52.5%となり、逆に男性が47.5%と半分近いという結果が出た。また、世代別に分析しても、40代女性、50代女性に次いで、40代男性が3番目に入り、5位にも50代男性が入った。
「ID-POSデータは、レジを通過したポイントカード所有者の購入データであるのに対して、Vieurekaカメラのデータは来店したすべての人のデータ。その集計では、男性客が半数近く来店していることがわかった。男性客は、ポイントカードを所有していなかったり、持っていても提示しなかったりといったことが考えられるほか、配偶者のポイントカードを借りて提示しているといったことも想定される。女性に男性が同伴した形で来店するケースも多く、男性が自分のものを購入しても、女性のカードで一緒に決済している。売り場の商品構成や、プライベートブランドの商品開発、売り場のレイアウト変更、宣伝および販促手法も女性を中心としたものにしていたが、今後は女性目線に振りすぎず、男性を対象にした取り組みも行っていく必要性を感じている」とし、今後の施策に反映させる考えだ。
一方で、サツドラでは、今後、店舗におけるデータ活用の共同マーケティングを行うSATUDORA AI LABの取り組みも加速する考えを示す。
店舗で取得したデータを、SATUDORA AI LABに参加する企業に提供。これによって、仮設検証や実証実験、効果測定を行い、販売や在庫、仕入れ、マーケティングなどに生かす取り組みだ。
現在、SATUDORA AI LABには、15社のメーカーや卸企業が参加しており、店舗から収集したデータをもとにした各種検証を行っている。
あるメーカーでは、特定ジャンルの商品の売り場にVieurekaカメラを設置。欠品による販売機会損失の影響がどれぐらい出ているのかを把握。売り場の変更や在庫追加、陳列数の変更などによって、販売機会を最大化する取り組みを開始している。また、別のメーカーでは、販促物の利用状況をVieurekaカメラからデータを取得。利用状況をもとに、販促物を撤去したり、設置したりすることで、コスト改善やオペレーション改善につなげるという。
また、もう1社のメーカーは、定番展示コーナーや重点商品を展示するエンド展示との売れ行きや商品への注目度を比較。その結果をもとに、売り場変更の提案を行ったり、展示する商品の変更、陳列や展示位置の変更などにつなげるという。
「今後は、AIを進化させることにより、万引き防止、不正作業の防止といった防犯での利用、欠品補充における生産性向上や負荷軽減、勤務者のシフト作成の自動化などにも活用したい」とする。
リアル店舗の変革に、テクノロジーは不可欠な存在に
Vieurekaの導入によって、店舗分析を進めたり、仮説検証を行いやすくなったりしているのは明らかで、サツドラでは、これによって、販売増や店舗オペレーションの効率化につなげる考えだ。
「カメラの設置費用や運用費用の観点から、すべての店舗にVieurekaの導入はできないが、サツドラ月寒西1条店は、標準フォーマットと呼ばれる店舗であり、ここでの成果を他店にも展開できる。新たなテクノロジーを活用してリアル店舗を変革したい」とする。
サツドラホールディングスは、2020年5月に、新本社を建設する予定であり、同社を取り巻く環境の変化を捉えながら、「第2の創業期」と位置づけ、そのなかで、「ITを活用した生産性の向上と新たなサービスの創出をスピーディーかつフレキシブルに実施すること」を打ち出している。
大手の再編などが進むドラッグストア業界は、取り巻く環境が急速に変化するなかで、同社の成長に向けて、テクノロジーは重要な要素となる。Vieurekaは、それを支える一端となるのは間違いない。