東芝は、新たな中期経営計画「東芝再興計画」を発表した。

2026年度に、売上高3兆7500億円、営業利益3800億円、ROS(営業利益率)10%、フリーキャッシュフローで2000億円、固定費率5%削減といった経営指標を掲げたほか、最大4000人規模の人員削減や本社機能の川崎への集約、分社化の廃止などを盛り込んだ。「社会に求められる東芝のリスタート」と位置づけている。

  • 東芝 社長執行役員 CEOの島田太郎氏

    東芝 社長執行役員 CEOの島田太郎氏

進むべき「技術のダイバーシティ」と「2つの壁の打開」

東芝の島田太郎社長 CEOは、「東芝グループが今後進むべき方向を示す中期経営計画になる。何度も議論を重ね、蓋然性が高い計画になっている。それぞれが役割をしっかりと果たせば必ず達成できる」とし、「東芝は、2025年に創業150周年を迎える。次の100年に向けて、かつてないほどの改革に取り組み、社会に求められる企業に変身しなくてはならない。東芝が、世の中にないものを生み出し、その変わりがないからこそ、お客様に支持され、大きな利益をあげ、それを将来に再投資することができる企業を目指す。そのために必要なのが『技術のダイバーシティ』である」と述べた。

技術のダイバーシティついては、東芝が持つ発電・送配電、社会インフラ、半導体、ITソリューションという多岐に渡る技術を、適切な形でつなげて提供することが差別化になるほか、パートナーとの連携が社会課題の解決には重要だとした。

さらに、「東芝の経営理念である『人と、地球の、明日のために。』のもと、これらの改革の断行を通じて、早期にROS10%達成し、必ず成長軌道に乗せる。その道のりは平坦なものではないが、私が、その先頭に立ちリーダーシップを発揮する」と、経営指標の達成に意欲をみせた。

今回の新中期経営計画の策定において、島田社長 CEOは、「東芝には内部硬直性と外部硬直性という2つの壁があり、真の力が発揮できず、新規事業が立ち上がらないといった課題があった」とし、「新たな中期経営計画は、これらを克服し、光り輝く東芝の再興を実現するために、渾身の力を込めたプランとしてまとめている」と自信をみせる。

ひとつめの「内部硬直性の打開」では、2025年度上期中に、東京・浜松町の本社機能を、事業部門や研究開発部門が入居している神奈川県川崎市のスマートコミュニティセンターに移転、集約。役員、スタッフ部門、事業部門、研究開発部門が一体となって事業を推進する体制を確立する。

また、東芝エネルギーシステムズ、東芝インフラシステムズ、東芝デバイス&ストレージ、東芝デジタルソリューションズの4社を、東芝に統合。顧客や市場環境の変化に柔軟に対応する体制に移行するとともに、資源を成長領域に集中的に配置する。

さらに、研究開発部門においては、未来が思い描ける領域に、素早く優秀な人材を配置できるように運営体制を柔軟にするとの考えも示した。

もうひとつの「外部硬直性の打開」では、カーボニュートラルやセキュリティ強化といった地球規模の課題の解決に貢献するために、パートナー企業とグローバルエコシステムを組成し、東芝が培ってきた製品、ソリューションと組み合わせて、デジタルを生かしながら、共創に取り組むと述べた。

さらに、島田社長 CEOは、「上場廃止以前の状態は、多くの株主から、たくさんの意見をもらったが、その意見が合わず、企業側が提案しても否決されることが繰り返された。透明性を持って提出した資料についても疑念を持たれることもあった。そのため、数カ月ごとに方向性を転換することになり、『経営の混乱』と言われる状態に陥っていた。上場を廃止したことで、株主は1社になり、その株主がインサイダーとして同じものを見て、意見をもらえるようになっている。信頼感を持って、お互いが物事を語れるようになっている」とも述べた。

新たな中期経営計画では成長投資にも取り組む

新中期経営計画の具体的な内容は、東芝の池谷光司副社長が説明した。

  • 東芝 副社長執行役員の池谷光司氏

池谷副社長は、「非上場化によって、将来に向けて改革に集中しやすくなった。いまこそ、東芝の構造的課題に向きあい、本来東芝があるべき姿に立ち戻るためのチャンスである。東芝のあるべき姿は、世の中の変化や社会課題に技術の力で応えることである。GXやDXで社会に貢献していく会社を目指す」との基本方針を示した。

新中期経営計画では、「経営インフラの整備」、「筋肉質化による損益分岐点の引き下げ」、「成長戦略への投資」の3点に取り組むことになる。

その上で、「稼ぐ力を強化し、リソースを、人、事業、技術開発に十分に投下していくことが大切である。重要なマイルストーンのひとつが、2026年度にROS10%達成を目指し、全社の収益性を底上げしていくことになる。目標を達成することで、従業員にとって、働きがいのある会社へと生まれ変わり、価値創造の主役である現場とともに全力で中期経営計画に取り組む」と述べた。

また、池谷副社長は、2015年度から現在までの8年間を、「不正会計後の混乱期」と称し、時間や資金の制約が大きく、経営の自由度が制限されていたことを指摘。2023年度を最終年度としたこれまでの中期経営計画では、営業利益で3500億円の計画を打ち出したが、実績値は400億円と大きく下振れしたことにも触れた。

「前中期経営計画では、蓋然性の低いアグレッシブな計画策定が行われ、高リスクな案件獲得による引当金の増加、拡大前提で高止まりした固定費によって、計画未達が発生した。計画と実績の乖離のうち、約半分が売上・限界利益率の差となっている。前中期経営計画の結果を真摯に受け止め、同じことを繰り返さないように対策を講じることが大切であると感じている」とした。

  • 新中期経営計画では、「経営インフラの整備」、「筋肉質化による損益分岐点の引き下げ」、「成長戦略への投資」の3点に取り組む

  • 「不正会計後の混乱期」だったというこれまでの計画を振り返る

一方で、2024年度から2026年度までの「東芝再興計画」の期間では、初年度に固定費の削減、損益分岐点を引き下げることに集中し、稼ぐ力を強化。これを「屈むフェーズ」と位置づけた。そして、2年目以降は、初年度で生み出した資源を強化分野に投資するとともに、限界利益率を高める「伸ばすフェーズ」になるとした。

池谷副社長が語るように、今回の新中期経営計画では、「蓋然性」を重視。「強気な売上計画に依存せず、具体的な施策による裏付けがある蓋然性が高い計画を策定している」と繰り返して強調する。

たとえば、2023年度の営業利益は399億円であり、営業利益率は1.2%に留まる。これを2026年度に10.1%にまで高める計画は、蓋然性の点では課題を感じるが、引当金などを除くと2023年度の営業利益は1484億円となり、営業利益率は4.5%にまで高まる。ここを「発射台」とすれば、高い目標であることには違いないが、10%の営業利益率が視野に入るというわけだ。

東芝は何で稼ぐのか、川崎集約は「現場に寄り添う」意図も

さらに、固定費の抜本的な見直しを行い、損失管理の高度化も進める考えも示している。

今回の中期経営計画の策定とともに、経営戦略をピラミッド構造で表現し、「経営理念」を最上位階層に置き、その下に、「全体戦略」、「事業戦略」、「経営インフラ」の3階層で構成してみせた。

  • 「経営理念」を最上位階層に、その下に「全体戦略」、「事業戦略」、「経営インフラ」の3階層を構成

上位にある「全体戦略」では、「筋肉質化」に取り組むことになる。

池谷副社長は、「高止まりしている固定費を下げ、損益分岐点を引き下げ、収益性を高め、生み出したキャッシュを将来の成長に向けた投資へ振り向ける。これによって、競争優位性と事業環境の変化への耐性が増すとともに、成長分野を強化できる。事業基盤を強化することで、営業利益率10%の達成と、中長期的な成長を実現する」とした。

また、2023年12月にスタートした新経営体制のもとで、重要な戦略テーマを選定し、コーポレートと事業部との協働によるグループ一体での推進体制を確立。テーマごとに分科会を設置して検討すすめているという。

  • 「筋肉質化」では、固定費を下げ、損益分岐点を引き下げる

  • コーポレートと事業部との協働によるグループ一体での推進体制を狙う

さらに、「One東芝」に向けて、本社のスリム化と、川崎への拠点集約による、「現場に寄り添う本社」を実現。あるべき本社機能を再定義して、組織を最適化。必要性が低下した機能や重複機能を整理して、抜本的なスリム化を推進することになる。具体的には、2024年度中に、スタッフ組織数を2割削減する計画だ。上場廃止や4社の統合などにより、スリム化ができる領域が明確化しているともいえる。

また、経営陣が現場を回り、タウンホールミーティングを実施することで、社内の声を吸い上げて、経営に反映させていく考えも示した。

  • 川崎への拠点集約で、「One東芝」に向けた取り組みも加速させる

なお、最大4000人となる早期退職優遇制度および再就職支援については、東芝グループの国内従業員のうち、50歳以上が対象になり、2024年11月までの退職を想定。特別加算金は最大で32カ月分とする。スタッフ部門を中心とした重複業務の見直しを行いながら、人員体制のスリム化を進めることになる。

「苦渋の決断ではあるが、再成長に向けた体質改善を図るには必要不可欠なものである。人員体制のスリム化とともに、強化事業については、グループ内外のリソースから必要な人員を再配置して増強する。業務プロセス改革や組織構造改革による効率化を図り、事業影響を極小化する」という。

  • 波紋をひろげている大規模リストラ。「苦渋の決断ではあるが、再成長に向けた体質改善を図るには必要不可欠なもの」と説明

また、人材投資では、「将来の東芝を支える人材のエンゲージメントを向上させていく」とし、「従業員の貢献が報われる人事処遇制度」、「年齢、勤続、国内海外によらない人材の抜擢」、「従業員の能力伸長、グローバル人材の育成を含めた教育投資の拡大」、「新卒採用枠拡大による人員構成の若返り」を進めるという。

  • 人材投資として、人事処遇制度は再構築していくとした

一方で、社内業務の抜本的な効率化や改革をトップダウンで推進。会議改革では、会議の簡略化や事前会議の削減、意思決定に関わる最少人数での開催、資料枚数の半減の徹底を実施。業務改革では生成AIの活用を促進し、現在、400人を対象に、生成AIを活用して、会議メモ作成や資料作成、情報検索などの用途を通じた業界効率化に挑戦しているという。生成AIの活用では、1人あたり月間5.6時間の業務効率化を確認できたという。Microsoft Copilotの利用申請者は5000人を超えており、まずは1万人が利用することを目標にし、これを業務改革の起爆剤に位置づけるという。

中期経営計画では、各事業の位置づけを5つに分類している。

  • 中期経営計画では、各事業の位置づけを5つに分類。各事業のポートフォリオ上の位置づけ

  • 中期経営計画で、各事業の位置づけを5つに分類。新中計でこれらのフロポテンシャルを発揮できるようにし、平均ROS10%を目指す

強化分野としては、成長市場において、リーダーシップのポジショニングにある事業群の「成長事業」と、成熟市場だが、市場ポジショニングが優位な事業群である「収益拡大事業」の2つを定義。改善/課題分野としてき、低採算にある事業群である「変革事業」、特定プロジェクトにより、収益が悪化している事業群の「PJ損失対策事業」の2つを設定。さらに、新規分野として立ち上げ中の事業群として「新規分野」を設定した。

強化分野には、発電システム、送変電・配電、公共インフラ、半導体、デジタルが含まれ、改善/課題分野には、鉄道・産業システム、リテール&プリンティング、昇降機・照明、HDDが含まれている。

また、成長事業に対しては、フルポテンシャルを発揮すべく、全社のリソースを集中的に投下し、売上げおよびシェアの拡大を目指すほか、収益拡大事業は、固定費や設備投資を適切にマネジメントして、収益を最大化。10%以上のROSを目指し、達安定的な収益基盤を確立する。変革事業は、収益悪化の構造的な要因を見極め、要因にあわせた対応により収益性を改善。5%以上のROS達成を目指す。PJ損失対策事業は、構造的要因を捉えて、本社と事業が一体となって対策を進める。新規分野では、ゲート管理の仕組みを徹底し、客観的に投資や撤退の判断を決定するという。

「エネルギーやインフラ領域は、東芝の安定基盤を担っている。市場成長は限定的だが、DXを推進することで高収益化を図り、再成長させる。デバイス領域は市場成長が期待されるが収益性に課題がある。中期経営計画をゴールにするのではなく、各事業がグローバルベストプラクティス水準を意識し、フルポテンシャルを発揮し、さらなる成長を目指すことを目指している」と述べた。

2つめの「事業戦略」については、領域別の事業課題を捉え、市場や社会環境の変化を捉えた戦略を推進するという。

具体的には、エネルギー領域では、脱炭素化や生産量の自由化、エネルギー資源の分散化により、事業機会が拡大しており、他社との連携や生産能力の増強により、利益成長を目指すという。また、インフラ領域では、既存顧客基盤をベースに、市場変化を捉え、新たな顧客やニーズに対応するソリーションを提供し、利益を拡大。デバイス領域においては、パワー半導体やニアラインストレージで期待される市場成長を取り込むとともに、売価の見直しや固定削減により、収益構造の抜本的見直しを進める。また、ビル・リテール・電池領域については、エレベータでは国内でのコスト競争力の強化と、保守契約率の向上により、稼ぐ力を強化。リテールや電池では市場変化への対応により、収益力を強化する。すべての領域を横断するデジタルソリューションは、官民でのIT投資の拡大が事業機会につながるとし、この分野での収益拡大に取り組むことになる。

  • 「事業戦略」については、領域別の事業課題を捉え、市場や社会環境の変化を捉えた戦略を推進する

3つめの「経営インフラ」の再構築では、一部の案件で大きな損失が発生し、多額の引当金を計上するといった構造的課題を解消することが重要であるとしながら、「多数の事業を抱えるコングロマリッド企業である東芝にとって、経営インフラは非常に重要である。経営インフラを再構築することで、東芝が真のチャレンジに取り組めることにつながる」と位置づけ、事業部別KPIの設定をはじめとする各種経営インフラの整備を行う一方、事業部門とコーポレートが同じ目線で協働しながら事業を推進し、業務効率化につなげていくという。

新中期経営計画の実行を担保するための経営インフラとして、「KPI」、「モニタリング」、「管理会計」、「プロジェクト管理」の4点をあげた。

KPIでは、事業部との徹底的な議論により、事業特性や課題を反映した納得度の高いKPIを設定。モニタリングでは、重要KPIを月次でモニタリングし、目標と乖離がある事業部は迅速に対策の検討を行うという。管理会計では、経営の意思決定に必要な会計データを一気通貫で可視化し、案件収支を見える化。コストの管理粒度を引き上げる。プロジェクト管理においては、高難度プロジェクトの管理体制や意思決定構造を見直し、本社による案件収支管理の徹底することで、損失を最小化する。

  • 新中期経営計画の実行を担保するための「経営インフラ」として、「KPI」、「モニタリング」、「管理会計」、「プロジェクト管理」の4点をあげた

再び革新を先導できるのか、鍵を握りそうな期待の独自技術

一方、島田社長 CEOは、5年以内に社会貢献が期待される東芝独自の技術として、手のひらサイズで世界最高の物体追跡精度を持つ「LiDAR」、専門文書を高精度に理解して、迅速で効率的なインフラ保全に貢献することを検証した「文書理解AI」、組み込み量子インスパイアード計算機により、車載向け物体検知リアルタイム動作を実証した「シミュレーテッド分岐マシン」、カーボンニュートラルに欠かせない「PEM水電解」、ニオブ原料を用いた高容量ハイパワー二次電池の負極に利用する「ニオブチタン酸化物(NTO)負極」、プラント外へのCO2排出量を従来比で10分の1にまで低減する「CO2分離回収」をあげ、「先進的なフィジカル技術とデジタル技術の融合により社会課題を解決する」との考えを示した。

  • 5年以内に社会貢献が期待される東芝独自の技術として紹介されたもの

また、「東芝は、カーボンニュートラルやカーボンネガティブに向けた様々な技術を有しており、これまでに開発、実装してきたサービスを、ひとつのループとて機能させるべく、顧客やパートナーと連携をしていくことになる。この分野においては、東芝が多様な技術やステークホルダーをまとめるリーダー触媒としての役割を果たしたい」と述べた。

さらに、デジタル技術を用いたDE(Digital Evolution)では、この数年で多くの実績を積み重ねてきたことを強調。この実績をもとにDX(Digital Transformation)の展開を強化し、ソフトウェアデファインドの取り組みを重視していることも示した。「人や産業のフィジカルデータを横断的に活用し、価値を創造するサイバーフィジカルシステムでの実績が増えている。デジタル化の進展は業界ごとに差があるが、東芝の主要市場であるエネルギー業界では、本格的にデジタル化が進む段階に入ってきた。エネルギー・インフラの顧客企業と緊密に連携しながら、成長戦略を推進していく」と語った。

  • 地球規模の課題解決にソリューションを提供する企業を描く

  • デジタル技術を強みに、エネルギー・インフラの顧客企業と緊密に連携しながら、成長戦略を推進していくした

一方、東芝が発表した2023年度(2023年4月~2024年3月)の業績は、売上高が前年比2%減の3兆2858億円、営業利益が同64%減の399億円、EBITDAが同20%減の1800億円、税引前利益がマイナス203億円の赤字に転落。当期純利益は前年度の1266億円の黒字から、マイナス748億円の赤字となった。

池谷副社長は、「発電システムや送変電・配電等、公共インフラの業績が好調に推移したことにより、引当金考慮前の営業利益率は、通期で4.5%を達成し、東芝の底堅い収益力を示した」と総括した。

  • 東芝の2023年度(2023年4月~2024年3月)の業績

売上高では、リテール&プリンティング、インフラシステムなどか規模が増加したものの、東芝キヤリアの売却影響などにより減収。営業利益では、引当金などを計上したため、全体の営業損益は悪化した。具体的には、HDDや発電システムでの製品保証引当金などで368億円、PJ案件コスト精査等などで308億円、プリンティング事業のれん減損で115億円のマイナス影響があった。また、当期純利益は、キオクシアの持分法損益としてマイナス873億円を計上している。受注高は大型案件受注に伴い、前年比8%増となっている。

2024年度の業績見通しについては開示していない。