シャープは、2024年6月27日、第130期定時株主総会および取締役会を開催し、沖津雅浩副社長の社長兼CEOへの就任を決議した。呉柏勲(ロバート・ウー)社長兼CEOは、代表取締役副会長に就く。
株主総会の冒頭、呉氏は、「2年連続での大幅な当期純損失を計上したこと、無配となったことを深くお詫びする。誠に申し訳ございません」と述べ、経営陣全員が起立し、陳謝した。
「業績不振の最大の要因は、ディスプレイデバイスにおいて、市場環境の変化への対応が遅れたことである。まずはこの課題に手を打つ。2024年度上期中にSDPの生産停止と、中小型ディスプレイ事業の固定費削減を進め、赤字の縮小に取り組む。競争力強化に努め、さらなる増収増益を目指す」と述べた。
また、「2024年5月14日に発表した中期経営方針において、ブランド事業に集中した事業構造の構築を具体化し、新たな成長モデルを発表した。その実行体制において、長年にわたりブランド事業を牽引してきた沖津氏が、社長兼CEOとして適任であるとの結論に至った」と述べた。
これを受けて、2024年度の取り組みおよび中期経営方針の進捗状況については、沖津新社長が説明した。
「ブランド事業では、特長商品や新規カテゴリー商材の創出、海外事業の強化、低収益事業の改善などに取り組み、増収増益を目指す。一方で、デバイス事業においては、ディスプレイデバイス事業は赤字の大幅縮小、エレクトロニックデバイスは減少減益の見通しである」ととしたほか、中期経営方針では、「デバイス事業のアセットライト化」、「新たな成長モデルの確立」、「本社機能の強化」の3つに重点的に取り組み、「将来の飛躍的成長を目指す」ことを改めて訴えた。
堺は生産停止、ディスプレイ方針転換の行方
SDP(堺ディスプレイプロダクツ)については、2024年度上期中の液晶パネルの生産停止に向けたプロセスを推進しており、その後はAIデータセンターへの転換を図るべく、ソフトバンクやKDDIなどとの協業を開始していることを報告。「建物だけを貸すのではなく、シャープが持っている技術などを生かせるような協業を検討しはじめているところだ。シャープにも、相手にもメリットがある形で、敷地を活用していきたいと考えている。詳細が決定したら報告をする」と語った。
SDPの停止に伴うユーティリティ関連の費用は2023年度の事業構造改革費用に計上。従業員の退職に関しては、2024年度に費用を盛り込み、再就職支援も開始している。また、液晶パネル生産の設備については、海外で利用できる企業と相談を開始しているという。
さらに、中小型ディスプレイ事業に関しては、生産能力の縮小やOLEDラインの閉鎖が間もなく完了するほか、今後も顧客動向にあわせて継続的に工場の最適化を図るとともに、遊休スペースを半導体分野などに転用すべく、様々なパートナー企業と協議を進めていることを示した。カメラモジュール事業や半導体事業は、事業の親和性が高いパートナーに譲渡する方針のもと、具体的な協議を進めていることも明らかにした。
「アセットライト化の取り組みは順調に進展しており、具体的な発表ができる段階になったら、順次、改めて説明する」(沖津氏)と述べた。
一方で、ブランド事業を強化する姿勢を強調。「いままでは、デバイス事業への投資が多かったが、今後は、ブランド事業に投資を集中させ、人に真似されるようなオンリーワン技術を持った製品を作り上げていく。浅く、広くでなく、尖った製品にはどんどん投資をする考えで進める。AQUOSは、2023年秋以降、シェアを伸ばし、日本ではほぼトップになっている。ドライヤーは2023年9月に発売以来、毎月、前年比2倍以上の販売実績がある。限られた資金のなかで開発することになり、苦労はしているが、真似される製品を作るという創業者の精神を忘れずに努力する。ブランド事業で利益を稼ぎ、財務体質の強化を図る」と述べた。
新たな取り組みとして初めて明らかにしたのが、2024年5月からスタートした「イノベーションアクセラレートプロジェクト」である。通称「I-Pro(アイプロ)」と呼ばれ、シャープが過去に多くの成果をあげた「緊急プロジェクト(緊プロ)」を進化させた新たなプロジェクトと位置づけている。CEO主管で、シャープの総力を結集した全社プロジェクトとし、現在、生成AI関連と、EVエコシステム関連の2つのプロジェクトを推進しているという。
同社では、2024年9月17日、18日の2日間、東京・有楽町の東京国際フォーラムにおいて、「TECH-DAY‘24 INNOVATION SHOWCASE」を昨年に引き続き開催。I-Proの成果をはじめとした様々な取り組みを紹介することにも触れた。
沖津新社長は、「鴻海との中長期の成長に向けて、緊密に連携を深めることで、取り組みのスピードを一段加速し、信頼の日本ブランド“ SHARP ”を確立していく。2024年度の黒字化必達に向けて邁進し、中期経営方針を着実に実行し、信頼回復に全力をあげる」と、新社長としての抱負を述べた。
シャープ再建なるか? 株主からは批判の声が相次ぐ
だが、総会では、株主からの厳しい意見が相次いだ。
「経営者として失格である」、「株主に配当がないから言っているわけではないが、赤字なのに社外取締役報酬を上げるのはおかしい」、「他社に真似されるような新しい製品がまったく出ていない」、「シャープの製品に魅力がない」、「シャープの製品は品質が悪くなっている」、「製品や事業を取捨選択する覚悟があるのか」、「過去の栄光にしがみついて、決断ができていない」、「経営陣は現場に足を運んでいるのか」、「経営陣は社員から信用されているのか」、「社内のコミュニケーションが悪くなっているのではないか」など、株主の声には容赦がなかった。
沖津新社長は、「デバイスの赤字を縮小し、ブランド事業の成長で、2024年度の黒字達成を目指す。テレビや白物家電も世界的にみれば成長している市場があり、普及率が高い成熟市場においては、付加価値の高い製品に置き換えていく。選択と集中で製品を供給し、売上げを伸ばしていく考えである。B2Bでは、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアを付加した新たな事業領域にすばやく転換していくことを目指す。スマホの国内市場は伸びないが、その技術者をXRなどの新たな製品に振り分けて、強化していくことにも取り組んでいる。スピードが重要な項目であることは認識している。社長として、速い決断を貫いていく。中期経営計画の数値目標については、アセットライト化の進捗を考慮した検討ができる時期がくれば明確にしていきたい。利益を重視した経営を徹底する」と述べた。
また、「昨年から、鴻海の劉揚偉董事長が月1回、日本を訪れ、頻繁にコミュニケーションをしている。私は、ダイレクトにメールで話ができるようになっている。鴻海はAIサーバーを生産し、EVも作っている。これらの技術を活用しながら、シャープの新たな事業の推進スピードを上げていく」とした。
なお、今回の株主総会および取締役会では、シャープの会長に、劉董事長が就任する人事も決定している。
さらに、沖津新社長は、「私は現場が大好きであり、休みの日も量販店を訪問している。先日、九州の営業拠点で若手社員10人と2時間ほど話した。そこで、本社の発信と末端の社員では温度差があることを感じた。新たな仕組みを作り、社員全員がひとつになって、中期経営計画の策定に進みたい」と述べたほか、株主の提案を受けて、「辻さん(辻晴雄元社長)、町田さん(町田勝彦元社長)にはコンタクトを取って、先輩社長からの指導を受けたい。私は、OBからの指導を受けていまに至っている。OBの意見に耳を傾けて参考にしたい。期待に応えられるように全力を尽くす」と語った。
一方、呉社長兼CEOは、「期待に応えられなかったことを反省している。2024年度の最大の目標は営業利益で100億円、最終利益で50億円の黒字を達成することである。これを必ずやり遂げる。ディスプレイデバイスの大幅な赤字を縮小するために大きな決断をした。2027年度に向けて施策を考え、プランを練っているところである。しかるべきタイミングで発表したい」とした。