東京・銀座の数寄屋橋交差点にある「銀座ソニーパーク」を訪れたことがあるだろうか。

もともとはショールーム機能を持った「ソニービル」があった場所で、2017年3月31日に、老朽化したソニービルの地上部分を撤去。その地上1階部分と地下をリニューアルして、2018年8月9日に「公園」をコンセプトとして開園した。

  • ソニービルのあった場所に開園した「銀座ソニーパーク」。遠目にはまさに「公園」だ

多くの人が集まったり、休憩したり、点在しているカフェでお茶を飲む公園のように、銀座ソニーパークも、休憩したり、緑を楽しんだりといったことができる。世界各地から集めた特別な植物が植えられており、そのすべてを購入できるほ。人が行き来したり、休憩できるような空間にスペースを割き、椅子なども数多く用意した。パーク内にはテナントやイベントスペースを点在させる。まさに、ソニー流の公園だといっていい。

テナントには、虎屋グループの「トラヤカフェ・あんスタンド」や、ミシュラン星を獲得したMIMOSAによる飲茶スタンド「MIMOSA GINZA」、17種類のクラフトビールを楽しめる「“BEER TO GO” by SPRING VALLEY BREWERY」が出店。また、コンビニエンスストアをコンセプトにした店舗「THE CONVENI」では、オリジナルTシャツやタオルなどを、ペットボトルや缶の容器に入れて、冷蔵庫のなかに展示するなど、ユニークな販売手法が話題を集めている。

異色のパーク内イベントを次々企画

イベントの企画もユニークだ。

これまでに、「実験的プログラム」と呼ぶ大型イベントを何度か開催したが、例えば5月24日まで開催していた「eatrip city creatures」というイベントでは、銀座ソニーパークに湧き出す地下水と音楽を栄養素として、食物を育てるという企画だ。

  • パーク内に水畑が出現した「eatrip city creatures」の様子

もともと銀座エリアは、江戸時代まですぐ近くが海だった場所であり、いまでも地下水が湧き出ている。その地下水をイベントにうまく活用するという狙いもあった。今回は、その水を使って設置した水畑で食物を育てるというものだ。

加えて地下2階に自由に弾けるピアノを常設し、平日でも途切れることなく、多くの人がピアノを奏でていたのが印象的だった。なかには、プロ顔負けのテクニックでピアノを弾く人もいて、偶然その場で聴いていた人からリクエストが飛び出すこともあった。このピアノの音色には、生育する食物に音楽を聴かせるという狙いがある。

  • 食物に音楽を聴かせるためのピアノを常設

この企画の発端になったのは、フードクリエイティブチーム「eatrip」を主宰する料理人(りょうりびと)で、東京・原宿で「restaurant eatrip」を営む野村友里さんとの何気ない会話からだった。

ソニー企業 社長の永野大輔氏

銀座ソニーパークを運営するソニー企業の永野大輔社長は、「食物が育つために必要な水という資源が、銀座の街にあり、銀座ソニーパークにも湧き水がでている。この銀座の地下水に注目し、地下3階に水畑を作った。そして、来園者の声やライブ演奏の音を聞かせながら食物を育てることができるということも考えた。銀座はもともと消費する街というイメージが強いが、資源があることに着目し、今回のイベントを考えた」とする。

こうした企画の立案では、ソニーらしさを実現するために、イベントの企画をするプロジェクトチームは、「編集」作業を行うという。「編集」という表現は、銀座ソニーパーク特有の呼び方だ。ソニーらしく、遊び心を持った形に「編集」することで、ソニーパークならではのイベント企画へと進化させることになる。

「編集」によって生まれるソニーらしい発想

地下水に着目したeatrip city creaturesの内容を見ても、企画の随所に、「編集」によって生まれたソニーらしい発想が盛り込まれているといえるのがわかるだろう。

2019年7月1日から開催している「Walkman in the Park」でも、その「編集力」が生かされている。

  • ウォークマン40周年を記念した「My Story, My Walkman」を開催。年代ごとに、当時のウォークマンで、当時の音楽を聴くことができるという展示を行っていた。イベントは9月1日まで開催

同イベントでは、ウォークマンの第1号機である「TPS-L2」が、1979年7月1日に発売されてから40周年を迎えたのを記念して開催しているもので、200台以上にのぼる歴代のウォークマンを展示。クリエイターやアーティストなど、40人の著名人によるウォークマンとの思い出を集めた「My Story, My Walkman」を実施している。

  • 壁には200台以上の歴代ウォークマンがずらり

ソニーパ―クらしい「編集」は、単に回顧展にするのではなく、一緒に訪れた家族や友人、恋人と、当時の想い出とともに、会場で音楽を聴いてもらい、思い出と音楽に浸りながら、ウォークマンを楽しんでもらうという点だ。

会場では、第1号機の「TPS-L2」をはじめ、各年に発売された40台のウォークマンを、当時の音楽ととともに実際に聴くことができるようにしており、当然のことながら、TPS-L2では、カセットテープで音楽を聴き、1984年に発売されたCD対応した「D-50」ではCDで、1992年に発売されたMD対応の「MZ-1」ではMDで音楽を聴くことができる。40人の著名人のエピソードとダブらせながら、当時を振り返ってもらうというわけだ。

  • 会場では初代ウォークマンの「TPS-L2」でも実際に音楽を聴くことができる。もちろんカセットテープで

ソニーの価値は製品と「体験」

「ソニーは物語を作っている」と話す永野社長

ソニー企業の永野社長は、「ソニーの存在価値は、製品を作るだけでなく、お客様の物語を作っているという点。製品は、ソニーという会社は、人の物語をつないでく会社である。この想いをテーマにして企画を進めた」とする。

銀座ソニーパークでは、アーティストによるライブが行われる「パークライブ」を含めて、これまでに180回以上のイベントを開催した。なかには、当日まで参加アーティストが公開されず、偶然の音楽との出会いを演出するといった企画も用意された。

だが、決して成功ばかりではない。銀座ソニーパークで取り組むものは、ほとんどが初めてのものばかりである。この約1年間は試行錯誤の繰り返しであったといえる。

「実験的プログラムは、動きのあるものや動きのないもの、芸術性のあるものやスポーツ性を前面に出したものなどを用意し、それらを交互に組み合わせて開催した。音楽を聴きながら滑ることができるローラースケート場を作ったほか、印刷物の魅力を伝えながら、アートブックを紹介するアートブックフェスティバルの開催、写真を見るだけでなく、新たな発見や体験ができる写真展や、テクノロジーを活用した未来の運動会も行った」と永野社長。その企画の幅の広さには驚く。

だが、当初の大型イベントは、対象となるフロアだけの盛り上がりに留まっており、地上から地下までがつながる「垂直立体公園」を目指す銀座ソニーパークの狙いを実現しているとは言い難い部分もあったという。その反省をもとに、テクノロジーを活用した未来の運動会では、地下2階と地下3階を使用した形へと進化。さらに、PHOTO Playgroundと題した写真展では、地上から地下3階までを使用し、銀座ソニーパーク全体を使って、写真を「体験」してもらうイベントとした。

「写真を壁に掲示するだけでなく、床や天井に貼ったり、落書きができるようにしたりといった企画を盛り込みなから、銀座ソニーパーク全体を回遊してもらい、写真を見るだけに留まらない体験型の写真展を実現した」という。

現在、開催中の「Walkman in the Park」でも、公園のなかにいるように、寝そべりながら、ウォークマンで音楽を聴くことができるようにしている。

「銀座ソニーパークでしかできない企画をやりたい。ほかの会場でも開催できるような企画は提案があって断っている」というイベントへのこだわりがある。

2020年秋には、また「ソニービル」が

銀座ソニーパークは、2020年秋までとなり、そのあとには、新たなソニービルの建設が始まることになる。

「銀座ソニーパークは、2018年8月にオープンした途端に、閉園までのカウントダウンが始まっている。一日一日を大事にして、そこでどんなことに挑戦できるかということに取り組んでいる」とする。

そして、2019年8月の開園1周年企画については、「まだなにをやるかは決めていないが、なにかをやりたい」と語る。

銀座ソニーパークは、毎日、なにか新しいことを考えている新たな形の「公園」だといえる。