Canon EXPO 2023が、2023年10月19日、20日の2日間、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜ノースで開催された。
「Future Focused.Always(未来の可能性を、ひろげ続けよう)」をテーマに、キヤノングループが持つ製品や技術、ソリューションが一堂に展示された。
Canon EXPOは、同社の5カ年計画である「グローバル優良企業グループ構想」の最終年度にあわせて、2000年からスタート。5年に1回のペースで開催されてきたが、2020年は新型コロナウイルスの影響で延期。今回は8年ぶりの開催となった。現在、2025年度を最終年度とする「グローバル優良企業グループ構想フェーズVI」を推進しているところだ。
キヤノン 代表取締役会長兼社長 CEOの御手洗冨士夫氏は、「開催が3年間伸びたが、この3年間で、新たなものを加えることができ、かえってよかったと思っている。たとえば、キヤノンは、カメラと事務機器のメーカーであったが、両方の成長率が鈍ったいま、これまでの経営リソースを生かしながら、新規性があり、成長力があるものを事業に加えた。また、メディカル分野は成長力を持つポートフォリオへと入れ替えた。キヤノンの新たな姿を見てもらいたい」と、Canon EXPO 2023の狙いを語った。
展示会場は、4つの産業別グループによる176の展示が行われた「製品展示」、ユースシーンの切り口から21テーマでの展示が行われた「ユースシーン展示」、基盤技術区分ごとに35テーマの展示で構成した「技術展示」の3つのゾーンを用意。グリーンプラットフォームやテクノロジーサンプルの展示も行った。さらに、会期中には、20を超えるセミナーを開催された。展示会場の様子を、写真を中心にレポートしよう。
製品展示は「コアコンピタンスの丘」と呼び、4つの産業別グループごとに最新製品を紹介していた。
このエリアで注目された展示が、ナノインプリントである。ハンコのようにパターンを押し付け、回路を形成する新たなプロセスを採用したもので、従来の露光技術に代わる新技術と位置づけられている。具体的には、ディスペンサーを用いて液滴化したレジストをウエハー上に吐出。ウエハーにマスク上のパターンを押し当てて、レジストを充填。マスクとウエハーを位置あわせし、UV光でレジストを硬化してパターンを形成。硬化したレジストをウエハー上に残し、マスクを引き上げて完成させるという仕組みだ。従来技術に比べて、製造固定がシンプルで、消費電力が圧倒的に小さく、コスト削減も可能になることから、キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長 CEOも、「先端半導体の生産において、ゲームチェンジャーになる可能性を秘めている」と位置づけている。会場には、ナノインプリント半導体製造装置「FPA-1200NZ2C」を展示。その大きさには圧倒された。
-
ドローンを活用した撮影にも最適化した映像システムを提案
-
映像管理ソフトウェア「Milestone XProtect」。1万3000種類以上のカメラやIoTデバイスに対応している。キヤノンはイメージング分野でソフトウェアに積極的な投資を行っている
-
プリンティングでは、白インクも活用できる産業印刷向け水性インクジェットモデル「LabelStream LS200」による印刷を実演
-
商業印刷向けインクジェットデジタルプレス「varioPRINT iX1700」。薄膜のインク層を形成することで光の内部散乱を抑制し、発色効率を高めた印刷ができる
-
大判プリンタ「GP-4000」。新開発の蛍光ピンクインクが利用でき、ネオンのような発光感の表現が可能になるという
-
参考展示していた新世代カラー複合機。社内文書だけでなく、チラシや小冊子といった高品位な印刷も可能になる1台2役を実現する
-
参考展示していた8インチラベルプリンタ。新インクとインク吐出技術で高画質を実現する。4色インクジェット方式で1200dpiの出力が可能
-
こちらも参考展示の4インチラベルプリンタ。高速搬送による高速印刷が可能で、1枚目の出力までの時間も大幅に短縮する
ユースシーン展示は「ソリューションの広場」とし、キヤノンの製品やサービスが、実際の社会や暮らしへの貢献を、具体的な利活用シーンを通じて紹介。キヤノンが描く産業、社会、暮らしのあり方をみせた。
来場者の関心を集めていたのが、SPAD(Single Photon Avalanche Diode)センサー搭載カメラ「MS-500」である。光の量を測るのではなく、画素に入ってきた光の粒子(光子=フォトン)を数える「フォトンカウンティング」と呼ぶ仕組みを採用。暗闇のなかでも、明るい場所で撮影したかのように、対象物の動きを捉えることができる。夜間でも数km先の被写体を、カラーで鮮明に捉えることができることから、重要施設における夜間の監視や遠方監視などの用途が想定されている。御手洗会長兼社長 CEOも注目している技術のひとつで、「SPADは、高速で動くものを捉えることができる特徴もある。自動運転や医療用画像診断装置など、幅広い分野への応用ができ、安心、安全、快適に過ごせる社会の実現を幅広く支えることができる」と述べている。
一方、キヤノン独自のSCM(Super Color Management)技術の紹介にも力を入れていた。再現したい色に近づけるマッピング技術と、色再現範囲に応じて最適化した処理を行う技術により、異なる印刷方式のプリンタと、異なる用紙の組み合わせでも、再現したい色を近づけて印刷できるというものだ。展示では、大判インクジェットプリンタ、家庭用インクジェットプリンタ、写真用インクジェットプリンタ、オフィス向け複合機といった異なるプリンタと、コート紙、ファインアート紙、光沢紙、マット紙、普通紙といった異なる記録用紙との組み合わせでも同じイメージで印刷できる様子が示されていた。
最初の写真が照明をあてた模型を撮影したところ、次の写真が肉眼では見えない真っ暗ななかでの模型を撮影したところ。若干のノイズはあるが、ほとんど差がない。肉眼では認識が困難な0.001luxの低照度環境下でも、カラーで鮮明なフルHD撮影が可能だ
-
EOS VR SYSTEMを利用した8K VR映像コンテンツを体験するコーナーも用意。ゴスペラーズによるライブ映像を楽しむことができた。将来はエンターテイメントだけでなく、観光や教育、家族の記念シーンなどにも活用できるという
-
EOS VR SYSTEMは、EOS Rシリーズに、VR専用レンズを装着。180度3DVR撮影を実現する
-
スマート農業の展示では、農業モニタリングシステム「GM-1」により、カメラを利用した茎数診断、葉色診断、草丈診断などが可能になり、生育状況をデータ化できる
-
スマホで撮影した映像とAIを組み合わせて、イチゴの収量を早めに予測し、出荷計画の策定を支援。食品ロスを防ぐことができる
-
オフィスでのセキュアな印刷環境と同じ環境を在宅勤務でも実現。家庭でプリントアウトする際も認証を行い、厳密な機密情報管理が行えるようにしている
-
複合機に搭載するリモートセンシング用エッジICを参考展示。センサー値の異常を検知して部品の故障時期を通知したり、最適な部品管理につなげたりする。2024年以降の複合機に搭載する予定だ
-
異なる印刷方式のプリンタと、異なる用紙の組み合わせでも、再現したい色を近づけて印刷できるキヤノン独自のSCM(Super Color Management)技術の展示
-
ひとつの作品をもとに、AIを利用して様々な作品へと横展開できるソフトウェアも紹介していた
-
MREALはクルマのバーチャルショールームで利用されているほか、製造業、建設業、エンターテイメント、医療などでも利用される
-
MREALに利用するヘッドマウントディスプレイ「MREAL Display」と指輪型デバイスを展示
技術展示は「ホリスティックの森」として展示会場の中央部分に設置した。キヤノンのコアとなる「イメージング技術」とともに、独自のシミュレーション技術なども活用した「製品を生み出す技術」を連携。一本一本の木が集まって森を形成するように、数々の技術の融合によって製品が生まれることを表現し、その根幹となるコア技術を紹介した。キヤノンの御手洗会長兼社長 CEOは、「先端技術の活用はキヤノンにとって、最も重要な生命線である」と語るが、それを示すコーナーとなった。
ここでは、最新のプリンティング技術として、ノズル循環ヘッドを紹介していた。
ノズル循環ヘッドは、2024年4月に発売予定の商業印刷向けB3サイズ対応インクジェットデジタルプレス「varioPRINT iX1700」に初めて搭載される技術だ。
約8000ノズルで有するヘッドチップを、約400mm幅で配したマルチチップ精密配列技術によって、17個のヘッドチップを高精度に並べ、2400×1200dpiの高解像度を実現している。
このプリントヘッドにインク循環機構を搭載して、ノズル内のインク粘度を最適化している。ディープシリコンエッチング技術により、極端なアスペクト比での流路深堀を実現することで、高密度に配置された全ノズルの先端までインクを循環し、乾燥を防ぐほか、多層配線技術や吐出検知技術により、高粘度インクを安定吐出することができる。
また、薄膜センサーをヒーターに近接配置し、数μ秒の温度変化も検出可能であり、インクに吐出不具合があると、リアルタイムで認識し、別のノズルが補完。スジなどを目立たなくし、不具合をリアルタイムで解決することで、商業印刷で求められる水準で、印刷の安定性を実現するという。これは、キヤノン独自の仕組みで、高密度にノズルを配列できるため、補完用のノズルを用意できるという仕組みがベースになっている。
-
商業印刷向けインクジェットプリンタに搭載しているノズル循環ヘッド。極端なアスペクト比での流路深堀を実現し、高密度で全ノズルの先端までインクを循環し、乾燥を防ぐ。多層配線技術や吐出検知技術により、高粘度インクを安定吐出する
-
ヘッドチップの模型も展示。これを17個並べることになる
-
クローズドヒーターの模型。過熱したベルトで用紙を挟むことで、高効率に定着させる。凹凸がある紙にもしっかりと定着し、用紙の風合いを生かした高品位の印刷を実現する
-
光の波長よりも小さいくさび状の構造物をガラスレンズ上に形成することで反射を防止するSWC。大径、大開角レンズにも使用され、ゴースト低減に威力を発揮している
-
SWSはレーザープリンタのトーリックレンズにも採用され、33%の小型化を実現した
-
ナノインプリントなどの微細加工技術を活用し、レンズ機能を持たせたMETALENS。レンズ枚数を削減したり、大幅な薄型化ができる、まだ実用化には課題があるというが、大きな可能性を秘めた技術であることを訴求した
-
トラッキング型ラマン分光によるプラスチック選別技術。課題であった黒色プラスチックの選別を実現した
-
キヤノンでは、独自の材料配合と製法により、難燃性や強度を高めた新再生プラスチックに取り組んでおり、それを活用した複合機のパーツを参考展示。今後、製品に採用される
-
2021年に買収したレドレン・テクノロジーズとともに開発しているフォトンカウンティングX線検出器のウエハー(左)とセンサーチップ(右)。CT診断装置に応用し、被ばく量の低減や、低ノイズ化とともに、高精細画像を得られるという
-
テラヘルツイメージングシステム。0.1THz~10THzの範囲の電波を使用し、紙やプラスチック、セラミック、木材、繊維などを透過し、内部の様子を見ることができる。被ばく量が少なく、ボディスキャナーや検査装置などの用途が想定されている
新領域の展示としたのが「シナジーの泉」である。
「未来の可能性をともに探求する」をテーマに、4つの産業別グループの枠を超えて新しい領域に活用が可能な技術を紹介した。再生医療への取り組みやがん検査の高度化、宇宙事業への貢献、モビリティ空間を把握する技術などを展示。一部は「テクノロジーサンプル」として紹介した。
-
左がパーソナル3Dディスプレイを目指すビデオシースルータイプ、右が教育やトレーニング、ナビゲーション用途を想定している光学シースルータイプ
-
小型軽量の高精細タイプも用意。より手軽に利用できる提案も行っている
-
キヤノンAIビジョンナビシステム。位置推定ソフト、3次元地図生成ソフト、走行領域認識ソフトを組み合わせて空間把握を行っている
-
室内などを移動するロボットもデモストレーション。ここには、レンズの曲率を操作して広角な視野のなかに、注視領域を自在に設けることができる周囲注視タイプのカメラを2台搭載し、360度の全周囲を把握できる