日本マイクロソフトは、東京・有明の東京ビッグサイトで開催された「第15回EDIX(教育総合展) 東京」の開催2日目となる2024年5月9日に、日本マイクロソフト 執行役員常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤亮太氏が、「AI時代に必要な学校教育を考える-Microsoft Education-」と題した特別講演を行った。教育分野に向けた日本マイクロソフトの基本戦略とともに、GIGAスクール構想第2期に対する方向性などについて説明した。また、教育現場におけるMicrosoft Copilotの活用事例についても紹介した。

  • 教育総合展で日本マイクロソフトが特別講演「AI時代に必要な学校教育を考える-Microsoft Education-」を行った

    教育総合展で日本マイクロソフトが特別講演「AI時代に必要な学校教育を考える-Microsoft Education-」を行った

佐藤事業本部長は、「マイクロソフトは、7年以上前から、Future-Ready Skillを理念に掲げ、これを製品開発などの根幹にしている。子供たちが、自分らしく活躍するためのスキルを身につけることを大切にしている」と前置きし、「子供たちが自分で決め、主体的に、協働的に学べる環境があること」、「教職員が働き方や教え方を選択や工夫できる環境があること」、「加速する社会の変化に適応できる環境があること」の3点を、理想の姿に位置づけた取り組みを進めていることを示した。

  • 日本マイクロソフト 執行役員常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤亮太氏

    日本マイクロソフト 執行役員常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤亮太氏

さらに、GIGAスクール構想第2期の注力エリアが、この3点に準拠した取り組みになることを強調。特別講演では、「GIGA 端末をもっと使いやすく」、「校務DXと先生の働き方改革」、「新しいテクノロジーの積極的な評価・導入」という観点から、GIGAスクール構想第2期に対する方向性を打ち出した。

  • マイクロソフトが掲げている「Future-Ready Skill」の理念

    マイクロソフトが掲げている「Future-Ready Skill」の理念

  • GIGAスクール構想の第2期で注力する3点

「GIGAスクール構想第1期において、様々な学びと気づきがあった。これを生かしていく。また、生成AIを活用すると教え方や学び方が変わるというシナリオも提案してきたい」と抱負を述べた。

「Windowsは遅い」という声に徹底的に向き合う

ひとつめの「GIGA 端末をもっと使いやすく」では、「第1期以降、Windowsは端末の管理が大変だという声を、現場から数多くもらった。OSのアップデートなどにより、Windowsが原因となって学びを止めたという指摘があり、GIGAスクール構想を支える企業の1社として本当に申し訳なく思っている。ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」と、教育関係者が数多く詰めかけた会場において、深々と頭を下げて陳謝した。特別講演の場としては、異例のことだといえる。

その上で、「しかし、日本マイクロソフトは、日本に根ざし、長年に渡って日本の教育を良くしていきたいという思いで活動をしてきた。今回の第2期に向けても、大きな改善をしている」と述べた。

  • Windowsは端末の管理は第2期に向けて「大きな改善をしている」という

初期設定においては、Windows Autopilotによって、迅速にセットアップできるようにし、「箱を開けて、電源を入れて、IDおよびパスワードを入力すれば準備が完了する。クラウドを通じて、シンプルに設定ができる。子供たちが操作しても、すぐに利用できるものになっている」とした。

年次更新や故修時の対応では、端末を業者に送って、作業を行ってもらうといったケースが多いのが現状だが、今後は、リセットボタンを2回押すだけで、格納されているデータがきれいに削除させて、次の生徒が使えるようにするという。

そして、OSのアップデートについては、更新プログラムのダウンロードサイズを最大4割削減しているほか、教育現場のネットワーク環境に最適化した実行が可能になり、授業を中断しないように、適切なタイミングで、スムーズにアップデートが行えるようにしているという。「ここは大きく生まれ変わった部分である」と強く訴求した。

さらに、「学校現場からは、『Windowsは遅い』という声をたくさんもらっている。この問題には徹底的に向き合っていく」とし、「Windows 10では、PCを開いて、スリープから復帰するまでに3秒であり、Windows 11ではさらに速くなる。だが、実際には、もっと遅い状況のPCがあることも認識している。学校現場にお邪魔して、原因調査をした結果、私たちから発信している推奨設定のメッセージが届いていなかったり、設定がうまく完了していなかったりといったケースが多いことがわかった。推奨設定の方法を全国のみなさんに届ける努力をしたい」と語った。

ここでは、マイクロソフトGIGAスクール相談窓口を設置して、極端に起動が遅いといった場合や違和感がある場合の相談に対応。GIGAスクール構想第2期に向けて、ゼロタッチデバイス管理パートナー制度を新設し、日本全国をカバーする体制を構築。資格認定を受けたパートナーは、推奨設定を提案したり、クラウド環境で運用管理を行ったりすることができるという。

加えて、「Windows端末は高価ではないかという問い合わせももらっている。現時点では、7社のOEMメーカーから、メモリ8GB、ストレージ64GBのPCを、補助金対象内に収まる価格で提供することになる」と述べた。

また、日本の教育機関に限定した新たな施策として、「Webフィルタリング機能」を無償提供することも発表した。

「日本の教育機関からの強い要望を受けて、米本社のエンジニアリングチームと議論を重ねた結果、無償で提供することを決めた」とする。子どもたちの安全なインターネット利用を支援することが可能であり、追加でフィルタリングソフトを購入する必要がなくなるため、財政的な負担を軽減できるという。

  • 「Windowsは遅い」問題に向き合う

  • 「Windows端末は高価ではないか」という声にも対応していく

  • 日本の教育機関に限定した新たな施策として、「Webフィルタリング機能」を無償提供する

佐藤事業本部長は、「教育現場からの意見をもっといただき、さらに改善をしていきたい」と呼びかけた。

校務のデジタル化は教師の働き方改革にも貢献

2つめの「校務DXと先生の働き方改革」では、日本マイクロソフトが、オフィスにおける働き方を改革に、20年以上に渡って取り組んできた経緯を説明しながら、「ここで積み上げたノウハウを濃縮して、先生の働き方改革につなげていく」と切り出した。

  • オフィスの働き方改革で積み上げてきた長年のノウハウも反映した、マイクロソフトの「先生の働き方改革」の全体像

調査によると、月45時間超の残業をしている教員は、小学校で64.5%、中学校で77.1%に達しているという。こうした課題の解決は喫緊の課題だ。

「働き方改革は手段であり、目的は子供たちからのサインを見逃さないように、シグナルを可視化し、分析することによって、意思決定の精度を高めること、先生個人やチームが役割分担をしながら、時間や場所に捉われない対応を行い、適切で迅速な行動をとれるようにすることである。これを実現するには、データをどう連携するのか、データベースはどこに置くか、分析するツールはなにを使うのか、いつでも、どこでも、誰とでも使える環境をどう構築するのか、そしてセキュリティをどうするのかといった課題を解決しなくてはならない」

  • 「校務DX」では、混在する端末、システムの管理運用や、セキュリティ強化がポイントになるという

GIGAスクール構想第2期では、都道府県単位での共同調達が前提となっており、異なるOSの学習端末が混在することになる。さらに、Microsoft 365やGoogle Workspaceなど、異なる学習システムも混在することになる。

「校務DXにおいて重要なのは、様々な端末、様々なシステムが混在しているなかで、複数のデータソースを横断した分析を行い、いかに正しい考察を行い、意思決定の速度と精度を高め、利便性を高めながら、セキュリティを強化する点にある。管理と運用、データの利活用、強固なセキュリティを実現するには、一人ひとつのIDに集約し、権限とアクセスを緻密に管理する必要がある。だが、テクノロジーは一番大切なものではない。最も大事なことに、最も多くの時間を使うために支援をしていくことである。そして、教員も幸せにならないといけない」と述べた。

ここでは、文部科学省による教育情報セキュリティポリシーに定義されている「ゼロトラストセキュリティ」についても言及した。

「日本マイクロソフトでは、このガイドラインを満たすセキュリティの提供が可能である。業界最高水準のセキュリティレベルを実現できる」という。

また、校務DXやゼロトラストセキュリティに関する事例も紹介した。

文部科学省では、2022年1月に、全職員が利用するシステムを中央省庁として初めてフルクラウド化。ゼロトラストセキュリティ対策の実現による働き方改革をすすめてきたほか、鴻巣市教育委員会では、システムのフルクラウド化と、3層ネットワーク分離の撤廃、端末1台化、ゼロトラストセキュリティ対策を同時に実現して、校務の見直しを推進。秋田県教育委員会では、校務のデジタル化により教職員の働き方改革を進めることで、生徒に向き合う時間を拡大したという。渋谷区教育委員会では、子どもの興味、関心、悩みをマイクロソフトクラウドで分析して、ダッシュボードを内製化。子供に対する細やかな支援を実現しているという。

  • 文部科学省の事例

  • 鴻巣市教育委員会の事例

  • 秋田県教育委員会の事例

  • 渋谷区教育委員会の事例

また、日本マイクロソフトでは、約4800の学習コンテンツを無償で公開しているAIラーニングハブの提供に加え、500以上の授業案が学べる教員向け教材ポータルも提供し、教員をサポートしており、教材の提供の点でも教員を支援している。

学校における「AI」活用のターニングポイント

最後の「新しいテクノロジーの積極的な評価・導入」では、「生成AIは、先生が、最も大事なことに、最も多くの時間を使うことにつながるテクノロジーである」と述べ、学校現場での生成AI活用における日本マイクロソフトの取り組みについて説明した。

  • テクノロジーは「最も大事なことに、最も多くの時間を使うため」の手段

現在、FAXを使用している学校は95%以上であるのに対して、生成AIを校務で活用している割合は約25%に留まっているという。

Microsoft Copilotとの対話を通じて、重要なメールを抽出して返信用メールを作ったり、クラスだよりの素案作成や清書、保護者向け質問フォームの準備が可能になったりするほか、授業でのチャットボットの利用、英語の音読などにも利用できる事例を示した。

「作業に対してアドバイスをしてくれたり、アイデアを提案してくれたりする。Copilot(副操縦士)として、先生の仕事をサポートしてくれる。また、子供の学びもサポートしてくれる。生成AIとのやり取りを通じて、ゲーム感覚で何度も繰り返して質問をし、課題の解決に挑戦する子供もいる」という。

  • AIを使った音読練習の事例

ある教育委員会では、校務で使用するシステムなどのマニュアルに対応したヘルプデスクを生成AIによって内製し、教職員の業務改善を図っているほか、大阪市教育委員会は、国語の俳句の授業で、生徒が作成した俳句をよりよいものに作り替えるための活動に生成AIを利用しているという。

また、「授業で生成AIを利用すると、すぐに答えを言ってしまうのではないかという心配がある。だが、答えを直接教えないという設定(プロンプトチューニング)が可能である。子供の質問に対して、ヒントをひとつずつ出して、会話を続け、興味を深堀りしながら、子供と生成AIが一緒になって問題を解くことができる」という。さらに、「マイクロソフトはここで蓄積されたデータを利用することはないが、先生はそれぞれの生徒が、どこまで興味を示し、どこまで解決できているのかが理解できる」と述べた。

  • プロンプトチューニングによる「答えをすぐ教えないAI」

加えて、教育版マインクラフトでは、「責任あるAI」原則と、コーディングを学べる「GENERATION AI」を提供していることも紹介した。

「Microsoft Copilotでは、著作権やAI倫理の課題、個人情報やセキュリティリスクといった不安要素にも対応できる。Copilot Copyright Commitmentにより、Microsoft Copilotで作成したコンテンツの著作権を守ること、子供たちが自分自身や相手を傷つける方法の検索や、爆弾の作り方などの問いに対しても適切な対応が取れるようになっている」とし、教育現場での利用に配慮した生成AIであることを強調した。

  • 責任あるAIの原則とコーディングを学べるマインクラフト

最後に、佐藤事業本部長は、「GIGAスクール構想第2期においては、単に端末を配るということではなく、卒業しても活用できるスキルを獲得すること、校務のDXを推進することが重要になる。文部科学省が打ち出した『教育DX に係るKPI の方向性』を受けて、日本マイクロソフトが貢献できる部分はまだ多い。子供たちの未来を見据えた活動をしていきたい」と締めくくった。

  • 文部科学省が打ち出した、教育DXに係るKPIの方向性

GIGAスクール構想第1期では、Windows PCのシェアは30.4%となり、国内PC市場全体に比べると大幅に低いシェアに留まった。日本マイクロソフトにとって、GIGAスクール構想第2期で、Windows PCのシェアを拡大することは、教育市場を「苦手」分野にしないかどうかの分水嶺になる。