パナソニックグループは、「Panasonic Group 事業会社戦略説明会 2024」を開き、くらし事業における中期戦略の進捗状況について説明をした。

パナソニックグループのなかでくらし事業を担当するパナソニック株式会社は、白物家電事業を行う「くらしアプライアンス社」、エアコンや空気清浄機をはじめとした「空質空調社」、電材やエネルギーソリューションなどの「エレクトリックワークス社」、ショーケースやCO2冷凍機、厨房システムなどの「コールドチェーンソリューションズ社」で構成。また、地域軸として中国市場を担当する「中国・北東アジア社」がある。

パナソニックの品田正弘CEOは、「2年連続で公表値を下方修正し、資本市場の期待に応えられない結果となった。エレクトリックワークス社とコールドチェーンソリューションズ社がくらし事業を牽引したが、くらしアプライアンス社と空質空調社は公表値に大きく未達となり、課題を残した」と総括。「未達となった2つの事業に共通しているのは、事業環境の悪化に加えて、競争力強化の取り組み不足や遅れが原因である」と述べた。

  • パナソニックの品田正弘CEO

    パナソニックの品田正弘CEO

くらしアプライアンス社では、国内家電市場が想定以上に総需要が悪化し、シェアも低迷。利益計画に対して100億円以上もの未達となった。海外家電も同様に総需要が悪化し、中国をはじめとした主要市場でシェア拡大が実現せず、同様に利益は未達となった。また、空質空調社では、ヒートポンプ式温水給湯暖房機やチラー、給湯などのA2W(Air to Water)に関しては、計画策定段階では総需要が拡大し、シェア漸増を想定していたが、欧州の景気停滞や補助金政策の見直しなどにより、需要が一気に低迷し、シェアも低迷。A2A(Air to Air)は、ルームエアコンや業務用空調が、為替や原材料高騰などの環境変化に対して、価格対応力が不十分であり、計画に未達。低収益で推移したという。

  • 中期2年の振り返り。品田CEO「2年連続で公表値を下方修正し、資本市場の期待に応えられない結果となった」と総括

  • 主な未達要因。事業環境の悪化もあるが、競争力強化が足らなかったとの反省がある

説明のなかでは、2022年4月に、事業会社制への移行とともに、くらし事業を担う「パナソニック株式会社」を設立した狙いについて改めて言及。「従来は、短期志向であったため、状況変化への対応に留まり、中長期視点で一貫した経営ができていないという課題があった。そのため成長性が低く、低収益を改善できなかった反省がある。パナソニック設立後は、長期視点で一貫性がある変革を積み重ね、決めたことは実行する経営を目指した。具体的には、事業の位置づけに応じた競争戦略、投資への注力、全社横断のオペレーション力の強化の3点に取り組んできた」とし、「正対する業界において、開製販(開発、製造、販売)一体で競争優位性が構築できるよう組織構造を変えた。定めた事業領域において、一定の事業ポジションを獲得できる組織構造になっている」と述べた。また、「くらし事業は、パナソニック全体のブランドイメージを牽引する立場にある」とも語った。 2024年度を最終年度とする中期計画では、エレクトリックワークス社とコールドチェーンソリューションズ社は3年連続で増益の見通しだが、くらしアプライアンス社は売上成長できずに収益性も悪化。空質空調社は売上成長したものの、収益性があげきれない着地になると予測している。

  • 今後の見通し。家電の苦戦が予測されている

品田CEOは、各事業が置かれた状況にあわせて、「競争力強化ができた事業」、「競争力強化途上の事業」、「事業構造変革を進める事業」に分類し、それぞれの進捗について説明した。

  • 「競争力強化ができた事業」、「競争力強化途上の事業」、「事業構造変革を進める事業」に分類

変わる家電の競争環境、エアコンは国内事業の再建

「競争力強化ができた事業」では、海外電材、国内電材、コールドソリーションによるCR(Commercial Refrigeration)をあげ、「中期で収益を大きく向上させることができたため、今後、さらなる高収益および収益拡大に挑戦するステージにある」と位置づけた。

海外電材は、インドやトルコ、ベトナムの重点3カ国において成長基盤を強化し、工場投資による生産能力拡大や、販路およびSCMも強化。これらの国ではすべてトップシェアを維持し、2桁の増販を実現しているという。今後は、重点3カ国での成長とともに、これらの地域からの輸出を通じて、周辺地域での売上げ拡大を目指す。

国内電材は、高いシェアを活かすとともに、DXによる営業効率化や価格政策などを通じて収益体質を向上。この3年間でEBITDA率を2.3ポイント改善したことを自己評価。今後はバリューチェーン全体でのDXの展開のほか、開製販が連携したワンストップでの顧客対応や商材開発を通じて、ソリューション事業を強化するという。

CRは、顧客ニーズに応じた差別化商品の展開により、北米および日本でのシェアが上昇。収益の改善によって、EBITDA率は3年間で3.7ポイント良化しており、今後、自然冷媒への転換需要を取り込みながら、デジタルとサービスを強化。成長フェーズにシフトするという。

  • 「競争力強化ができた事業」の進捗と今後の方針

2つめの「競争力強化途上の事業」には、A2W、国内白物、海外白物を分類した。いずれも環境変化があり、大きな収益向上には至っていないものの、中長期視点で競争力強化を進める方針に変わりはなく、次期中期計画以降の刈り取りを目指して、引き続き強化していくことになる。

A2Wでは、欧州での経済悪化や補助金スキームの変化により需要が停滞しており、成長回帰までには数年かかると予測。「2030年に向けては、カーボンニュートラルや低GWP冷媒規制、省エネニーズなどが進展し、市場が拡大するだろう。だが、市場における上位シェアは拮抗しており、空調メーカーやボイラーメーカーなどが各社の強みを活かした競争力強化に取り組んでいる。勝者はまだ決まっていないなかで、いかに早く、競争優位性を高めるかが重要である」とした。

今後は、2023年に設立した欧州事業部を核に、開製販の一気通貫体制を推進し、基盤を強化。とくにチェコ工場の生産能力増強と生産性向上を進める。また、日系初の自然冷媒A2Wの拡販や、集合住宅やライトコマーシャル向けA2Wを発売。伊Innovaに出資し、空調機器と換気、調湿など、空質機器との一体制御による空質ソリューションを創出するとともに、ドイツtado°とA2Wを組み合わせた省エネソリューションの創出を進める。

国内白物では、新販売スキーム(指定価格制度)による利益貢献が100億円、実需連動SCMによるキャッシュフローの改善額が100億円超であることを示しなからも、環境変化による減販影響が大きく出ていることを指摘。今後は、高価値ゾーンの商品ラインアップ強化と新販売スキームとの相乗効果に加えて、これまで手薄だったボリュームゾーンを強化。価格競争力を強化したモデルの展開や、流通向けプライベートブランド商品の提供を行う。

シャープや東芝ライフスタイルといった中国系資本の国内ブランドを「中国勢」と捉え、「中国勢の台頭によって、消費動向は、高価値追求の消費者と、価格重視の消費者に二極化していくだろう。付加価値の高い商品では約40%のシェアを持っており、これからも、シェアをあげていく自信がある。新販売スキームや実需連動SCMを本格展開し、構造的競争優位性を構築し、国内で圧倒的リーダーシップポジションを目指す」と述べた。

  • 「競争力強化途上の事業」における、今後の競争力強化に向けた方針

また、「お客様に使われていないにも関わらず、搭載されている機能があまりにも多く、結果として原価を高めているという反省がある。一方で、ヒットした商品はシンプルな機能を尖らせた一点突破のものが多く、そうした商品企画がお客様に支持されていることがわかる。カテゴリーによっては、品質基準が過剰であることが見えてきたものもある。戦艦大和のような商品を作るのではなく、お客様に選ばれる商品を作り、それに対価を払ってもらえる価値として認められることが、モノづくりの一丁目一番地である」とした。

だがその一方で、ボリュームゾーン向けの展開においては、日本においては積極的な投資を行う考えがないことも示す。

「ボリュームゾーンに対しては多くのリソースを集中することを意味しているわけではなく、中国やアジアで展開しているものを日本にも適用することになる。日本のローエンドモデルは、中国およびアジアで展開している松竹梅の竹のクラスになる。日本では高付加価値ゾーンを成長させていく戦略に変更はないが、ボリュームゾーンにおいても、欠品なく届ける仕組みと、お客様をサポートする仕組みを持っていることが、日本における最大の差別化要素になる」とした。

海外白物では、中国および韓国メーカーとの競争が激化すると予測。パナソニックが中国で培った力を強みに、日中亜の連携により、重点地域の成長戦略を加速する。具体的には、中国において、高付加価値と世代特化型の2軸商品戦略を推進するとともに、グローバル標準コストの徹底追求を進める。また、アジアでは、中国で磨いたコスト力や商品力を活かした共同モデルを開発し、標準部材の採用による価格競争力の強化を図る。

そして、「事業構造変革を進める事業」としては、A2Aをあげ、想定した成長や収益性が実現できていないと反省。とくに、収益性が低いルームエアコンや業務用空調の収益改善を図るとともに、空調空質融合による差別化を図り、成長につなげるという。

「ルームエアコンおよび大型空調は、オペレーション力が劣後している。だが、空質と空調を組み合わせた独自性がある空質空調融合商品やエンジニアリングは伸びている」と述べた。

ルームエアコンは、海外生産であるため、国内顧客へのリードタイムが長く、大きな経営ロスが発生。それが収益低迷の原因になっているという。

「エアコンはトップエンドの一部商品は滋賀県草津で生産しているが、ボリュームゾーンは中国で生産している。円安の為替影響を受けるとともに、4カ月程度のリードタイムがかかっている。もともと天候に左右されやすい事業であり、機会ロスや過剰在庫の処分コストが負担になっていた。さらに銅や樹脂などの原材料価格の高騰を大きく受ける事業であることも苦戦する要因となった。さらに、エアコンは一家に複数台が導入されており、まとめ買いの提案に新販売スキームが適合できていないという課題もあった」とした。

一方、業務用空調では、販売規模が小さく、先行投資をカバーできずに開発効率が悪化しているが、空質空調の融合では、強みを持つ空質技術をフックに、空調と融合させた新価値創出への取り組みを開始しており、この分野での2023年度の売上高は前年比1.4倍の約100億円になったという。また、中国では、高気密高断熱住宅であるパッシブハウス向け空質空調設備が拡大して、前年比5倍強の成長を達成。日本においては、住宅向け全館空調熱交換気システムが拡大しているという。

A2Aの今後の事業構造変革においては、ルームエアコンおよび業務用空調の収益を改善することを優先。付加価値の高い空質空調融合を着実に成長させる考えだ。

「ルームエアコンは、国内事業の再建を最優先する」とし、ボリュームゾーンとなる中級モデルの国内生産回帰への投資を進め、2025年モデルからは国内生産を開始し、リードタイムを3分の1にまで圧縮するほか、ECM改革とSCM改革によって、経営ロスの削減を進め、EBITDA率で1.3%の改善を目指す」という。また、設備ルートの拡大により、販売コストの効率化を進め、EBITDA率を2.0%改善。合計で3ポイント超の収益改善を計画している。

業務用空調は、「より環境対応した冷媒への移行時期にあり、開発コストが重くなっている」としながらも、パッケージエアコンの販売体制強化やルームエアコンとの共用設計による合理化を推進。他社との協業を含めた収益改善策を実行する。

「VRF(ビルマルチ空調)は、多様な販売ルートがあるが、ダイキンのようなスケールがない。空質と組み合わせたり、省エネ性能を高めたりといった点でオリジナリティを持つことが大切であると考えているが、すべてのラインアップを自前でやるのは難しいとも考えている。開発効率をあげ、収益性を高めながら、得意技を生かしていくことになる」と述べた。

空質空調融合では、中国のパッシブハウスや、日本のZEH化住宅の需要拡大にあわせて事業を拡大。2030年度までの年平均売上成長率で30%以上の成長を見込む。加えて、ライトコマーシャル向けにIoTサービスを立ち上げ、AIの活用による省エネサービス事業を拡大する。

なお、これまでパナソニックでは、7つの重点事業を「成長リーダー」、「安定収益」、「リーダー候補」の3つのセグメントに分類していたが、これを再編。2024年度からは、「成長領域」としてA2W、海外電材、CRの3事業、「安定収益」として国内電材、国内白物の2事業としたほか、海外白物、エネルギーソリューションを「リーダー候補」、A2Aを「事業構造変革」に位置づけた。

  • 重点7事業としていたポートフォリオを再編した

「成長領域を除き、資本コスト以下の事業については、早期の収益改善を進め、できない場合は方向づけをする」との姿勢も示した。

次期中期計画への危機感、収益性と競争力、生産性の向上

一方、2025年度からスタートする次期中期計画の収益目標の考え方についても言及した。

品田CEOは、「現状の低収益のままでは、中長期的な投資の原資を生み出すことができないという強い課題認識がある」とし、次期中期では「収益改善施策」と「事業成長・競争力強化」に取り組む。経営指標としては、EBITDAで10%、ROICでは10%以上を目指す。

  • 次期中期の収益目標。EBITDAで10%、ROICで10%以上を目指す

「収益改善施策」では、間接部門の生産性向上や本部先行投資の効率化、事業構造変革および資本コスト以下の事業の収益改善を掲げ、次期中計期間中に500億円以上の収益改善を目指す。また、「事業成長と競争力強化」では、競争力強化ができた事業のさらなる高成長と収益拡大、競争力強化途上の事業の確実な収益改善を目指す。また、複数商材の組み合わせによって、ビル全体やコンビニストア全体への提案といったように、事業会社を超えた連携を進めて、シナジーを最大化。BtoB領域におけるトータル提案の強化も重要なテーマに掲げる考えを示した。

「次期中期計画においては、強い事業の集合体の構築を実現した上で、2030年に、定めた領域でNo.1、No2ポジションを獲得し、強い事業と強い事業の掛け合わせによる真の企業価値向上により、長期的視点で変革を積み重ね、持続的成長の実現を目指す」との方針を示した。

  • 2030年に向け、強い事業×強い事業で企業価値を向上させる

現在、A2Aをはじめとして、約3分の1程度が、No.1あるいはNo2ポジションを獲得できていなかったり、資本コスト以下の事業であったりするという。売上げ規模では合計で約1兆円となり、次期中期計画では、これらの事業の方向づけを行うことになる。

また、品田CEOは、「日本の家電業界全体が縮小するなか、生産性が高い産業にすることがパナソニックの役割だと考えている。そのリーダーシップを取ることが、業界全体の安定化に寄与すると固く信じている」とも語った。